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15話

「まあ、俺しか友達がいないって言ってたしな。そりゃ仲良くないか」


「…うん」


 すぐに止まる会話。顔の横をほんのり冷たい風が通り過ぎ、カサカサと葉の擦れる音だけがこの場に残る。


 いやなんだよこれ、めっちゃ気まずいぞ。静音の反応的にはわかってはいるよ。要するに昔は仲よかったみたいなことなんだろう。しかしだ、それで俺にどうしろというんだ。

 こんな時、気が利いた言葉が言えない自分が恨めしい。


「えっと、じゃあ何で山村さんは俺にあんなこと聞いてきたんだろうな〜。なんて」


「……」


 静音はこちらを見ることなく俯き続けてる。


 あっ無視されちゃった。流石に今のはまずかったか? やばい、もう何も言わず教室に戻っちゃおっかなあ。あははは。


「べっ弁当食べようぜ! この話はもうよしとしてさ!」


「そっそうだね。食べよう」


 まるで始めて出会ったかのような話し方になってしまったのは必然か。


 無理矢理と言っていいだろう。この話を終わらせるしかなかった。

 まだわだかまりはあるものの、俺はこれ以上彼女の中にどこまで踏み込んでいいのかわからなかったからだ。


 静音との昼食を終え、俺は教室へと戻ろうとしていた。


 どうしたものか。


 歩きながら思う、俺は山村 桃菜に嘘をついてしまったことが、少し気になっていた。静音と一緒にいることを再度知ればおそらく彼女はまた俺の元に来るだろう。そうしたら俺はどんな対応をとればいいのか。


 そんなことを考える俺の前に2人の男女が談笑している姿が見える。

 中山と咲綾だ。

 この距離では何を話しているかはわからないが、遠目から見ても美男美女が並んでいる姿は絵になっている。とてもじゃないが俺と二人で並んでいてはこうならないだろう。


 たった一つのきっかけで、今までずっと近くにいたはずの幼馴染が遠くに行ってしまった。そんな気持ちになってしまうのはしょうがないことだろう。


 感情に押しつぶされるというのは、こういうことなのかもしれない。理不尽なのはわかっているが、咲綾が中山と話しているのを見るのが凄く嫌で嫌でおかしくなりそうだ。


 こんなことなら、咲綾が可愛くならなくても良かったな、なんて自分の情けなさを棚に上げて考えてしまう俺は最低だ。だから咲綾もこんな俺と帰るのを嫌がったんだ。


 横を通り過ぎる気持ちになれなかった俺は、二人に、いや咲綾に気づかれないよう回り道をすることにした。


  放課後になり、俺は久しぶりに部活へと向かう。あんなことがあったため、ただでさえ活動の少ない部活をサボってしまっていたのだ。


 部活以外で使うことのない人気の少ない道を、奥まで進みたどり着いたのはあまり使われることのない校舎の端の部屋。


「失礼します」


 部屋の前で一声かけて、ガララっとドアを開けると中にはすでに先客がいる。


「やあ、来たのかい。もうやめたのかと思っていたよ」


 椅子に座り、満面の笑みを浮かべながら、嫌味を言ってくるのは部長の佐伯さえき まこと先輩だ。

 女子にしては高い身長に、綺麗な黒髪をぴっちりとまとめたポニーテールはすらっとした体型によく似合っている。そんな彼女は誠という男か女かわからない名前が昔は嫌だったらしい。


「そんな簡単にやめませんよ」


「そうか! この部活はやめていく人が多いからてっきり君もやめたのかと思っていたよ」


 彼女の言う通り、この部活はやめる人が多い。俺もこの春に入ったのだが、その時は新入部員が十人いたのに、今は俺しかいない。

 それに、上級生に至っては三年生は部長の佐伯先輩だけ。二年生も一人しかいない。

 毎年新入部員はたくさん入るため、なんとか奇跡的になくならずに済んでいるらしい。


 しかし、なぜこの部活をやめていく人が多いのか? それは単純なことで、この学校は入学の時にとりあえず何か部活に入らなければならない。

 そうなると下手な運動部よりも、週に一、二回しか活動がなく、比較的やめやすいこの部活に入ってからやめていくのだ。

 

「はあ、俺もやめるべきだったのかな」


「なんだ神崎、情けない顔をして。そんな顔で人を助けられるとでも思っているのかね?」


 そう、彼女の言う通りこの部活は人を助ける部活。通称ボランティア部。とは言ったものの、実際は学校の草むしりをしたり、水やりをしたりなど仕事は地味なものが多い。


「どうせいつも人なんか助けていませんよ」


「ふむ、今日の君はやけに反抗的だね。もしかしてサボったことが関係あるのかい?」


 こういう時、この人はやけに鋭い。当たりか? という表情で俺を見る彼女は非常にやっかいだ。


「…別に、先輩には関係ないですよ」


「そうか、まあ君が話したくないというなら無理には聞きまい。相談したくなったらいつでもしたまえ」


 まるで本当の姉のように温かい目で俺を見る彼女に、ほんの少し見惚れてしまう。


「それで、今日は何するんですか?」


「そうだった! 聞いて驚け神崎。今日は久しぶりに悩める生徒が我が部活に相談に来るのだ」


 そう言って嬉しそうに見せて来たのは一台のパソコン。画面を見るとそこには一通のメールが届いていた。


 うちの部活はフリーのアドレスを学校の玄関にある掲示板に公開してあり、悩みがある生徒はここにメールを送ってから相談する日を決めて、来るようにしてあるのだ。


「何々、あまり人に相談できない悩みがあります。ぜひそのことについて話を聞いてもらいたいです」


「実はこのメールが送られてきたのは結構前だったのだが、私も入念に準備をしていたから今日になってしまったのだ」


 先輩も嬉しそうに腕組みをしている。だいぶ気合が入っているようだ。まあ、久しぶりのボランティア部らしい活動だ。わからなくもない。


「けど、大丈夫ですかね? 俺は人の悩みを解決できるほどの意見言えるとは思えませんけど」


「心配するな。さっきもいったがこの日のために私がしっかりと準備をしたからな」

 

 どうやら俺の出番はなさそうだ。けど、さすがにここまできた手前帰るわけにも行かないし、それこそ本当にやめさせられるかもしれない。


「それで何時頃来るんですか?」


「予定ではもうすぐ来るはずだが」


 先輩が腕時計を確認しながらそう言っていると、ガララっとこの部屋のドアを開ける音がする。


「あの〜ボランティア部ってここであってますか?」


 入ってきた人物を確認するため、入り口を確認するとそこには、山村 桃菜の姿があった。



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