思い出の1枚
「みんな〜、テントも片付けるよ〜」
海から戻った僕たちは、みんなでテントなどの片付けに入る。これでこのキャンプも終わりかと思うと寂しくなってくる。
「また来ようね」
僕が後ろを振り向くと莉夜がいた。彼女も少し寂しそうな顔をしているような気がした。
「みんなとは毎日会えるけど、なんか寂しいな」
僕がそう言うと、莉夜は僕の目の前に来てこう言った。
「またみんなで来ようね」
周りからしたら、普通の一言かもしれない。だが、今の僕にはその一言が嬉しかった。また次がある。そう思えるだけで、僕の心から寂しさが少し消えた。
僕たちはテントを車に積み、全ての片付けを終え、帰り支度を始める。
僕は帰り支度を済ませ、何か思い出に残るものが欲しいと思い、みんなに尋ねる。
「あの! みんなで写真撮りませんか?」
「お! いいねぇ! そう言えば撮ってなかったね」
りっちゃんが僕の意見に便乗する。
そして、他のみんなにも異論は無く、僕たちは写真の撮れるスペースまで少しばかり移動した。
「よし、みんな準備オーケー? 撮るよ〜」
塩川さんがカメラを設置し、シャッタータイマーを10秒に設定する。
「塩川さん、急いでこっちに!」
りっちゃんが急いでシャッターが切られる前に塩川さんを所定の位置につかせる。
その数秒後、カメラのライトが勢い良く点滅し始め──
パシャ
カメラのシャッターが切られた。
写真を撮り終え、塩川さんがちゃんと撮れているか確認する。
「お! いい感じに撮れてるじゃん! 現像したらみんなに渡すね〜」
思い出の写真を撮り終えた僕たちは、車に乗り込み、シェアハウスへと向かう。
みんな疲れていたのか、特に席の奪い合いも起きず、すぐに爆睡してしまった。
そして、僕は何故か苺の隣に座っていた。
運転しているりっちゃん以外が寝ているのを確認した苺は、僕の肩を叩いて、小さな声で僕を呼ぶ。
「ねぇ、新、ちょっといい?」
「うん、大丈夫だよ」
僕は二つ返事で了承するが、まさかこの後、苺からあんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。
「今日、私の家に泊まらない?」
僕は驚きのあまり声が裏返る。
「え?」
「どうせ明日も休みなんだし、いいでしょ?」
「で、でも、なんで?」
「うちのお母さんが新に会いたいんだって」
「え? 苺のお母さんが?」
「うん、なんか新のこと知ってるって言ってた。詳しいことを聞いても教えてくれないのよ。でも、新を連れてきた時に教えるって」
苺のお母さんが僕のことを知ってる? どういうことなのか全く理解できなかったが、さすがに断るのは申し訳ない気がしたので、僕は苺の家に泊まることにしたのだった。
僕は苺のお母さんが何故僕のことを知っているのかをずっと考え、答えが出る前にシェアハウスに着いた。
「みんな着いたよ〜、荷物持って降りて〜、苺ちゃんは乗ってて大丈夫だからね、家まで送るから」
「はい、ありがとうございます!」
苺が一時間後にシェアハウスに僕を迎えにくることになり、苺はりっちゃんの運転で家へと帰って行った。
そして、僕は1時間で風呂に入り、着替え、泊まる準備をし、りっちゃんは既に帰ってきていたので、りっちゃんに苺の家に泊まりに行くことを伝えた。
「え?! 苺ちゃんの家に泊まりに行く?!」
りっちゃんが思ってた以上の声を出したので、僕は慌ててりっちゃんの口を押さえる。
「しーっ! 声大きすぎ!」
僕が周りに誰もいないか確認し、再びりっちゃんの方を見ると、もう大丈夫だと目配せしてくる。僕はりっちゃんの口元から手を離した。
「ぷはーっ。びっくりしたぁ」
「いや、びっくりしたのはこっちですよ! 急に大きな声出さないでくださいよ」
「いやぁ、ごめんごめん、びっくりしちゃって」
僕は苺の家に泊まることを莉夜には内緒にしておいてもらうように言った。また、勘違いされても困るからね。
「オーケー、わかった。じゃあ新君は健君のとこに泊まりに行ってるって事にしとくね」
「うん、ありがとうございます」
そして、辺りに莉夜がいないことを確認し、玄関へと向かった。
「じゃあ、行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
僕はりっちゃんに見送られながら、シェアハウスを出た。ドアを開けるとそこには既に苺が待っていた。
「じゃあ、行こっか」
「うん……」
「どうしたの?」
「いやぁ、妙に緊張しちゃって」
「安心して、私のお母さんは明るい人だからすぐ仲良くなれるよ!」
僕は緊張しながら歩いているうちに、苺の家に着いた。そして、苺が僕に尋ねる。
「もう大丈夫?」
「うん、大丈夫」
正直に言うと、全然大丈夫じゃない。まだ上京して間もない僕のことを知っている人がいる時点で普通に考えてあり得ないことだ。ましてや、それが友達のお母さんである。緊張しないはずがない。だが、人の家の前でずっと入らずに立ち止まっている訳にもいかない。
「じゃあ、行こっか」
ガチャ
苺がドアを開けると、そこには苺のお母さんらしき人がいたのであった──
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