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8話

「それじゃあ、何で陽太は声かけてくれなかったの?」


「あーなんだ。その、きょろきょろしてる荒木を遠くから見てたら面白くてな、ついつい。あはは」


「最低」


 荒木が俺を見る目が冷たい。こいつこんな目もできたのか。子供っぽい容姿の荒木にこういう目で見られるとなんかものすごく悪いことをしたような気分になる。

 

「も~ダメじゃない陽太。女の子傷つけたら」


 荒木の対応に困っていると、後ろからそう聞こえてくる。声のした方を振り返ると、そこには面白いものを見たとばかりに口に手を当て、ニマニマした顔の母さんがいた。


 やばい荒木に気を取られすぎて、この人の存在をすっかり忘れていた。


 荒木は最初何が起きたのかわからないのかポカーンとしていたが、自分なりにこの状況を察して恥ずかしく感じたみたいだ。つかんでいた俺の服の裾をパッと離して、手をわたわたとさせた後なぜか胸の前でグーを作っている。


「あら~別に続けてもらっても構わないわよ。お邪魔ならお母さん一人で買い物してくるから」


「勘違いしてるようだけど、俺と荒木は付き合っているわけじゃないぞ」


「そっそうだよ、じゃなくてそうですよ!私と陽太はとっ友達です」


 『友達』そう言った荒木は自分で言っていてうれしかったのか知らないが、必死に否定しながらも頬が緩んでいる。

 

「別にそんなに強く言わなくても、お母さん悲しい」


「ええ!ごめんなさい、そんなつもりじゃ」


「いいよ、うちの母さんいつもこんなんだから」


「そうなの?それより陽太のお母さん。はじめまして荒木 静音です」


 荒木は慌てたようにぺこりと母さんに頭を下げる。ばったりと、友達の両親に会った時というのはどこか緊張してしまうものだ。おそらく荒木もそうなのだろう。いつもよりもしっかりして見える…気がする。


「こちらこそはじめまして、陽太の母です。可愛くてしっかりした子ね」


「いっいえ、そんなことは」


「そんなことはあるわよ。とってもかわいいから自信持ちなさい!」


 あまりに真顔ではっきりと可愛いという母さんに、最初は謙遜していた荒木もまんざらでもなさそうなのが目に見える。

 まあ実際、荒木が可愛いのは否定しない。小柄でツインテールのため、幼く見えるが顔そのものは何度見ても整っている。それも美人というより可愛らしいほうなので体系と相まっている。

 でも、もしかしたら中学生です、といってもばれないんじゃないだろうか?そうしたらいろんなお店で特ができるかもしれないな。ラッキーだ!


「ありがとうございます。じゃっじゃあ陽太、私そろそろ行くね」


 横で俺が失礼なことを考えているとも知らない荒木は、俺の方を向いてそう言ってくる。


「行くって何もしてないだろ。用事があって追いかけてきたんじゃないのか?」


「違うよ。陽太の姿が見えたから追いかけてきただけだよ」


「なんだ、本当にただそれだけの理由だったのか」


「えっ、だって友達の姿が見えたら追いかけるでしょ?」


 そう…なのか?俺は今まで咲綾の姿が見えたら追いかけてきたっけか?いやもしかしたらそれが普通なのか?わからない、友達というのはそれでいいんだろうか。

 でもされて悪い気分ではないしな。むしろ俺のために来てくれたと考えたらうれしいじゃないか。


「そうだな。ありがとな、追いかけてきてくれて。うれしかったよ」


「そっそう?えへへ、じゃあ次も追いかけるね」


「おう、頼むわ。じゃあ気を付けてな」


「うん、バイバイ。お母さんも失礼します」


「静音ちゃん、これからも陽ちゃんと仲良くしてあげてね」


 荒木はもう一回母さんにペコっとした後、ぶんぶんと手を振りながら去っていった。


 荒木の姿が見えなくなった後、母さんはふーんと呟いてまた楽しそうな顔をしている。


「あなたたち面白いわねえ。静音ちゃん、陽ちゃんが見えたから追いかけてきたんでしょ?可愛いわ」


 どうやら荒木の行動は普通とはいいがたかったらしい。俺は荒木が見えても追いかけていくのはやめようかな。

 

「もし陽ちゃんも静音ちゃんを見かけることがあったら追いかけなさいよ」


 …なぜだ。俺が考えていることがわかるとでもいうのか?


「いいわね?」


「…はい」


 にっこりと笑いながら、俺の目をしっかりと見て釘を刺された。怖い怖い。目が笑ってないよこの人。


「それより陽ちゃん、咲綾ちゃん以外に友達いたのねえ」


「ああ最近できたんだ」


 そういう俺に、どことなく母さんも嬉しそうだ。今まで咲綾以外に友達の影がなかった俺を心配していたのかもしれない。申し訳ないことをしたな。

 

 やれやれ、また荒木に感謝しないといけないみたいだ。


「それもあんなかわいい子。荒木 静音ちゃんか、咲綾ちゃんも大変ねえ」


「なんで咲綾が大変なんだよ?」


「はあ、聞き流してくれて構わないわ。さっ買い物の続き行きましょ」


 母さんはちょっと呆れたような顔をすると、さっさと行ってしまう。


 一人カレーの材料が入った重たいかごを持たされたまま、ざわざわとしたスーパーの一端にぽつんと置いていかれる。


 咲綾が大変…か。まさかな?



 




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