第235話「星怜と凰花と冬里と千虹、会議をする」
──北臨にて──
「みんなに伝えたいことがあるんだ」
ここは、北臨にある凰花の屋敷だ。
部屋には星怜と冬里、それに千虹が集まっている。
天芳を助ける少女たち『天助会』の会合だった。
「僕の故郷……奏真国から連絡があったんだよ。使者が、この北臨に来るみたい」
凰花は皆を見回しながら、告げた。
「使者は藍河国の王さまに謁見したあとで、僕のところに来るそうだよ。そのときに、滴山の調査の許可について聞いてみるね」
「お願いします。凰花さま」
答えたのは星怜だった。
『天助会』の少女たちは、天芳のために滴山の調査をするつもりでいる。
滴山は仰雲が仙人をめざして入山した場所で、神仙の手がかりがあると考えられている場所だからだ。
天芳は機会を見て、滴山に向かおうとしている。
星怜たち『天助会』は、その事前調査をするつもりなのだ。
「ただ、使者が来るとなると、僕は応接の手伝いをしないといけない。すぐに動くことはできないのが残念だね」
「実はわたしも、夕璃さまからお仕事を頼まれているのです」
星怜はうなずいた。
「お仕事は応接のお手伝いですから、奏真国の使者に関係することだと思います。ですから、わたしが動けるのも、それが終わってからになります。使者の件は、夕璃さまにとっても突然のお話で、おどろかれていたようですけれど……」
「夕璃さまもそうなんだ。僕も突然の話で、びっくりしたんだよ」
凰花は首をかしげて、
「先日、紫水姉さんが藍河国に来たばかりだからね。どうしてまた急に、こんなことになったんだろうね……」
「わかりません。ただ、わたしは千虹さまにお願いがあるんです」
星怜が千虹を見た。
「ふぇっ!? え、あれ? 虹にご用ですか?」
話を振られたことに気づいた千虹が飛び上がる。
千虹はお茶を飲みながら、凰花の部屋を見回していた。
奏真国風の服や家具がめずらしかったのだろう。
「は、はい。なんでもおっしゃってくださいです。星怜さまのお役に立つことは、ひいては芳さまのお役に立つことでもありますから。芳さまのためなら、虹はなんでもするです!」
「……ありがとうございます」
複雑な表情で礼をする星怜。
それから、彼女は姿勢を正して、
「千虹さまには、礼儀作法の指導をお願いしたいんです」
「わかりました。虹がお手伝いするです!」
「奏真国のお客さま相手ですから、本当は凰花さまにお願いしたいのですけれど……」
「僕は、使者の相手をしなきゃいけないからね。ごめんね」
「構いません。それで、凰花さまと千虹さまにうかがいたいのですが──」
星怜は、凰花と千虹を見た。
「おふたりは……奏真国に伝わるという玉璧について、なにかご存じないでしょうか?」
星怜は、両の手の平をそろえて、掲げてみせた。
まるでその手の中に、祭具があるかのようだった。
「詳しいことはわかりません。ただ、そういうものがあるそうです。奏真国出身の凰花さまや、書物をたくさん読んでいらっしゃる千虹さまなら、ご存じかと思ったのですが……」
「奏真国に玉璧があることは知っているよ」
答えたのは凰花だった。
「でも、どんなものかは知らない。たぶん、お父さまが管理していると思うけど……」
「虹も、そういうものがあるという話しか、聞いたことがないのです」
「そうですか……」
星怜は顎に手を当てて、うつむく。
「実は、夕璃さまから『奏真国に伝わる玉璧』のことを聞かれたのです。理由はわかりません。ただ、前もって知っておきたいそうで……」
「もしかすると……『王命の玉璧』ではないでしょうか」
不意に、冬里が口を開いた。
彼女はじっと座ったまま、星怜たちの話を聞いていた。
口を挟まなかったのは、遍歴医見習いとしての職業病のようなものだろう。
遍歴医にとって、人の話を聞くのは大切なことだ。
患者にたくさん話をさせれば、言葉の中から、症状や病の原因を特定することができる。
その手伝いをしてきた冬里には、落ち着いて話を聞く癖がついているのだった。
だから冬里は、星怜、凰花、千虹を順番に見回して、
「以前、お母さまと一緒に奏真国を旅していたときに、そういうものの話を聞いたことがあります。王にふさわしいものが手にすると、ほのかに光を放つ玉璧だそうです」
それは、玄秋翼がとある人物を治療しているときに、聞いた話だ。
おそらくは昔話か、伝承のようなものなのだろう。
昔々、とある老人が、山の中できれいな石を見つけて、王に献上した。
けれど、王にはそれが玉であることがわからなかった。
老人は放浪しながら、各地の王に、その石を献上し続けた。
五人目の王が石を手にしたとき、それはほのかな光を放った。
王はそれが玉であると認め、老人にたくさんの褒美を渡した。
王の命令により石は磨かれて、玉璧となった。
その後、玉壁は各地を転々として、どこかの王の手に流れ着いた。
──冬里が聞いたのは、そんな伝承だった。
「星怜さまがおっしゃっているのは、その『王命の玉璧』のことではないでしょうか」
「仮にそうだとすると……すごく面倒な代物だよね。その玉璧って」
凰花は腕組みをしながら、うなずいた。
「だって、王にふさわしいものが手にすると光を放つんだよね? ということは……王さまが手にしても光らなかったら、その人には王にふさわしくないってことになっちゃう。そんなの、こわくて触れないよ。宝物庫の一番奥にしまっておくしかないよ」
「あの……凰花さま。星怜さま。それに冬里さま」
千虹が、おずおず、と声をあげた。
「みなさまのお話をまとめると、奏真国の使者は……その『王命の玉璧』を持って、この国にやってくるのではないですか?」
そんな言葉を口にした千虹は、深呼吸してから、
「奏真国の使者は……凰花さまがおどろくほど突然に、藍河国にやってくることになっているです。ということは、藍河国の誰かが、その玉壁を見たがっていて、そのために奏真国に働きかけたと考えるべきではないでしょうか?」
「う、うん。そうかもしれない」
凰花は答えた。
「奏真国の使者は紫水姉さまと、僕の異母兄のひとりだ。奏真国の秘宝を運ぶなら、嫡出の王族が選ばれるのは当然のことだよね。だとしたら、誰が『王命の玉壁』を見たがっているんだろう……?」
「そこまではわからないのです。このことは芳さまにお伝えするべきだと思うのです!!」
千虹は小さな身体で、精一杯の声をあげた。
「虹は一連の流れに、なにか不穏なものを感じるのです。できるだけ早く芳さまに情報をお伝えして、判断をあおぐべきだと思うのです!!」
「うん。千虹くんの言うとおりだ」
「わたしも賛成です」
「冬里も異論はないのです」
「ありがとうございます。それで、どなたが報告に行くかですが……」
「「「くじ引きを (しましょう) (しようね) (いたしましょう)」」」
「……はい」
こうして『天助会』の少女たちは、くじ引きの準備をはじめて──
全員がくじを引いたところで、星怜と凰花と千虹には仕事があることを思い出し──
自由に動けるのは冬里ひとりだということで、全員が納得して──
「……よろしくお願いします。冬里さま」
「……天芳を頼むよ。冬里くん」
「芳さまをお願いするのです!!」
「承知いたしました。冬里は全力で、天芳さまのもとへ向かいます!」
みんなの期待を背負った冬里は、梨壇の町に向かうことになったのだった。




