少年Aの見解
守るために強くなりましたより後のお話。
「兄様はきっと怖いのよ」
夜空を見上げながらそう呟いた姉さんはなんだか俺よりもずっと年上に見えた。
いつもは俺よりずっと子どもっぽいくせにこれが恋の魔力というやつなのだろうか。
そんなことを考えながら言葉の続きをじっと待つ。
「兄様の初恋は兄様が自覚する前に終わってしまったから」
そう言って姉さんは小さく俯いてそっと目を伏せた。
姉さんはずっと兄さんを見てきたから、兄さんだけを見てきたからそんなことまでわかるのだろう。
俺にとってあの事件は確かに悲惨なものだったけれど、それでも兄さんの大切な人がなくなったとしか思っていなかった。
彼女が兄さんにとって俺たち以外の特別だったことは知ってるけどそれがイコールで恋愛感情に結びつくとは今でも思えない。
だけど姉さんの見解は違うらしい。
父さんも母さんも気付かないことに姉さんは気付く。
こと兄さんのことに関してだけは誰よりも何よりも早くその異変に気付いて対処する。
「だから、姉さんは父さんに銃を教わろうと思ったの?」
「ええ」
姉さんは笑った。
とっても哀しそうに、とっても誇らしそうに、とってもとっても泣きたくなる顔で笑った。
「一番初めは可愛い女の子になろうと思ったの。
ずっとずぅっと兄様に守ってもらえるような、お砂糖みたいに甘くてキラキラしてて可愛い女の子になろうと思ったの。
でもね、それは間違いだった。私は強くなくちゃいけないの。
守れる力がなくちゃ、手を伸ばすことさえ許されないことに気がついたから」
父さんから贈られた愛銃を姉さんは優しく撫でる。
あの時は母さんからもジオからも文句を言われた贈り物が、父さんの心が姉さんを支えて守ってる。
「後悔してないの?女の子は可愛くありたいものでしょ?」
あぁ、俺今酷いこと聞いてる。
姉さんが答えにくいような、強がるしかないようなことを聞いてる。
俺が安心したいから。その為だけに姉さんが傷つくことを聞いてる。
「ばかね。
可愛くなんてなくてもいいわ。たくさんの人から愛されなくてもいい。
私は兄様のそばにいられるならなんだっていい。私が欲しいのは兄様だけだから」
「そっか」
「うん」
「兄さんは、」
「まだいいの。まだ、待てるわ。
だけどそのかわり……絶対に諦めたりしない」
その強すぎる瞳に俺はちょっとだけ安心した。いつもの姉さんだ。
それに兄さんなら困った顔で仕方ないな、なんて笑って自分から姉さんに流されちゃう気がするし。




