9話
「何? 変な顔しないで。お弁当がまずくなるじゃん」
「もとからこういう顔だ」
俺と荒木は、友達になった日から自然と一緒に弁当を食べるようになっていた。
どっちから言い出したわけでもない。ただあの日から俺がこの場所で食べるようにしてるからである。そうすると荒木はもとからここで食べていたわけで、必然的に一緒に食べるようになったということだ。
「そういえば、陽太のママすごく美人だね。芸能人さんって言ってもおかしくないよ」
「そうか。母さんに言っとくよ」
母さんは人に褒められるとものすごく喜ぶ。父さんがよく人を褒める人だったので、恥ずかしそうに照れている顔をしていたのを覚えている。
俺としても人に褒められた時に、謙遜するのも悪いとは言わないが素直に喜んでくれる人の方が好きだったりする。
「陽太はママに似なかったんだね」
「遠回しに俺が変な顔だと言いたいのかな? だったらたったさっきどっかの誰かに直球で言われたから、わざわざ変化球にしなくてもいいぞ」
「心配しなくても私は顔で人を選んだりしないよ」
「へえ、意外だな。私イケメンじゃないと無理なんだよ、とか言うタイプかと思ってたが人は見かけによらないということか」
だったら俺は安心だな。良かった。って素直に喜んでいいのかこれは?
「そんなことより、私もよくママとお出かけするんだ。お休みの日も一緒にデパート行くんだよ」
「俺は半無理やりだけどな」
荒木のやつ、やっぱり友達がいないから母親と出かけてるのか? だとしたら何か可哀想だな。いや流石にこんなこと考えるのは失礼か。俺だってこいつと咲綾しかいないし。
それに本人は楽しそうに話してるあたり、満足してるみたいだ、余計なお世話だよな。
「…友達がいたら、一緒にお買い物行ったりできるのかなあ」
あやうく弁当を吹き出しそうになった。
どうやら本人も感じていたみたいです。急に楽しげな表情で話しながら、パクパクと美味しそうに弁当を食べていた手を止め、大事なものを無くした子供みたいな顔で、そんな事を言い出すもんだからびっくりするわ。
「…まあ、そのなんだ。俺がいるぞ」
「そうだけど、やっぱりお洋服買いに行くのとかは女の子と一緒に行きたいもん」
どうやら俺の存在はそんなに慰めにはならなかったらしい。我ながらこっぱずかしい台詞を吐いた為、なかなかに辛いものがある。
「じゃあ、作るしかないな」
「ふん。私の他に友達いない人にそんなこと改めて言われなくても分かってます!」
「俺が友達いないのは関係ないだろ。それに前も言ったが咲綾がいるって」
「そっそうよ。陽太には御手洗さんがいる。だから私にも紹介して!」
「お前、もしかして最初からそれが言いたかったんじゃ」
「うるさい! もう決まったからね。陽太でも友達になってくれるんだから私でも大丈夫なはずだよ」
顔を赤くして、まくしたてるように言ってくる。
まさかこいつ本当に咲綾と友達になりたくて俺に友達になろうなんて言ったんじゃないだろうな。だとしたら俺傷ついちゃうよ?
「でも、ちょうど良かったよ。咲綾にも言ったんだ、荒木を紹介したいって」
「ほっ本当! 嘘じゃないよね!? 嘘だったら陽太に服を脱がされそうになったってみんなに言うからね」
「…それは洒落にならねえぞ」
そんなことになったらただでさえ、友達がいないというのに咲綾も俺を見捨てるかもしれん。あれ? そしたらもう俺に生きていく意味はあるんだろうか?
あの咲綾の笑顔が見れなくなる。俺に笑いかけてくれることもなくなる。
「俺のことを見捨てないでくれ!」
「…何言ってるの? けどこれで私にもやっと女子の友達ができるよ」
消えていく咲綾の笑顔を掴むために手を伸ばす俺を見ている咲綾の冷たい目! もしも、だんだんとこの目が癖になっていってしまった自分を想像すると怖い。
「まだできると決まったわけじゃないけどな」
「うっ…陽太はいつも余計な事を言う」
「お互い様だろ。いくら咲綾でもあんまり自分勝手なこと言ってると嫌われるかもしれないぞ」
「そこは、幼馴染なんだし陽太が何とかしてよ」
「こればっかりは無理だな。自分で気をつけてくれ」
荒木はむううと唸りながら、どうも納得がいかない様子だが、流石に自分で頑張るしかないと思ったのか
何も言わなかった。
「そっそれで、いつ紹介してくれるの?」
「別にいつでもいいけど、今日にでもするか?」
「今日!? ちょっと早いよ」
「早めにクラスの友達作った方が、荒木としてもいいんじゃないか?」
「…そうだけど」
そう言って俯きがちになっている姿は、今まであった交友関係の辛さの現れなのかもしれない。彼女にも彼女なりにいろいろあったのだろう。
人と関わることがそんなに苦手に見えない彼女をそうさせた何かが。




