12話 夜警
ドンドンッ。
マルコさん! マルコさん!
ドンドンッ。
「~~むにゃ~~……」
ギイィ、バタ、カラアン、もう、掃除してよ! ゴソ、チャプ、バシャアッ!
「なんだあ!?」
ガバッ!
隣近所のミリアの嬢ちゃんにいきなり水をぶっかけられ起こされた。
なんでもべらぼうに強ぇ傭兵の女がニコをゴブリン共から助けてくれ、今帰って来たそうだ。
ニコが遊んでた小川の反対側に小鬼共の足跡を見つけてからは、そっから朝っぱらから一日中、森ん中を小鬼共をぶった斬りながら探し回ってた。
あっという間に夜中になっちまって、一旦帰ってきたがまだ見つかってねぇ。
そんでとりあえず飯食って仮眠を取ってたらその話だ。
すっ飛んで行ってみたら、どえらいべっぴんの、いやナイフみてぇな切れそうなエルフの女がいた。
エルフの女だぞ。
珍しいなんてもんじゃねえ。
しかもいきなり攻撃された。
俺ぁよく誤解されっからなあ。
と思ってた。
――――
マルコという、ニコの父親らしき大男「うおっとっと! っいきなり何しやがるてめえ!」
「……」
マルコ「おおあんだぁ!?」
驚く一同を見もくれずエルフの娘はニコ父の眼前に走り、上空を見た。
来る。
村人たちも彼女の視線を追う。
星が動く、流星か、違う。
こっちに落下してくるように飛来してきた。
ヒュン――パシッ。
エルフの娘は高速で飛んで来た火矢を、いとも簡単につかみ取った。
一同「うおお!?」「火矢?」
メラメラメラ……。
火矢が落ちて来た場所は、マルコに丁度当たる位置だった。
マルコ「す、すまん! 助かったぜ! じょ、嬢ちゃん、それちょっと近づけて見せてくれ。スン……まじか、獣脂の臭いだなこりゃ……ゴブ共が火攻めをしてきたってことか!?」
唖然とする村人たちが見守る中、エルフの娘は矢じりが燃え盛る火矢を持ったま、スタスタと自分の荷物から弓を取り出すや否や近くの家の屋根に軽快に飛び乗り、矢の飛んで来た方の柵の上に乗った。
そして少し見回した後、外に向かって火矢を打ち返した。
耳を澄ますとすぐ後に小鬼の悲鳴が聞こえた。
「す、すすすげええ!嬢ちゃんすげえぞおー!」
「うおーー!」
マルコ「お!おい! 静かにしろっ嬢ちゃんがなんか言ってる」
「八、九……十二匹、小鬼が襲ってきたぞ!」
矢筒と弩を持って柵の上から減らそうとしてみたが、逃げ回って森に引っ込んでいった。
柵の向こうに十。
――マルコの視点――
俺はこう見えても元冒険者だ。
だがあんなマネするエルフは見たことねぇ。
ぶっきらぼうなんだか記憶喪失なんだかよくわからなぇが、ありゃあ経験のあるやつの考え方な気がする。
小鬼共の数や構成を夜目で見た限りだが伝えるだけ伝えて、ちょっと散歩してくるみたいなノリで外に出ようとしやがったんで慌てて止めた。
俺達も協力するってな。
嬢ちゃん「安心しろ、少しだけ削ってすぐ戻ってくるだけだ。その時に鎧は着る」
「ちげえよ鎧の心配じゃねえから。俺達にも手伝わせてくれ」
「ああ……では共に戦おう」
嬢ちゃんは俺の腰に下げた戦斧をチラっと見て答えた。
しっかし鋭い目だなおい、俺の知ってるエルフの瞳じゃねえ、ハーフか?
村人達には家の中に非難させる。
男は息子との再会を喜んだが、この騒ぎでも起きない為、まとまって近くの家に非難する村人達に面倒を頼む。
束の間抱えるニコはぐっすり寝ていた。
は~~、よく生きててくれたな坊主……。
――――
外に出る人数は夜警長のグラハム、部下のミハイル、サム、起きてきたニコ父マルコ。
他に起きてきた男達が六名ほどだが、ほぼ全員けがをしていた。
やはり戦えそうな夜警達とニコ父と私の編成で行くことにした。
他は村製の弓矢と提供した弩で柵の中から援護してもらう。
私たちは村から出る。
「……柵より長い槍があれば守れそうだな」
マルコ「そうなんだよ、(作る)時間が取れなかったぜ」
彼曰く、材木を得ようと外に出ても殺しても殺しても何度も寄って来る斥候に見つかり邪魔されるそうだ。
そして、男達の一人が言うことには、元々常備していた長槍は、ずいぶん小鬼を見かけなくなって、古くなったのもあってつい前に、薪にしてしまっていたそうだ。
「位置はわかるから回り込むように近づく、しゃべるときは小声にしてくれ」
マルコ「了解、嬢ちゃん、名前は何て言うんだっけな?」
村人達「マルコのとっつぁん、ないんだってよ」「ないんだって」
「うるせぃ! 静かにしろっ……何だよないって?」
「静かにしろ」
門からそっと出て(門の周囲にはいないのを確かめた)襲撃してきた所から離れた森に入り、後ろ側へ回り込めるように進んだ。
少し先に数匹潜んでいた。
火矢を射かけてきた主な集団はまだ向こうだ。
今のところ小鬼たちはバラバラになって森の中にいる。
(すぐ手前に何匹かいるから行ってくる)
マルコ(あ、ちょっ、待てこらっ)
そう言って藪の間を縫うように屈みながら進む。
ズグッ。
柵の方を見て隠れている二匹を立て続けに短剣で暗殺した。
死骸が落とした鉈が音を立てないよう空中でつかみ取る。
カサッ。
もう一匹は小袋しか持ってなかった。
ゴソ……。
中にぬるぬるした、獣脂が入っている。
(戻ったぞ)
一同 ((うわぁっ))
マルコ(うおおびっくりした! 嬢ちゃんホントに夜目が効くんだな)
⦅おっどれぇたぜ、しかもよぅ、まるで音を立てなかったぞこの嬢ちゃん⦆
夜警三人衆とマルコが驚く。
他は合図をしたら柵の上から援護するように言ってある。
背後から柵の方に追い込むつもりだ。
そろそろと夜の森の中を進むと、八――いや今合流して十匹が、空き地に集まっていた。
こちらから見て右手の村の柵を群れは眺めながら何かしゃべりながら、数匹が別の小鬼の持つ袋の中に矢じりを突っ込んでいる。
こちらには村人から借りた矢が十本ある。
自前のを含めて十四本。
あと二つ持ってきた弓をつがえる夜警長とマルコ。
私は左に回り込んで先に奇襲をかけさせてもらった。
樹の上に素早くかけ跳び上がり、狙撃しやすい箇所に陣取る。
いつの間にか、慣れたからなのか、弓を構え両手が塞がった状態で木登りができていた。
男A(ひゃ~木登りうめぇなぁ……)
男B(あれ? 両手塞がってなかったか今? 見間違えかな?)
マルコ「……(いや、見間違いじゃねぇよ)」
そして、指をうまく使い、何本もの矢を指の間に挟み、狙いを付けて、連射した。
頭部はまだ難しい、狙いやすい胴体を、瞬時に四匹に撃ち込んだ、残六。
ゴブリンたち「「フゲエ!?」」
タイミングよく右手の藪の奥から二人の射撃が狼狽する群れに奇襲をかけた。
マルコが二匹同時を貫通させ、夜警長が一匹の肩に命中した、残四。
「「ギャイヤアアアア!」」「アベバグ」「ニゲロギャ!」
私は更に追撃するも、二匹を仕留めただけで後は悲鳴を上げて散り散りになっていく、残二。
恐慌状態で一匹がマルコの方に逃げていった。
肩を抑えてよろめいているのや、まだ元気なやつに私は飛び降りながら、両手それぞれに持った短剣を投げて仕留めた。
ズコンッ。
藪の奥から突如投擲された戦斧に顔をうずめた小鬼が飛んで戻ってきて、そのまま向こうの木の幹に食い込んだ。
頭が両断された小鬼が地面にズリ落ちた。
投げた笑っているマルコと目が合う。
頷いて私はすぐさま移動するが、妙なことに私を見ていない気がする。
……見えてないのか?
ニコもそうだが、この男達も、夜目が効かないみたいだな。
ひょっとして人族だけなのか?
瀕死の数匹を私は剣鉈でとどめを刺した。
今回は雑兵だけだったか……。
マルコ「これで全部か!?」
「うひょーやったぜ! 大したもんだぁやったな嬢ちゃん!」
「ひょえぇ~~あっという間に何十匹も……」
マルコ「一人も怪我人が出なくて良かったぜ」
「……?」
何か、騒がしい音がするな。
なんだか……小鬼にたくさん囲まれているような感じが……収まらない。
「……ん? なんか村が騒がしくないっすか?」
と夜警達。
村の方から騒ぎの声が聞こえる。
妙だ。
おーい!
向こうに小さく見える、柵の上に待機していた弩を持つ男たちの一人が手を振っているのが見えた。
「おーい! 反対側からゴブリンが来たぞお!」
私達「「!」」
――少し前、村娘ミリア――
今日はほんとに大変な一日。
最近ゴブリンがよく出てくるようになってきたから気ぃ付けてたんだけど、朝小川で遊んでいたニコがいなくなちゃった。
よりによってマルコおじさんが激怒して探しに飛び出してった後にゴブリン達が村を襲ってきた。
男連中が何人か怪我しちゃったけどなんとか追い返してた。
まさか、ゴブリンの暴走じゃないかな、おばさん達が噂してる。
前に会ったのは私が生まれる前の話でしょそれ?
下手すると村なんて簡単に消えちゃうって……。
夜遅くになってようやくマルコさんが緑の血まみれになって帰って来たけど、ニコは連れてなかった。
うちらも探したけど、見つかんなかったの……。
もう、だめなのかな? 会えないのかな? 涙が出てきちゃう。
疲れ果てたおじさんが休んだ後、夜警当番の人たちに夜食を作って運んで来た時、またゴブリン達が来て騒いでいた。
他の男達も起こすかって相談してたその後だったわ。
あっという間に全部やっつけて、魔物オオカミがいきなり襲い掛かって入って来たのも、あっという間にやっつけちゃった。
最初は怖くて、その後話してみるととってもへんてこで、ニコったらすごく懐いちゃってるのがおかしくて、ちょっと妬けちゃう。
すっっっごく奇麗なエルフの女の子。
あたいと同い年くらいかな?
でも、長寿な種族だって村長が言ってたから、年上なのかも?
いきなり裸になろうとしたのはびっくりしちゃった。
私まで赤くなっちゃう。
う~ん、そういうお国柄の人なのかな?
お母さん達が引きずって家に押し込んで、体を拭いて髪を鋤いて、村の服を着せて、出来上がったご飯を食べに来たときは、私も顔が真っ赤になっちゃうくらい素敵だった。
最初はおびえて槍を向けてたお兄さんたちは照れちゃってる。
話を聞くとすっごくへんてこなの。
何てんだろ。
なんだか普通じゃないしゃべり方。
堅苦しいって言うか、ぶっきらぼうって言うか、山奥にずっとこもってて、人馴れしてない感じって言うのかな?
一部の狩人さん達みたいな。
あの気味の悪い石丘の、ありもしない棺で目が覚めたって長老と話してる。
倒れてる岩柱のことじゃなくて? 棺ぃ?
嘘でしょ?
冗談言う人には見えないし、ホントのことか、見たことしか言わないって感じだから……ホントってこと?
なんだか人間離れしてて、まるで神話の“天女”様みたい。
でもご飯食べながら寝ちゃったニコを見る目がすごく優しいの。
それであぁ、この人はニコを助けて連れ帰って来て、村を襲うゴブリンも倒してくれた恩人なんだなって思ったの。
でも、あんなおっきな魔狼を仕留めたなんて、まだちょっと信じられないのよね。
ただの普通の、もう引退しちゃったけど、マルコおじさんとニルーナおばさんみたいな、冒険者と同じだって。
いや、この子は普通じゃないわね。
でもだったらそれって、まるでおとぎ話の英雄みたいじゃない?
それで団らんしてたらゴブリンが火矢を撃ち込んできた。
ありえない!
あいつらそんな頭良かったっけ?
柵の上に弩を持って待機するのは怪我がひどいのと若いからって待機になった若い男の人達。
でもその前にエルフの子がすぐにやり返しちゃうの、ピョンピョン、ピュンって!
屋根にテテテッて、あんなに簡単に昇っちゃうの!?
まるで葉っぱみたいに軽いのかな。
十二匹も来てるって叫んでた。
嘘でしょ?
軍隊じゃない……。
お母さん達ももう終わりって感じに悲鳴を上げちゃってる。
そしたらすぐに、エルフの子ったらマルコおじさんと夜警番だったお父さん達と倒しに走って行っちゃった。
あれ?
あの子が隊長みたいに引っ張ってったけど。
閉められる門。
大丈夫かなぁお父ちゃん……。
「飛んでくる矢に気を付けるんじゃ、こりゃ! 早く家に入りなさい!」
杖を振り回して怖い顔で村長が指示を出してる。
あれ固くて痛ったいからやめてほしい。
昨日までよぼよぼだったのに昔を思い出しちゃったのかしら。
マルコおじさんの次くらいに強かったのよね。
昔は。
「むにゃ、まだたべる!」
グズるニコを抱きかかえておばさん達と一緒に家に入るときだった。
騒ぎと反対側の、後ろの方の柵が倒れる音がしたの。
その後村中に響き渡る叫び声。
家の中なのにびっくりして耳を塞ぐくらい大きいの。
身体が芯から怖くて震える感じ。
正直、私ちょっと漏らしちゃった。
あぁもう皆食べられちゃうんだなって絶望したわ。
でも、そうはならなかった。
――――
破壊音が響く。
何人もの悲鳴が聞こえる。
金属のかち合う音も。
「先に行く!」
マルコ「あ待て! ……いや! 頼む!!」
走った。
マルコ「すぐ追いつくからな! 行くぞてめぇら――…………」
タタタッ。
回り込むか、いや。
助走をつけて柵から一番近い樹に駆け上り、枝をしならせ、飛んだ。
ダンッ!
柵の天辺を片足で蹴りさらに飛ぶ。
ギシッ!
その裏側にある上り台から騒ぎの方へ行こうと、駆け降りている途中の弩や弓を持った男達が、驚いてその様を見上げていた。
柵を足場にしてさらに飛び、村の屋根に着地する。
メキッ。
体重をうまく移動し、着地の衝撃を弱め、転がって、更に飛んだ。
別の屋根へ伝って。
反対側の柵へと。
壊されて侵入していた。
デカいのがいる。
たどり着いた。
屋根の一番高い煙突を蹴り上げる。
ガラッ。
煙突のレンガ? がひび割れた。
ヒュウ~~……。
かなりの高さを跳び上がり、剣鉈をホブゴブリンの肩口へ叩き込む。
ズドオオオン!
片手を包帯で巻き、小剣でホブゴブリンの剣を受けるも、押し負け倒れこみ、とどめを刺されようとする男への攻撃を、ギリギリで防いだ。
ぶった斬ってそのまま、剣鉈が地面にめり込んだ。
男「うおおおお!?」
村人たち「「何だ!?」」
土煙が巻き上がる。
ビシャアアアッ!
右肩から真っ二つに両断した。
ホブゴブリンの巨体が臓物をズリ落としながら汚くまき散らされ落ちた。
むっ、抜けにくい。
左から敵が迫る。
しゃがみこんでホブが落とした剣を掴むと同時に、斬りこんでくる敵を躱し、すれ違うように切り裂く。
腹を裂かれて倒れる中型ゴブ。
拾った剣は幅広の中型の剣だった。
使い勝手が良い。
そうこうしているうちに突っ込んきた小二匹を切り捨てた。
村の柵、丸太が何本も根元から倒されていた。
侵入されたか。
娘「ひ、あ……」村人「嬢ちゃんじゃねえか」「どっから降って来たんだ!?」
「今のうちにホラっ! こっちさどいてろ!」「おい早く槍ぃ持ってこい!」
「みんな下がれ下がれ! いいからそこん家に入って戸ぉ閉じてろお!」
「何やってんだミリアっさっさと立てっての!」
ミリア「ひっ、こっ、こっ、腰が抜けちゃっだぁ~!」
早めに来てよかった。
鍋の娘が襲われるところだった。
そこから村になだれこんできた十五、六の群れ。
間合いや位置取りを見極めつつ、ざっと見た所……。
小十二、中三、大一。
柵と家の路地に逃げ込もうとする一匹に短剣を投げて始末し、小十一。
魔法使いが二匹仲間の背後に隠れてるのは見逃さなかった。
法服がわかりやすい。
柵を壊してきたと思われる大きなホブゴブリン? が奥の壊れた柵の傍に佇んでいた。
なんだあいつは。
頭が横に“もう一つ”生えている。
お互いの頭が溶け合うようにくっついている。
かがり火に照らされた緑のはずの体色は左肩回りから広範囲に青黒く変色してゴツゴツになっている。
堅そうだ。
こいつが柵を壊したのだろうか。
強敵だな。
侵入してきた小鬼達は今の奇襲に恐れおののいている。
でも逃げ去る気はないようだな。
多分、柵のとこにいる親分に殺されたくないのだろう。
村人「あっ、とっつぁん!」
む、男達が来たな。
マルコ達が追い付いたようだ。
「おいおいよくもやってくれやがったなこの腐れゴブリン共ォ! 生きて帰れると思うなよぉ覚悟しやがれ!! ウオオオオオオアアア!!!!」
ビュオオオッ。
すごくマルコが叫んだ。
雄たけびを上げた。
私の後ろでいきなりやるからどきっとしたな。
ふむ、すごい効果だ。
小鬼達がおびえている。
私もやってみよう。
「スゥーー……ガアアアアアアアア!!!!」
バタッ。
ドサッ。
何匹か気絶した、残十三。
マルコ「っ!?」
皆「「!?」」
「……フフフ、グエッヘヘヘヘ! よっしゃああ野郎ども! 嬢ちゃんに負けんなよお! ぶっ殺せええ!!」
「「オオオオオ!!」」
激突が始まった。
読んでくださりありがとうございます。




