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悪の組織、暗躍する11

 ぎこちない団欒を終え、両親だけにでも軽く事情を説明しておくかとソファへ移動したところで、上の弟ヨウは当然のようについてきた。


「ヒカリが魔法少女だったってことは知ってる」


 ちなみにハルとコウも全然離れたがらなかったので、Sジェネラル特製完全防音イヤーマフ(わんにゃんバージョン)で耳を覆って会話を聞こえないようにされている。ドクターシノブがヨウにも同じ猫耳をつけようとして、拒否したヨウがそう言い放ったのだった。


「え……聞いたの?」

「別にオヤジとかオフクロとかから聞いたんじゃねー。ちょっと調べて気付いただけだ。時期的にプリンセスウィッチだろ」

「ヨウ、あなたいつの間に」


 お母さんの声も無視して、ヨウは不機嫌そうに腕を組んだ。その目は疑っている様子もない。両親は不安そうな顔になり、ハルとコウは私にギュッと抱きついたまま大人しくしている。ドクターシノブは眼鏡を中指でクイッと上げながら「この私以外に自力で“答え”に辿り着く者がいたとはな……」とか何とか言っていた。


「家が変な感じになったのも、ヒカリが出てったのも、いきなりこんな地下で暮らせって言われたのも全部そのせいなんだろ」

「うん……ごめんなさい」

「魔法少女辞めたのに、なんで狙われるんだよ。何か危ないことやってんじゃねーのかよ」

「そんな、ヒカリ、ほんとなの?」


 ヨウは昔からしっかりしていて勘が良い子供だった。監視がついてギクシャクした頃も不安がって泣いていたし、私が荷造りするのも泣いて引き止めていた。態度はツンケンしているけれど、今もそのまま長男としてしっかり者に育ったようだ。


「いや、別にそんな危ないってほどじゃないんだけど、家族のことを知られてるから」

「これは嘘ですお母さんお父さん。三科ヒカリを危険な目に遭わせたのは私の不徳の致すところ、伏してお詫び申し上げる」

「えっ」

「シノブちゃん?!」


 ソファで私の隣に座っていたドクターシノブが流れるような仕草で華麗に土下座した。額をフローリングに付けたまま微動だにしない。屋内とはいえスーツの汚れを全く気にしない、かなり潔い土下座である。


「私の身勝手な要望を受けて、三科ヒカリはその身を危険に晒した。敵の手に落ちることは免れたが、それでも彼女の体調に支障をきたし万全に回復させるには至ってない。誠に申し訳ありません」


 口調は偉そうなままだけれど、かなり真摯な声音だった。

 確かに、ドクターシノブと出会わなければ研究所について調べることもなかったかもしれない。そう考えると彼に原因がないわけではないかもしれないが、相手の策に気付かず隙を見せたのは私のミスである。それについてこれほど責任を感じているとは思っていなかった。


 深々と頭を下げるドクターシノブに対して、ヨウが動く。慌てて膝に乗っているコウを降ろして振り下ろされそうな足を止めた。


「てめー、ヒカリに何やったんだよ!!」

「ヨウくん、落ち着いて」

「言えよ!!」


 久しぶりに掴んだ弟の腕は、記憶よりも随分大きく逞しくなっていた。

 だがまだ15歳。魔法少女に敵うほどではない。

 振り上げられた片足を横に押すことでバランスを崩し、軸足の膝を軽く押して座らせる。怪我しては可哀想なので、腕を支えてゆっくりと床に誘導した。


「落ち着いて落ち着いて、もともと自分でやろうって決めた結果だからドクターシノブが悪いわけではないから。いや悪い人なんだけど」

「どっちだよ!!」

「私も気になることがあったから、ドクターシノブと協力する形で動いたの。だから全部私の責任でもある。お父さんもお母さんも不自由な思いをさせてごめんなさい」


 ドクターシノブに攻撃しようとしたヨウに腰を浮かしていた両親にも頭を下げると、慌てた空気が伝わってきた。


「あ、謝ることじゃないから、な、お母さん」

「そうよ!! ヒカリ、大丈夫なの? 体調って、どこが悪いの?」


 2人が私の肩に触れて頭を上げさせる。お母さんは心配そうに体のあちこちを撫で、お父さんも顔色を悪くしてこちらを見つめて口を開く。


「もう危ないことはしないと思っていたのに……ヒカリ、ヒカリもしばらくここで暮らせばいいんじゃないか」

「そうよ。引退したんだから、他の魔法少女が守ってくれるんでしょう?」


 両親の目を見返していると、前もこうして心配してくれていたのだろうとふと思った。あの頃は慣れない任務に忙しく、監視で疲れる家族のことや学校との両立を考えてきちんと向き合う時間もなかったけれど。

 娘が命を賭けた仕事をしていたというのも、心労のひとつになっていたのかもしれない。


「ありがとう、でも、ここにはいられない」

「何でだよ!! こいつのせいなんだったらヒカリは大人しくしてろよ!!」

「ごめんねヨウくん。でもお姉ちゃんは、ちゃんと決着付けたいから。みんなが安全に、普通の暮らしをできるように」

「別にそんなこと求めてねえ!!」

「お姉ちゃんがやりたいの」


 そう。ドクターシノブのしつこさに負けただけではない。

 これは私が始めると決めたことだ。8年前に家計のために魔法少女になると決心したのも、研究所を調べることも。






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