40.ダンジョンマスター?
「「「「「………………。」」」」」
俺達とダンジョンマスターらしき青年は、互いに顔を見つめ合う事となり、気まずい空気が流れる……。
「久しぶりね……。ブラウ!」
「はっ!誰だっ!」
「あら?忘れちゃったの……。泣きながら、足にしがみ付いて、離さなかったのに、薄情なのね……。」
「えっ!まさか?びっ、美食勇者かっ!」
「まあ、容姿は随分変わってるから、分からなくてもしょうがないか……。」
「いっ、いや!その魔力には、覚えがあるぞ……。」
「150年ぶりなのに、よく覚えてたわね。」
「忘れる物か!あんな屈辱、受けたのは初めてだ!」
母さんは、このダンジョンマスターに何かしたらしい……。
「何にもしていないでしょ、ただ半日で全階層、踏破しただけ、1クールアニメの、一気見の方が疲れるわ。」
「なっ、何なんだよお前は、恨みでもあるのか?」
「う~ん……。今回は、あるはね……。」
「俺が何したって言うんだ!」
「私の義娘、殺そうとしたわね……。だけど、今回は私が手を下さない事になってるから……。と言う事で、正くん。」
「そう言う事だ……。覚悟は出来てるよな、ダンジョンマスター。」
「「消滅させる……。」」
「なっ、なんだ……。お前らは、今回の勇者達と一緒にいた奴だろ、私は王国所属の伯爵位も持っている。ひれ伏したらどうだ……。」
「馬鹿か、お前は……。」
「「馬鹿だ……。」」
「正くん、私、早くダンジョンコアが欲しいわ。」
「そうだな、話すだけ無駄だし……。」
「何を言っ……。」
俺は、ブラウを掴むと、奴隷契約を行使した……。
「さて、これで奴隷となった訳だが……。心配するな、聞きたい事だけ、聞いたら解放してやる……。」
「にぃ、言い方が上手い。」
「肉体からの解放なんて……。」
「何だよ!結局、殺されるんじゃないか……。」
「そうだけど、何か問題あるか?」
「王都には、妻と子供が待っているんだ、見逃せ!それに俺が殺されたら、王国が黙っていないぞ!暗殺者ギルドとも繋がりがある、きっと死ぬまで追い続ける筈だ。そしたらそこにいる、娘二人も手に掛けるぞ……。それでもいいのか?見逃してくれれば、私が上手く言って置いてやる!それに、私は神に選ばれた使徒だ、世界の崩壊を招くかもしれん。」
「ほう~、それは興味深い……。どうやって神の使徒に、選ばれたか教えてもらおうか?」
「王国はすでに敵、一人残らず殲滅予定!」
「暗殺者ギルドは、今日中制圧予定!」
「誰に、上手く言うの?」
「神と話せるの?」
「どうやって世界崩壊?」
「ダンジョンの存在意義って?」
「「「教えてもらおうか?」」」
そうして、ダンジョンマスターの尋問を開始する……。
結果、この世界で200年前に、死亡したのを覚えていたが、いつの間にか、ダンジョンらしき部屋にいたらしい。
そこで神レイシス様からのお告げで、使徒としてダンジョンマスターの役割を貰ったとの事。
魔素の調和がダンジョンマスターの仕事で、年に数回教会で神レイシス様と面会でき、会話が可能。
その際、司祭様もしくは聖女様の身に、神レイシス様を降ろすらしい……。
この時点で、アウト!
ダンジョンコアは、魔素を蓄積しておく装置の様な物で、魔素の溜め方は、ダンジョン内に魔力を持った生物などを留まらせたり、殺したりする事で、ダンジョンコアに蓄積される。
ダンジョンコアを触る事で、脳内に魔獣などの、名前が浮かんで来るらしく、その溜まった魔素で、魔獣を作り出せるらしい……。
ダンジョンを大きくするのも、魔素を使って、空間を広げて行くらしい。
容姿についても、魔素を循環する事で若さを保つ事が可能で、現在300歳を超えており、度々王都を訪れ、今回の勇者召喚でも、謁見の間にいたらしい。
そして何より驚いたのが、このダンジョンマスターは現宰相の祖父にあたり、王族の血筋だと言う事である。
「まあ、驚いたがそれだけだしな……。」
「後は良い……。」
「処分して大丈夫……。」
「私も聞きたいことは、無いわね……。」
黒板とチョークを手渡されている親父も、黒板に『ない』と書いている。
親父は、「ピ~ピ~」うるさいと、言われてから母さんに懇願して、黒板とチョークでの筆談に変わっていた……。
「ちょっと、待ってくれ素直に話したんだから、助けてくれ……。」
「なぜ……?お前、侵入者を助けるつもりで、攻撃してたのか?」
「………………。」
「自業自得!」
「因果応報!」
「そう言うわけだ……。」
俺は、部屋の奥に埋まっている、ダンジョンコアを引き抜く……。
ダンジョンコアの中は、淡い緑色に揺らめいた光を放っていたが、引き抜く事で、青い光に変色した。
変色したと同時に、ダンジョンマスターとの魔力の糸が切れた事も感じ、見るとブラウの身体が徐々に、衰退して行くのが分かった。
「嫌だ……。死にたくない……。コッ、コアを戻してくれ……。何でも……、す……、る……。」
そう言うと、口をパクパクさせて、地面に転がった……。
「あっ!これ、ホムンクルスだわ……。」
「母さん!今、気付く……!」
「だって、見た目分かんないじゃない……。て事は、この辺に……。」
徐に、ナイフで体を刻むと、魔石が出て来た……。
「これが本体ね……。多分、この体に魔素の吸収機能なかったから、魔石で代用してたんだわ……。三流のやり方、教国にいたのと同じタイプね。」
「そこまで分かるのか……。」
「見た事あるからね……。ホムンクルス体の維持管理を、問題視していたし……、余程の技術か、大量の魔素供給のどちらかが無いと維持できないのよ。教国は、大容量の魔力タンクをメインに作っていたからね……。私の作ってるのは、チート技術の方だから、問題ないわよ。でも、ダンジョンコアと連動させるってのは、面白い発想ね……。そのおかげで、余り長時間ここから離れられない、みたいだったけど。」
「まあ、コアを手に入れたが、そっちの本体はどうする?」
「そうね……。フォーマットすれば使えるかしら……。」
「何だよ、そのハードディスク的、発想は……。」
「似たような物よ。第一これに人の人格や記憶を、そのまま入れてるのよ……。面白そうじゃない……。」
「まあ、それでいいや……。でそっちの革は、どうする?」
ブラウが衰退し、ミイラの様な革が、足元に転がってる。
「そうね……。これから王城行くんでしょ……。ゴブリンの屑魔石でも、突っ込んで王城に送り付けたら?幾らか人格、残ってるかも知れないし、ぼけたお爺ちゃんみたいな、感じになるんじゃない……。しむけん的な……。」
「「飯はまだかい?って。」」
「王女の代わりに、置いてくるか……。」
「綺麗なおべべ着せる。」
「王女の部屋に、置いてく!」
「「絶対、うける!」」
「そうと決まったら、早速ダンジョン出るか。」
俺達が、踵を返そうとすると、ホムンクルスを見つめていた、母さんが呼び止める。
「待って、この部屋、もう少し調べたいの……。」
「どうして?」
「だって、この部屋に生活感ないわよ。可笑しくない?」
この部屋に、入ってダンジョンマスターとダンジョンコアしかないのだ……。
そう思った瞬間、嫌な予感がした……。
「そうか……、これダミーコアか……。」
「正くん、それ本当?」
「多分な……、勘でしかないが……。またここに来なきゃいけない気がしたんだ。」
「「にぃの勘は、神がかってる。」」
「正くん、そうなの?」
「理由として、俺がここに用があるとしたら、素材集めか、ダンジョンコアを取りに来るかの、どっちかだ……。王国の貴族を潰すって理由も無くは無いが、理由としては弱い、ダンジョンごと破壊してしまえば済む事だしな……。」
「そうすると、素材は作る事も可能って事で、残るのはダンジョンコアね……。」
「そう言う事だ……。するって~と、隠し部屋とかあるのか?」
「だと思うけど、魔力感知に引っかからないし……。」
「魔眼にも、引っかからない。」
「心眼も同じ……。」
〈俺も、見つけられん!〉
親父もちゃっかり参加している……。
「そうだな……。この部屋にあるとは思うんだが……。」
「正くんの勘?」
「そう、勘だ!……!?」
おもむろに、さっきの回収した素材、水銀の入ったドラム缶を出す。
「母さんこれで、ゴーレム作ろうかと思うんだが……。」
「それは良い案ね、隠し扉の隙間を探すのね。」
「魔石はどうする、水銀に使ってた、大きいのが良いかな?」
「必要ないわ、屑魔石でも十分だけど、奮発してミスリルクラスにしましょう。多少命令の幅が出来るわね………………。」
「ポク、ポク、ポク、ポク。」
「チ~ン!」
「私……、思いついちゃったかも……。正くん任せてもらえる。」
琴音と鈴音が、いきなり意味不明な事を言い出し、何事かと思ったが……、そう言う事らしい。
「ああ、大錬金術師に言われたら嫌とは言わないけど……。程々に頼む……。」
そう言うと、素材として水晶、オリハルコン鋼糸、魔石2個、そして水銀を要求された。
まず水晶を割り、二つになった水晶が同調している事を確認し、魔石にその水晶を融合する。
そして、オリハルコン鋼糸を編み込み、蜘蛛の様な形にし、中央に魔石を装着する。
もう一つの魔石に、魔力を流すと、蜘蛛の様なオリハルコン鋼糸が、動き出す……。
すっ、凄い……、ラジコンだよなこれ……。
そのオリハルコン鋼糸を、水銀に投入する……。
すると、水銀を纏ったラジコンゴーレムが完成した。
さっきの、ゴーレムメルクリウスとは違い、全体に魔力が、行き渡っているのが分かる……。
「なっ、何してるんだよ、母さん!」
「だって、魔石だけだと、魔法陣組むのが面倒でしょ。オートマタとは、かけ離れたけど、自分の意思で動かせるように、なっているからある意味便利よ……。」
「「じっ、Gビット!」」
「月は出ているか?……じゃねえよ!また、オーバーテクノロジーになってるじゃねえか!」
「正くん……。口調が荒くなってるわよ。」
「誰の所為だ!誰の!」
「この際、いいじゃない……。防衛の為よ、防衛の……ね。」
「はぁ~。分かったよ……。さっさと、終わらせようぜ。」
「そうね、隠し部屋を探すわ……。」
そう言うと、液体になっているゴーレムが、部屋の中を這えずっていく……。
パッと見、スライムなんだよな……。はぐれメタル的な……。
「にぃ、大量経験値GET出来そう。」
「毒針でも行ける!」
「多分あっちの方が、猛毒だろ人生において支障が出る……。教会の、回復魔術や薬草で治らないぞ。」
「正くん!見つけたわ。隠蔽が掛けられているみたいね。」
「早いな~。」
「ああ、それは、こっちのコントローラーにダイレクトで魔力が流れて来るから、ちょっとした違和感も感知できるからよ……。」
「へぇ~。そうなんだ……。流石はチート武器だな……。」
「見つけたのは良いけど、また変な事してるかも知れないから、このまま扉開くわね……。」
そうして、隠し扉が開かれた……。
中には、部屋が3つ有り、台所、寝室、そしてダンジョン管理室なのだろう、映像機と言うには原始的な、魔石投影機が、幾つか置いてあり、ダンジョン内の様子が映し出されていた……。
そして寝室には、またもや気分が悪くなる……。
女性達が横たわっていた……。
「くっ、何なんだ!この国の貴族共は!」
「にぃ、まずは手当て!」
「にぃ、任せて!」
「琴音、鈴音頼む……。」
「正くん……。」
「母さん!親父も、こうだったのか……?」
「違うわ……。父さんは逆よ……。貴族だったけど、奴隷とか解放して周ってたわ……。実際は、王都からは追放されてたの……。」
「ただのヒキニートじゃ、無かったのかよ……。」
「そうね……、それは王都を出てからの話よ。その前は、資金に物を言わせて、奴隷を買い集め、それを解放って事を、繰り返したそうなんだけど……。追い出されて無一文、実家から魔術書の解読依頼を受けて、資金をやり繰りしたって言っていたわ……。」
「親父の貴族嫌いが分かったよ……。」
「「………………。」」
「だからって……、目の前をうろちょろされると、うざいんだよ!」
親父が黒板に、〈 俺って凄い!敬え! 〉って書いて、目の前にちらつかせる……。
「あなた……。台無しよ……。」
「!!!」
親父は、母さんの一言に、ガックリと肩を落としている。
「ありがとう、親父。そこまで考えてるとは思わないけど……、元気出たよ。」
親父は、親指を立て合図する。
そう俺達は、まだやるべき事が残っている……。
「母さん、管理室調べよう……。本物のダンジョンコアを探さないと、それに領地にダンジョン作るにしろ、ある程度やり方を把握しないと。」
「そうね……、そんなに難しそうには見えないけど、見落としがあっても困るからね。」
「親父も、頼む……大賢者の英知を見せてくれ。」
「ピッピ~。」
モールス信号じゃ無いけど、これは分かる。OKの意だろう。
そして俺達は、管理室を調べ始めた……。
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