36.飛竜?
俺達が地図作成に向かい、上空を飛んでいた。
飛空艇には、高度計、速度計、方位磁石等が備えており、高度10kmを維持し、北に向かって進んだ。
地図作成と言っても、魔素を記録して行くだけの、単純作業だった為、飛空艇の後部に転移魔法陣を付けて、いつでも会議堂に戻れる様にしていた。
「にぃ、暇!」
「ダンジョン攻略行く?」
「さすがに、一人残されると、俺でも暇だな……。」
「母さんと行く。」
「父さんは、こっち……。」
「ごめんなさい!一人で、大丈夫です。」
そう言うと、琴音と鈴音を送り出す事にした。
「こっちはこっちで、飛竜とか出るかも知れないから、二人はダンジョンでも、攻略してきてくれ……。」
ここで俺達の駆け引きが、始まる……。
片やダンジョン内でのゴーレム上位種戦、片や飛空艇での飛竜戦……。
「飛空艇からだと、手裏剣のオールレンジ攻撃が有効そうだよな?」
「にぃ、素材はどうするの?」
「飛竜って、美味しいの?」
よしっ!食い付いたっ。
「どうなんだろうな~?……あっ!でも、確か恐竜って、鶏肉みたいな味がしたって話だったな……。飛竜はどうだろうな?」
「「………………。」」
「うこっけい……。」
「比内地鶏……。」
「名古屋コーチン……。」
「天草大王……。」
「「う~……。」」
「琴音と鈴音は、ダンジョンか~……。あ~、残念!非常に残念だな……。」
二人が、涙目になって来ている。……そろそろ、潮時か?
「にぃ、私達は一心同体。」
「何処までも、ついて行く。」
「そうか……。良かったよ、二人がいてくれて……、倒すのはいいけど回収どうしようか、悩んでたんだ。」
「私達に任せて。」
「アイテムポーチのオールレンジ回収!」
「なんて無茶苦茶な発想なんだよ……。出来るのか?」
「「練習してみる。」」
「……おう……。頑張れ……。」
何とか、一人での地図作成を、回避した俺だったが……、琴音と鈴音のやる気に、一抹の不安を感じた。
「でも、暇な事は確かだからな……。交代でダンジョンに行くか?転移魔法陣を常時、外に出してるのと、婚約指輪で連絡をマメに取るって事で、一人ずつ潜っても、問題ないと思うんだけど……。」
「じゃあ、潜る。」
「母さんは?」
「居た方が安全だな……。別の意味で不安だが……。」
「私、最初!鈴音、次。」
「私、にぃと、イチャついてる。」
「やっぱり、鈴音、先で良い……。」
「琴音が、先で良いよ……。」
二人が言いあっているのは、久々に見たが……。
「姉妹喧嘩も程々にしておけよ、一応飛空艇の中だからな……。」
「「喧嘩じゃない!」」
「そうか……じゃあ、俺から先に……。」
「「にぃは、ダメ!」」
「そうなると、当初の予定通り、3人でいるしかないな……。むしろ俺としては、その方が良い。」
「「分かった……。飛竜、掃討する。」」
そう言って、二人が指差した方を見ると……。
山脈の拠点から、北西の一際、高い山の頂に米粒みたいなのが動いているのが見える。高さ的に5000m位だが……。
「良く見えるな……。あれ飛竜なのか?」
「「私達の視力は6.0!」」
「サンコンさんかよっ!」
「冗談。」
「魔眼スキル。」
「視力が上がる。」
「通称……。」
「「オスマン眼!」」
「サンコンさんじゃねぇ~かっ!」
「でもダメ、日本の生活が長すぎた……。」
「視力が1.2に落ちる……。」
「まんま、サンコンさんだろっ!」
ダメだ!このパターンは何時までも続いてしまう……。
「魔眼スキルはいいとして、あれって飛竜だろ……。鑑定はいけるか?」
琴音、鈴音が目を細める……。近眼の人がよくやる……あれだ。
「にぃ、サンコン眼。」
「舐めない!」
「うわっ!この人達、サンコン眼、言っちゃってるよ。どんだけサンコンさん推すんだよ……。」
「鑑定結果、ワイバーン!」
「牡、牝、居る。」
「適性、火、風、持ってる。」
「火炎弾的なの吹くかな?」
「きっと、リオ何とか!」
「部位破壊!」
「「首、獲る!」」
「首、獲ったら部位破壊じゃないだろ……、終わってるし。」
防御面はいいとして、問題は火と風の耐性も持っていそうな事だ……、効きが悪いだろう……。
この高度だと、土魔術は使えない。そうすると、水魔術なんだが……。
「う~ん……。」
「どうしたの?にぃ……。」
「にぃ、悩みごと?」
「俺達って、接近戦がメインだろ……。かと言って、魔術も苦手じゃないんだが……。この飛空艇って、頑強な風船に毛が生えたような機動力だから、光学迷彩で接近しても、見つかったら逃げれないし、一撃で仕留めて回収って方法しか、ないんだよな……。ついでに言うと捕捉も難しいと思うし、遠距離だと回収も難しい……。機動力が足りないんだよ。」
「「う~ん……。」」
「だろ?」
「にぃ、高速ウインチ作って!」
「魔力で動かせる奴!」
「あぁ~、アレするのか?お前等……。立体機動的な奴。」
「アンカーは手裏剣で代用する。」
「射出は風魔術!」
「お前ら無茶言うな……。一応、ここは高度10000mだぞ!アンカー刺すにしろ、ワイバーンにしか刺せないだろうし。それに、たぶん酸素濃度薄いぞ……。」
「そこは、ソールの改良!」
「結界で、気圧安定させる。」
一応は考えてる様だが……。
「それでも、心配なんだよな……一旦、降りるか……。あの山だと5000m位だし、多少酸素は薄いが、誘き出して迎撃した方が楽だろう。」
「空中戦したかった……。」
「でも、にぃの愛だから……。」
「「妥協する……。」」
と言う事で、ワイバーン狩りをする為、山へ近づいて行った。
近づくにつれ、ワイバーンの数が増えて行く……。
「竜の巣だぁ~!」
琴音が、飛竜の屯してる所を見つけ指を差して叫ぶ。
「父さんの言ったとおりだ。向こうは逆に風が吹いている。」
鈴音が言うが……。
「はい……、親父はそんな事言ってないし、風も逆には吹いていないね……。」
「「………………。」」
「にぃ!ラピュタはこの中だ!」
「山の中てっ……。」
「行こうっ、にぃ!父さんの言った道だ!父さんは、帰って来たよ!!」
「「…………………………。」」
琴音と鈴音がワイバーンを指差しこっちを見つめる……。
「分かった、分かった……。よぅし、行こう!………で良いか?」
琴音、鈴音は頷くと、着陸地点を探しにかかった。
山の上層は、途中から木々が無くなり、岩が剥き出しになっている為、どこでも着陸は出来るが、比較的なだらかな場所を探している。
「にぃ、あそこ平ら。」
「あそこだとワイバーン狩りやすい。」
って、ワイバーンが羽休めの為、屯っている場所を指差す。
「私達が先に降りる。」
「着陸場所、確保する。」
「問題無いとは思うが……。誰に似たんだか……。」
「「にぃは、ゆっくり降りて来れば良い。」」
この娘達って、こんなに戦闘狂だったんだな……。
「にぃ、失礼!」
「にぃも、人の事言えない!」
「こんな時だけ、心眼使うのかよ……。」
「「にぃが、顔に出てただけ……。」」
「えっ!出てた。」
「「やっぱり、失礼なこと考えてた……。」」
「誘導尋問かよ……。でも、アンカー使えば、着陸場所なんてどこでもいいぞ。後は後部ハッチから出れば良いだけだし。」
「えぇ~!私達、無双したい。」
「にぃ、鶏肉だよ!」
「そんなに言うなら、近くに寄せてサイドのドアから、降りて行くか?」
「にぃ、ありがと!」
「にぃ、大好き!」
「くれぐれも気を付けろよ……。」
そして、ワイバーンがいる場所の10m上空に差し掛かると、二人は勢いよく飛び出していった。
二人とも、トンファーと手裏剣の装備だ。
「あっ!」
今、気付いた……。あいつ等、パイルバンカー使いたかったんだろ……。
ドッゴッ~ン!!
頭にパイルバンカー形の結界が突き刺さり、地面に串刺しになっているワイバーンが2羽いた。
そういや、ワイバーンに翼があるから、助数詞は、羽でいいのだろうか?そうすると、西洋風のドラゴンが1羽、2羽ってなるのか?グリフォンなんかも、そうなるな、でもグリフォンは半分鳥類だし問題ないか……。
ドラゴンってトカゲの仲間になるから……、そうすると、匹か?大型で頭?ワイバーンも、匹か……。
う~ん……、分からん!
そんな事を考えていると、周りにいたワイバーンが何事かと、首を上げた所に顎の下から、パイルバンカーが打ち上げられた。
この分だと、直ぐに終わりそうだな……、二人とも楽しそうに戦っている。
…………、そうかっ!死体なら、体で良いのか。
やっぱり、中卒の頭だと、この問題は難しいな……。
俺は、若干気落ちしながらも、二人が確保してくれた場所に、飛空艇を係留した。
「どれっ!俺も発散するかな。」
そう呟き、俺も外に出て行ったが……。
「「にぃ、遅い!」」
8体ほどのワイバーンの死体を残し、ワイバーンは上空に逃げている。
「う~ん……、魔術で殲滅しても、食材は残らないからな……。」
二人が、一撃の元に葬り去るから、ワイバーンも本能的に逃げ出したのだろう……。意外と、頭が良いのか?
「まあ、今回は8体で我慢するか……。割と、大きいから食いでがあるだろ。」
「「了解、そうする……。」」
食材を回収し、1体だけ切り分けて収納した。
飛空艇内で、調理する為である。
「これ、美味しいんだろうか?」
「微妙……?」
「ささみっぽいかも?」
「それじゃ調理次第か……?」
「むしろ蛇に近い……?」
「爬虫類なの?」
「ワニとかスッポンって思うと、期待できるんじゃないか?」
「「おお~!」」
「にぃが、ギンギンッ!」
「精!力!増!強!」
「血も行ける!」
「爬虫類様様!」
変な意味で、二人が興奮し始めている……。
「ふぅ~。一応、ここにも転移魔法陣、置いて行くから美味しかったら、また来ればいいか……。」
そんな感じで話を区切り、ワイバーンがいなかった場所に、魔法陣を設置して、飛空艇へと戻って行った。
そして、地図作成を行うため飛空艇を発進させた。
地図作成の間、暇をつぶす為、簡易の調理場を作り、鈴音と琴音にワイバーンを調理して貰う。
何か、アウトドア用品の様な、調理器具になってしまったが、問題ないだろう……。
取りあえず、鳥と仮定して調理しているようだが……、とりあえず、塩ゆでして貰った。
多分、素材の味が一番分かり易い。
「「「う~ん……。」」」
「にぃ、ぱさぱさ……。」
「ささ身より、味気無い……。」
「そうだな……。味付けが重要だな……。こういうのは……、唐揚げだな!」
「小麦粉で大丈夫?」
「片栗粉が良かった?」
「どっちも美味そうだな。油は、薬草から作ってみるか……。効能とかあるかも知れん。」
「にぃ、面白そう。」
「生命の原液、再来!」
「まだ腐るほどあるし、やって見るよ。」
薬草を100束取り出し、錬金で油の抽出を行なっていく……。
鑑定!
生命の原液:生命構成物
魔素(液状):魔素
水:H2O
「あれっ!」
「「どうしたの、にぃ?」」
「この前、抽出した3種の液体になった……。」
「生命の原液が油?」
「魔素(液状)が油?」
「そう言う事だよな……。生命の原液は、そんなに油っぽくなかったから……。魔素の方か?」
「魔素、確認してみる……。」
何気に、魔素のは言っている瓶から、琴音が一滴、手の平に落とす……。
「にぃ、これ油っぽい……。」
「本気かっ!」
「超高級油……。」
「3人しか居ないし、使ってみるか?」
「「おお~!」」
俺達は、超高級な油の使用を、決行する事にした。
そして、収納から小麦粉を出し、鈴音に預ける。琴音は、ワイバーンの肉を唐揚げサイズに切り分ける……。切り分けた所から、鈴音がサクさんの所からもらった卵を絡ませ、小麦粉につけ、それを超高級油、通称、魔素油に放り込んでいく……。
ちなみに、卵も高級食材、サクさんが、たまたま手に入れたのを譲って貰ったのだ……。
多分、俺達のレパートリーを期待しての事だろう……。
美味しかったら、サクさんにワイバーンの唐揚げを、教えるとしよう……。
そんなこんなで、ジュワッ~!と、音を立てながら唐揚げが、カリッ!ときつね色に上がって行く……。
「「にぃ、美味そう!」」
「そうだな、でも魔素で揚げるってのも、斬新だよな……。」
「「にぃしか出来ない……。」」
俺はミスリルで、油切りのバットを作成、確か紙も入っていた筈だから、中にそれを敷き鈴音に預ける。
琴音が大皿に、盛り付けして行く。
「さて、そろそろ、全部上がりそうだな……。」
「にぃ、ソース!」
「にぃ、マヨネーズ!」
「俺はレモンが欲しい……。」
収納には、ソースとケチャップ、マヨネーズは入っているが……。残念ながらレモンが無い……。
「レモンも探そうかな……。」
何だろう、やっぱり食材が少なすぎる……。食糧事情の改善は急務なんだが……、忙しいんだよな……。
早めに、大森林手前ダンジョンの攻略もしないと……。
唐揚げを揚げ終わり、俺達は簡易のテーブルに、唐揚げとスパゲティーもどきを並べる。
スパゲティーの生地は琴音が小麦粉と塩を練って作っていたので、俺は押し出し機を作り、麺を作って行った。
後は、茹でてる間、ミートソースっぽい物を作り、終わりだから簡単である。
「それじゃあ、いただきますか?」
「「「いただきま~す!」」」
何か、ピクニック気分になってきた……。
こういうのも良いな~……。
地球だと、中々味わえなかったから、一際楽しい……。琴音と鈴音もそうだと良いな~!等と思いながら箸をつける。
「うおっ!いけるっ!」
ワイバーンの唐揚げが思いの外、美味い……。
「「にぃ、美味い!」」
「やっぱり、調理法次第だな……。」
「これ、サクさんに教える。」
「油だけ問題!」
「油は、サクさんの所にもあるだろ!」
「あれは、魔獣の背脂!」
「食物油とか生産確立しないと……。」
「そうだな……。その辺も問題なのか……。生産性の高い物があればいいけど……。」
「それより、食事!」
「にぃ、考えすぎ!」
「そうだなっ!折角のお前達の手料理だ!」
「「にぃ~!ワイバーンの血もある!」」
「それは要らない!」
「にぃ、早過ぎ……。」
「精力剤だよ……。」
「いや~!このスパゲティーも美味いな~。流石は琴音!」
「そっ、そう……。」
「琴音、騙されない……。」
「唐揚げだって、俺好みの味だぞ……。」
「そっ、そう……。」
「鈴音……。」
二人が、見つめ合って項垂れる……。
この後、追及されない事を祈り、料理に舌鼓を打つ……。
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