14話 白々と
まだ生きてる小鬼にとどめを刺し、全員で片付ける。
夜襲を防いだ。
少し疲れた。
眠いかもしれない。
村人たちは全員起きてきていた。
「さっすがマルコの父っつぁん! 元冒険者だけはあるぜ!」
冒険者。
「姉さんすげえな! 大したもんだ!」
私とマルコは讃えられた。
ニコ「とうちゃーん! おつかれとうちゃん! あとただいまぁ!」
マルコ「ウオオニコぉ起きたかぁ! おらああああジョリジョリジョリィィ」
「やあだああああ! くすぐったい! キャハハハハ!」
マルコが髭でニコを攻撃している。
男たち「現役じゃねえかよ」「なあ、なんで街から帰っちまったんだか」「見たかよあの旋風……」
ニコの父親はどうやら元々街で冒険者という、戦いを生業とする者だったようだ。
もうすぐ夜明けだろうか、向こうの空がかすかに明るくなっている。
私は変化、変異? した二体を調べていた。
「こいつっす」
夜警の若者が欠伸をしながら家の玄関から黒い小さなゴブリンを引きずって出て来た。
黒いのは一緒だ。
二つ首と同様、青黒く変色した、通常のゴブリンよりもさらに小さい死骸だ。
変色は全体、主に手足だ。
これも土壇場になったら更に変異するのだろうか?
得物の短剣は鋭く研がれている。
倒したマルコに渡そうとしたら取っとけと拒否されたので、ありがたく使わせてもらう。
ざわ。
男たち「なんだこいつ」「黒いな」
皆もやはりこの変化した奴らに興味があるようだ。
変異した体表の表面部分を斬りめくると、内部も変色している。
更に奥まで切り込んで内部を見てみると、色は濃くなっていた。
内部から変異している。
デカいほうを見上げる。
ちょっと大変そうだな。
女達「終わったのかい?」「やれやれ、これで安心して寝れるねぇ」「でもさあもう夜が明けそうだよ?」「あらやだ」
長老「みんな、こほん、皆よく戦ったぞ、ご苦労やったのう、マルコに、そしてエルフ殿も」
ドサドサァッ。
男たち「「はあ~~」」「終わった」「死ぬかと思ったべ~」「臭えから片づけねえとよぅ」「休んでからなあ」
「嬢ちゃん、来な」
マルコが顎をくいとやる。
なんだろう。
一戦やるのか。
腕試しか何かだろうか。
ちょっと疲れてるんだけどな。
ニコを肩に乗せマルコに連れられ、彼らの家に迎えられた。
私も彼も武装は回収済みだ。
マルコは戦利品はそれぞれ倒した分。
村の分は村人全員で別けて私にもということだったが。
全て断り、村で得ることで構わないと言った。
もう十分もらったからな。
村人達それぞれに礼を言われながら、マルコは手を挙げる。
私も挙げる。
広場を通り、奥へ行く。
火矢が飛んで来た方角寄りの通路だ。
そこを抜けると開けた場所に出た。
左手に畑と、右手に鳥がいて腰までの柵で囲まれている。
中の中央に小屋が建っていた。
「合戦があったからなぁ、起きて興奮してるぞ」
シッシッと手を振り進行上にいる鳥を追い払うマルコ、羽をばたつかせて鳥が走り去る。
「コッコーッ」「オコッコ!」
鳥、鶏か、それの歩く庭を横切り、ぽつんと立つ小屋に入る。
「おぅ。遠慮せんで入れや」
「わかった」
遠慮……とはなんだっただろうか?
「ただいまー!」
入口に背嚢や武器を立てかけ二人の家に入る。
ニコ「ねえちゃんおじゃましますっていうんだよ?」
「おじゃまします」
一部屋で、寝台が三つ、一つは荷物が置かれ使われてないようだが。
マルコが今片付けている。
「二人暮らしなのか?」
スン……二人以外に、女性の匂いが微かにするが。
ニコ「そだよー」
マルコ「おぅ、まぁ座れや」
ドカッ。
「あ~しんどかったぜぇ」
マルコは壁際の寝台に座り込む。なぜか濡れている。
彼は最初来た時濡れてたな。
「おつかれさまーねえちゃん」
マルコが水の入れた杯を卓に置いた。
「ふむ」
向かいに小型の木の卓と椅子が三つある。一つは本が積まれて埋まってる。
それぞれの椅子にニコと座る。
ドン。
と酒瓶をマルコが奥から持ち出し置いた。
「おめぇもやるだろ――いや……うん? あー、悪ぃ、どっちなんだろうな?
おめぇ酒飲めるのか? いや、飲める年なのか?」
「わからない」
「だろうな、まぁほんの少しぐらい景気づけにいっとくか、戦ったしな。戦士は酒で戦いの穢れを流し落とすもんだからな! っつっても今の俺ぁただの木こりの親父だけどな! ガハハハ!」
「ほう、頂こう」
「ぼくもすこしだけ『だめに決まってんだろおめえは』んもおー!」
マルコは杯を持ち寄り、片方には少し、片方には並々と注いだ。
葡萄、酒、だろうか。
ニコは自分で持ってきていた水だ。縁をかしかししながらこっちを睨んでいる。こぼれるぞ?
「乾杯だ!」
「乾、杯」
「かんぱーい」
ふむ、街道で手に入れた物とほぼ同じ酒だな。
傷を洗う時に舐めてみていたのだ。
うまい。
「穢れが流れ落ちただろうか」
「ガハハハハ! 落ちたとも! おめぇはホント見た目と違って中身は全く別の、武人か何かだな!」
「ぷはぁ~、……なんだか冒険者組合にいた頃を思い出すなぁ。俺ぁ腕っぷしのイイ奴は好きだぜ! おめぇみてえな猛者がゴロゴロしてたなぁ、ガハハハ」
「ほう?」
冒険者くみあいか。
良いことを聞いたな。
ボォンッ! ポッポー!
「!?」
なんだ?
突然、壁にかけてある時計、そうだ、時計だ。
音を出してそれと共に時計の上部分の窓が開き、中から小さな鳥が出て来て鳴いた。
だが本物ではないな。
「うおうおう、大丈夫だ落ち着け! 座れ。ただの鳩時計だ」
「鳩時計?」
よく見ると後ろに棒が付いていた。
何回か鳴いて引っ込んでいった。
ニコ「ポッポー」
ほう?
「中にからくり、仕掛けがあってな? 決まった時間になっと動き出すのさ。昔“王都”で買った土産さ……」
王都? 土産? からくり? 時刻?
懐かしそうに見上げて笑っている。
ニコ「ふーん」
「……時計、時間か、時刻……今は一、二、三……六時刻か」
「六時な。そうそう、そういうのはなんとか覚えてるみてぇだな、ゴク、ぷはぁ」
色々と記憶について話したり、親子のことを聞いたりしてすごした。
「……いや、人族ってのは夜目は強くねえんだよ……あと、黒いゴブなんて俺だって見たのは初めてさ……あぁ、酒ってのは……庭にいたのは魔物じゃねえ、鳥だよ、鶏、勝手に締めんなよ? 卵産むんだからよ……卵? 卵ってのはなぁ……」
おう、これ食えよ。
もう一杯行くか? と夜食の残りや出来合いの種等をつまみひと時を過ごした。
ニコはマルコの胡坐の中に丸まって寝た。
――――
ボーン、ポッポー、ポッポー。
ハッ。
寝ていたようだ。
鳩時計の針と、マルコがなにかうるさくしている。
二人共ちょっと動いたくらいで起きたりしてない。
慣れてるのだろうか。
寝るのが遅かったからか? 音も響きの感じ、あんまり大きくはないしな。
時刻は八時だな。
あれがズレたりしてなければ。
窓を見ると明るい。
外から鳥の声が微かに聞こえる。
あの作り物の鳩と、庭の鳥は、種類が違うみたいだな……。
起き上がる。
肩を見てみると傷がすっかり治っていた。
足の裏も。
頬もとっくにだ。
マルコとニコは大の字になって一緒に寝ている。
ズゴゴゴゴォーー……。
顔が赤く変化しているマルコは、呼吸をする度に吠えるような音を出していて耳障りだ。鳩時計よりうるさい。
確か、いびき、というやつだろうか。
病……病気の一つ? だった気がする。
酔い潰れている。
卓の下に空の酒瓶が転がっている。
私は酔うほど飲んではいない、はずだ。
窓の外が白んだ頃合いに隣の使われてない寝台を借りたので、数刻しか横になっていないと思う。
あまり寝ていない気がするが、二人程疲れていなかった気がする。
むしろ、寝る前より調子が良いな……。
酒を飲んでいる時の余興で短剣や戦斧を投げ合って勝負した跡が玄関の扉にたくさん刺さっていた。
その向こう側から近づく者のなんだこりゃあと声がする。
訪問者か。
コンコン。
「あっぶねぇなこの扉は、刃だらけじゃねーですか、開けづらいったらない、すいやせーん、マルコのとっつぁん、エルフの姉さん、村長が読んでまさぁ」
確か、夜警の青年だな。
良く戦った。
「うお酒臭ぇっ、相変わらずだなやこの家は……あ、姉さん、おはようごぜえますだ。てかいっぱいまで開かねぇどこの扉!」
メキバキッ。
壊れてるな。
「おはよう」
ゴン、マルコの頭を蹴る。
寝相が悪く丁度寝台から頭だけ飛び出ていた。
崖でホブゴブリンが落ちかけていた時のことを思い出した。
「起きろマルコ、村長が呼んでいるそうだ」
「んん~……頭がいっってぇ~……飲み過ぎたぁ……うぅ、頭ぁぶつけちまったか、瘤ができてやがる」
茫然とする若者。
ついさっきまで全く起きなかったマルコの頭を何度か蹴っていたからだろう。
どうやら彼は一度寝るとなかなか起きないようだ。
蹴りは段々と強くなり起きるまで続いた。
ニコはまだねてるから! と言って難しい顔をして、寝返りをして向こうを向いて寝続けた。
私はとっくに支度を終えている。
扉の武器は全て抜いた。
パラパラ……。
扉は風穴だらけだ。
コッコッコッ。
ズシャッ。
マルコ「うう~、なんだってんだよおい、ゴブじゃねえんだろぉ? ふわぁ~~ったぅ」
「ああ」
匂いや音の感じだと、いない。人はいる。
広場に重した者達が集まっていた。
横を見ると、戦いのあった道は小鬼の血痕などは残っているものの片付けられ、奥の向こうの柵は男たちが塞いでいる最中だ。
見かけたことのない村人「なんだあの娘っ子!?」「エ、エルフだっ!?」
昨夜の騒ぎで家に引っ込んでいたらしき村人が、初めて私を見て驚いていた。
朝飯なのか、夫人達が鍋を煮ている。
広場でこうするのが個々のやり方なのか。
「ひっひっひっ」
同じ場所に同じ老婆が鍋を混ぜている。寝たのか?
茶が配られる。
いい感じの大きい切り株に村長が座っている。
「皆、マルコ、そしてエルフの戦士殿、昨日はごくろうさんじゃった。さて、これからどうしたもんかのぅ」
「奴らよぅ、どんどん増えてねぇか?」「おちおち外にも出れんねえべ」「薪はどうすんだいや」「畑もだあ」「もういねえんじゃねえか? 大体殺したべ」「ばかこくな、一匹いりゃあ三十匹はいんぞ?」
私はよい香りのする湯気の上る鍋を見つめていた。
マルコ「ズズ……小鬼はまたたくまに増えて暴走を起こす時がある。“王”が現れた時はな。どんどん増えて軍隊を作るんだよ。急いで領主様に、役人や組合に知らせて討伐隊を作らなきゃいかん」
暖かい茶を飲んで彼はきりっとなってそう言った。
私に教えるように。
村人たち「んだんだ」
ゴブリンの王、領主、役人、組合、あぁ、冒険者のか?
あ。
私「街道は待ち伏せされていたぞ」
マルコ「あんだって?」
村長「ほう? ゴブリンがかの?」
村人「あいつらにそんな知恵なんてねえっぺ」
だが実際にそうだった。
詳しく説明する。
村長「……穴に隠れて弩まで使いよるほど知恵を付けてきておるのは、“暴走時と全く同んなじ”じゃのう」
村人「なにぃー?」「まじもんけえ?」
マルコ「親玉が教えてんだよ――村長まずいぜこりゃ」
ビシャッ。
杯の冷えた残りを捨てて言った。
ほう。
それと聞きたいことがたくさん出てきたな。
マルコ「おぅ、勿論、戦えるやつじゃなきゃだめだ。街のこともあるし、まぁ俺だな」
村長「そうじゃの、じゃが一刻の猶予もないし、あと一日保つかもわからんぞい」
「全員で街さ逃げちまう方が早いんでねぇの?」
「ホントだったら今頃皆殺しにあってたんだべ」
「んだ、マルコのとっつぁん一人じゃ無理だったべ」
「そだな無理だったべな」
「うるせぃ! やってやらあ!」
「へへへ、だからもう終わったって、ええからこれ飲め」
酔っ払いが前と同じようにいるな。
「……ゴブリン達はどこからやって来るんだ?」
全員が私とニコがやって来た方角を見るか指し示す。
あぁ。
「お化け穴か」
意見は分かれた。
救援派、殴り込み派、避難派だ。
助けを呼ぶのは時間がかかる。
マルコ曰く、ゴブリンはどんどん増えるそうで、長くはこの村が持ちそうにない。
しかも、呼びに出るとマルコが不在になる。
敵の本拠地を探して王を殺す。
まだ増えきっていない群れを叩けるし、私はいけそうだと思うのだが、穴の中や敵の規模がわからないので、私とマルコが揃って出かけて長いこと帰って来なければ、村が危ない。
避難は村人全員でベイリ村を放棄し街に逃げ、救援を呼ぶ道だ。
移動が遅いため犠牲者が出るかもしれない。
救援も遅くなるためゴブリンが軍団を形成するかもしれない。
そして被害が増大するかもしれない。
放棄した村も荒らされ、再建に多大な労力? がかかるそうだ。
その先にあるのは村人達が路頭に迷い、生きるも地獄だという。
私をきれいに拭いてくれた女達は、森で生きるのは難しそうに見えたな……。
ちなみに私とマルコは絶対に村に必要な戦力で、生命線とやらなんだそうだ。
マルコがニコを探しまわって留守の間、村人たちはゴブリン小の数体の襲撃をなんとか追い払うことしかできなかったそうだ。
怪我もこしらえて。
それだけ平和な村だったのだ。
異常事態がこの地に起きていた。
重要なのは速さだった。
小鬼の異常な増殖への早急な対処であった。
どうやら意見はまとまらないようだ。
ふむ。
「世話になった。私は村を出る」
紛糾して揉める喧噪の中、エルフの娘はそう静かに言った。
彼女を引き留める者、臆病者と呼ぶものもいた。
出ていきたければ出ていけばいい、部外者、よそ者と罵る者もいた。
そもそも、夜中の戦いはすぐに片付き、騒ぎに遅れて叩き起こされたり、そのまま戸を塞ぎ家を守っていたりした村人達の大体が、彼女を知りもしなかったのだ。
ゴブリンの死骸の山を見て村人全員で一つになって撃退した。
彼らはそう思っていたのであった。
まさかそのほとんどを、村人でもないエルフの華奢な小娘が、率先して先頭で戦ったことを見てないものは信じないだろう。
全てが聞こえていないかのように、無視するかのように、淡々と準備を終え門へ向かうエルフの娘。
しかし一部の女達は彼女に心ばかりのお礼と言って食料を手渡す。
ありがとうと、道中の無事をと。
マルコは娘を意味深に睨みつけていた。
だが動けなかった。
彼は既にさすらう冒険者ではないからだ。
門が締まる際、振り向いた娘はこう答えたのを幾人が聞き取った。
「私はエルフの姉さんではない。私の名はルーナだ。大丈夫、きっとみんな助かる」
――――
月が消え、日が昇ろうと空白む前、とある小屋でこんな会話があった。
嫁さんも冒険者でな。
せがれを産んでよ、俺のマルコと、あいつの名を一文字ずつ取って、ニコと名付けた。
その後あいつは、ニルーナはすぐ逝っちまった。
おめえにくれてやったあいつの服も、似合ってるな嬢ちゃん。
ついでにあいつの残った名前も持ってってくれねぇか。
“ルーナ”ってんだ。
――――
ルーナは走った。
さっさと行って全部殺せば話は収まる。
目的地はお化け穴。
その奥底の怪異しかその竜瞳は見つめていなかった。
読んでくださりありがとうございます。




