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26話:だめじゃないよ?

 「殿下、何を仰せに??」


 エマが返事をするより早くイビスが詰め寄った。ウィンダムは尊大な態度で制する。


 「焦るな、イビス。明日の後夜祭だ。お前の妹はエスコートする相手がいないのだろう? 俺も今付き合っている相手は居ないし、ちょうどいいじゃないか」


 「何バカな事言ってるんですか!」


 イビスの怒鳴り声が事務室に響き渡った。文化祭実行委員のメンバーが一斉に振り返る。


 「明日はグエンドリン殿下もご参加なされます。殿下は姉君様をエスコートする事になっていますよね!! 今更何言ってるんですか??」


 「そんなことは知ってる。ていうか、イビス。お前、俺に意見すんの??」


 「言わないと分からないんだろ? このバカ王子様は。いいか? もう全ての調整が終わってるんだよ。気まぐれで我がまま言うのは止めてもらえないかなぁ」


 敬語すら使わない。


 「マジ仕事増やすの勘弁してくださいよ。今までどれだけ時間かけたと思ってるんですか? 殿下は大人しくしておいてもらわないと、こっちが迷惑するんですよ」


 「おい。俺の希望というものもあるだろ? 自由はないのか?」


 「今回はありません。いつもご自由になさってるんだから、一日くらいは我慢してください」


 エマは面食らった。


 あれ? イビス兄さまガチ切れしてる??


 いつも飄々として怒る事があっても人前では決して大声を上げることはない兄の豹変具合。実の兄妹から見てもずいぶん珍しい光景だった。

 家族であって珍しいということは、周りに居合わせた生徒達にとっては有り得ない出来事だろう。


 加熱してきたイビスはここぞとばかりに日ごろの鬱憤を晴らし、ウィンダムも同級生であり近侍を勤めてくれている親友に容赦なく言い返した。


 終わらない言い争いに二人を中心にして人が集まってきた。

 学園内でも意味がなくとも目立つイビスとウィンダムである。スクールカーストトップ二人のご乱心。

 委員会の仕事の手を止めても見る価値はある。


 おかげで群集のエマに対する注視が離れたようだった。


 助かった……。王族からの申し込みなんて、男爵家うちの立ち位置からだと断れなかったよ。


 因習として貴族階級において上位の爵位タイトル持ちから下位に対する社交的依頼は断ることができない。

 常識からかなり外れた事であれば現代では断ることも可能だが、今回のようにパートナーのいない相手に対して夜会パーティのエスコート役の申し込み程度は許容される範囲である。


 だがイビスは諸所の事情を踏まえて反対した。

 爵位を継ぐことのできない男爵家の人間、つまりはイビスは貴族階級では最下層だ。最上位の王族に意義を申し立てるなどとてもできないはずだった。

 そこを押して抗議できたのは個人的な“親友”という最も近い間柄であったからだろう。


 「イビスに感謝だね」

 

 疲れてるせいもあるだろうけどワザとああしてくれてる、と気づかないうちに傍らに来ていたテオフィルスが言った。


 「うん、ほんとイビス兄さまには頭上がらないね」


 私が嫌がる事を分かってくれている。だからああやって言ってくれたんだ。


 テオフィルスはそっとエマの肩に手を置いた。ほんわりと体温が伝わってくる。

 触れてもらえるだけでも気持ちが落ち着いた。


 「明日のエマのエスコートは俺がやるからね?」


 「え? テオは執行部とかの都合で一般参加じゃないんでしょ? ダメだって言われてたから、カレンと一緒に行こうと思ってた」


 「担当に頼んで一般参加枠に変えてもらったんだ。肩書きがない委員はどうとでもなるんだよ」


 テオが平委員?? あの量の仕事を抱えて裁いているのに?? 冗談でしょ???


 「信じてない? 生徒会も何人かいる庶務の1人だし、実行委員も委員長のイビスの指名で補佐役ってことでやらせてもらってただけだから」


 「……イビス兄さまは名ばかり委員長で、テオが裏で仕切ってるとしか思えないんだけど?」


 テオフィルスはそれには答えず曖昧な笑みを浮かべ、


 「イビスは優秀だよ? “神の寵児”に逆らえる人間なんてそうはいない」


 とエマの髪を一房とり口に当てた。

 エマは赤面する。


 するっとこういうことするんだからっ!


 前世の日本人の記憶があるエマは人前でする情感あふれるスキンシップに未だ慣れない。嫌悪感はないし、喜びすらあるのだが。


 恥ずかしすぎる……。


 イビスとウィンダムの言い合いが落ち着き事務室にも平穏が戻ってきていた。ちらほらとこちらを気にする生徒も出てきている。


 「テ…テオ??」


 テオフィルスはしばらく目線を落としたまま、


 「エマのドレス姿見たいし……エマのエスコート誰にも譲れないよ? ダメかな?」


 とエマだけに聞こえるように言った。


「ダ……ダメなんてことない。う……うれしいよ?」


 絶え絶えに返事をするだけで精一杯であった。


 ほんと心臓が爆発しそうです!


ブクマ&読んでいただきありがとうございます!

イビスが言っているグエンドリンはウィンダムの姉になります。

年の離れた20代のお姉さんです。


次回は明日も更新できたらなぁと思っています!よろしくお願いします!



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