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第4話:友情の糸

「――おい、ジジイ。いい加減にしろ」


俺は痛む頭を片手で押さえながら、目の前の老人を睨みつけた。

覚えているのは、この世界で目覚めてからの、せいぜい二日か三日程度の記憶だけだ。頭の中の空白が、今の俺を狂わせそうにしている。


「これ以上、俺に何を隠してる? お前は一体何の『真実』を話すつもりなんだ!」


ゴロウは無言のまま、その鋭い眼光で俺をじっと見つめていた。

老人は、私が気を失う直前の前日の出来事を思い出し始めた。


◇◇◇


**(昨日――ヴァルカスとの戦闘直後)**


「誰か、手伝って! シンレイが気絶しちゃったの!!」


荒れ果てた戦場に、アンジェラの悲痛な叫び声が響き渡っていた。彼女は地面に膝をつき、俺の頭を自分の太ももに抱え込んでいた。


「タロウ! ケンジ! 早く彼を家の中に運んで!」


ゴロウは深く刻まれた眉間のシワをさらに寄せ、冷たく言い放つ。

「家だと? どこにそんなもんが残っている。連中の襲撃で半壊したロクでもない廃屋を、これ以上あてにできるか」


「ジジイ! 今はそんなことを議論してる場合じゃないでしょ!」


「フン、助けるどころか足手まとに。この小僧が我が組織に何の貢献ができるというのだ」


アンジェラは俺を庇うように両腕を広げ、老人を強く睨み返した。

「彼は間違いなく私たちのチームに貢献できます! あなた自身も彼の能力の高さを目の当たりにしているはずです!」


老人は静かに鼻で笑って、

「それはどうなるか見てみましょうな」――と言った。


「チッ……おい、ケンジ、タロウ。その泥人形を中へ運べ」

ゴロウの命令に、ケンジとタロウは慌てて俺を抱え上げ、辛うじて形を保っている家の中へと連れて行った。アンジェラも不安に満ちた表情のまま、彼らの後を追う。


一人残されたゴロウは、吐き捨てるように呟いた。

「……なぜあのハナゾノの犬どもが、これほど早く動き出した。本気で潰しにくるならもっと手勢を送るはず。なのに、あのヴァルカス一人のみを寄越した……。我々を舐めているのか、それとも……」


「――ゴロウ、ちょっと地下室まで来て。見てほしいものがあるわ」


冷徹な声が響く。ミナだった。

「今度は何だ、あのクソガキどもめ……」

ゴロウは悪態をつきながら、亀裂の入った廊下を通り、地下室へと足を運んだ。


「おい、ミナ。わざわざ我々のベースがどれほど綺麗に破壊されたかを見せるために、俺を呼び出したのか? 時間の無駄だ」


「待てよジジイ、そう焦るな。相変わらず傲慢なクソジジイだな!」

物陰からひょっこりと顔を出したのは、風の能力を持つソラだった。ケラケラと不敵に笑っている。


「誰が傲慢だ、この口の減らない小娘が」


「まあまあジジイ、静かにして。ソラの話を聞きなさい」

ミナが淡々と間に入り、ゴロウは不機嫌そうに腕を組んだ。

「……ハッ、早くしろ、ソラ。今すぐ教えろ。俺は今、ビールを何杯かあおりたい気分なんだ」


「まったく、ただの酔っ払い老人ね」――とミナは呆れたように言った。


ソラは急に真面目な顔(キリッとしたドヤ顔)になり、手元の魔導端末を操作した。

「話したいのは、あのシンレイについてだよ。彼がここに運ばれてきてから数週間、ずっと昏睡状態だったでしょ? その間、彼の生体データをずっと記録してたの」


「それがどうした。アンジェラやタロウの報告じゃ、あいつのカルマは完全に『インプット・ゼロ』、つまりただの無能って結論だったはずだろ」


「それはそうなんだけどさ――」

ソラが端末の画面をゴロウの目の前に突きつける。

「問題は、さっきのヴァルカスとの戦いだよ。シンレイが何か黒いエネルギーを放出しようとした瞬間、このデバイスの数値が、測定不能の限界値カンストまで跳ね上がったの!」


ゴロウの目が僅かに見開かれる。


「ヴァルカスは終始彼を圧倒して、そのエネルギーを完璧に中和した。でもね、データを見る限り、シンレイ自身の戦い方や戦闘技術は……言葉を選ばずに言うなら、『信じられないほど最悪のド素人』よ。格闘のセンスなんて微塵もない、ただのゴミ!」


「……待て、ソラ。つまりお前は、あのガキが『莫大なエネルギーを溜め込む器』でありながら、それを『使う技術が皆無のクソザコ』だと言いたいのか?」


ソラはクソデカため息をつきながら黙って頷いた。

すると、隣で聞いていたミナが「ふぁーあ……」と、顎が外れそうなほど大きなあくびをする。


「……難しくて脳みそが溶けそう。私、もう『みみり(お昼寝)』の時間だから寝る」


「ちょっとミナ!? 何をこの緊迫した空気で寝ようとしてるのよ、このぐうたら睡眠魔!」


「うるさいなぁ、ソラ……。データなんていくら見たって、お腹は膨らまないの。今それより、今日の晩ご飯のお肉のほうが大事……お腹空いたぁ……」


「お腹が空いたのか?眠いのか?どっちなんだ、女」とソラは言った。


「黙れ、このひねくれた女。だからお前はまだ独り身なんだと思うよ、ハハハ」--とミナは。


「これは組織の存続に関わる重大なデータなのよ! 少しは緊張感を持ちなさい! 肉よりデータの数値を愛しなさいよ!」


「あの狂った女たちはもう喧嘩を始めているぞ」と老人は言った。


二人のいつもの不毛で騒がしいキャットファイトが始まったが、ゴロウの耳にはもう入っていなかった。


(莫大なエネルギーを内に秘めながら、出力する方法を知らん、か……)

ゴロウの脳裏に、かつて戦った強者たちの姿、そしてあの不気味な男・ヴァルカスの言葉が過った。

(……まさかな。考えすぎか)


老人は言い争う喧しい二人の女子を放置し、静かに地下室を後にした。

途中で俺が眠る部屋の前を通った時、中を覗くと、アンジェラが俺の手を握りしめ、じっと寄り添っているのが見えた。ゴロウはそれを見つめ、何も言わずに通り過ぎた。


数時間が経ち、俺が目を覚ました。


ずっと一緒にいてくれたアンジェラの姿が見えた。不思議なことに、彼女の顔を見た途端、心が落ち着いた。彼女の顔を見るのが好きだった。彼女は信頼できる人に見えたし、何よりも、戦いの間ずっと私を守ってくれた。


その時私たちは話し始め、そして、話しているうちに、話すことが何もなくなった瞬間があった。その時、彼女の手を見て、手首を見て、ブレスレットが見えた。それはきれいだと思ったので、私は次のように言った。


「あ……そのブレスレット、赤くて綺麗だな。よく似合ってる」


「えっ……? あ、ありがと……」


その冷たい返事の後、 アンジェラは立ち上がって出て行った。私は彼女を引き止めようとした。何か悩みを抱えているのか、それとも単に私と話すのに飽きたのかと思ったのだ。「私はなんて愚かなんだ」と私は心の中で思った。「愚か者の王様だ」と。、その後、少し酒の臭いを漂わせたゴロウが部屋に入ってきて、俺といくつかの言葉を交わした。


「ま、あいつの機嫌もそのうち直るさ」


そう言って部屋を出たゴロウだったが、彼はそのまま去りはしなかった。家の外の廊下で、壁に背を預けて待っていたアンジェラに声をかけたのだ。


「……アンジェラ。お前、まだ俺に隠していることがあるな」


アンジェラは肩をビクリと震わせ、今にも泣き出しそうな瞳で振り返った。

「な、何のこと? ゴロウ。私は何も隠してなんて――」


歩き去ろうとする彼女の手首を、ゴロウの無骨な手が強く掴む。


「誤魔化すな。あの小僧が何をしたか、我々は知っている。お前が『助けてくれ』と言ったからここに置いているが、ぶっちゃけあの男の存在は、ハナゾノからのヘイトをさらに集める爆弾だ。なぜあの男を救ったのか、その本当の理由をお前は一度も話していない」


「それは……知り合いだからって……」


「タロウは俺にすべてを話してくれたぞ。だが、お前は肝心な部分を濁し続けている。……なぁ、アンジェラ。あいつがお前のことを『一文字も覚えていない』のは、百も承知のはずだろ?」


「――もうやめて!!」


アンジェラの叫び声が響いた。彼女の身体は小刻みに震えていた。

「わかってる……! 彼が私のことを覚えていないことも、みんなが彼を大罪人として見ていることも全部知ってる! でも、彼はそんな人じゃない! 私は知ってるの、本当の彼を……!」


涙を溜めて俯くアンジェラの姿に、ゴロウはバツが悪そうに自分の首の後ろをガリガリと掻いた。

(……チッ、少し追い詰めすぎたか)


老人はため息をつき、アンジェラの肩にポンと手を置いた。

「すまん、アンジェラ。責めるつもりはなかった。お前たちは俺にとって、守るべき家族だ。だからこそ、真実が知りたい。俺はあの日から、あの小僧をどうしても信用できんのだ」


「……わかってるわ」

アンジェラは静かに呟き、自分の手首に巻かれた『赤い糸のブレスレット』を見つめた。


彼女の記憶は、遥か遠い幼少期の日々へと飛んでいた。


◇◇◇


それは、まだ世界に少しだけ希望が残っていた頃の記憶。

幼いアンジェラは、両親に連れられて街の広場にいた。そこでは、王国の「カルマ」を操る英雄たちが、人々を守るために華麗に戦っていた。


『うおおお! すげえ!!』

『さすが英雄様だ! カッコいい!!』


「お母さん、お父さん!, 大きくなったら、偉大なヒロインになりたい, この力でみんなを助ける、かっこいいヒーローになるんだから!」


目を輝かせる幼いアンジェラ。

だがその時、緊迫した戦場のど真ん中に、一人の奇妙な男の子がトコトコと迷い込んできた。

男の子は周囲の悲鳴などどこ吹く風で、地面に落ちているボトルのキャップを拾い集めていた。


「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……。お、これレアなやつじゃん」


『おい! 危ない! 子供が中にいるぞ!!』

周囲が騒然とする中、男の子は人差し指を口に当て、「しーっ」と静かにするようなポーズを取った。

「なにお前ら、うるさいなぁ。せっかく数えてたのに」


その時、劣勢に立たされていた悪役――ザコグが、狂ったように巨大な岩を持ち上げ、その男の子に向かって投げつけた。


「死ね、クソガキがぁ!!」


男の子はその岩をぼんやりと見つめていたが、間一髪で英雄――ブレイズが身を挺して岩を粉砕した。

だが、その英雄の姿を見た男の子は、怖がるどころか、その場で楽しそうにぴょんぴょんと跳ねて笑い出したのだ。


「あはは! すげえ! 今の演出マジで最高! もう一回やって!」


『おい、ふざけてる場合か! 逃げろ!』

英雄が叫ぶが、悪役の追撃により英雄は地面に叩きつけられ、アドバンテージを失ってしまう。悪役の凶刃が、再び笑い続ける男の子へと向かう。


「生意気なガキめ、今度こそ肉片にしてやる!」


強烈なエネルギーを纏った一撃が放たれる瞬間。

男の子は、ただ面倒くさそうに、手の中にあったボトルのキャップを一枚、指先でピンッと弾いた。


――シュオッ!!!


ただのプラスチックの蓋が、空気を切り裂き、激しい摩擦熱のエネルギーの壁を形成しながら、あり得ない速度で射出された。


どがぁんっ!!


ボトルキャップが悪党の頭に容赦なく直撃した、巨体の悪役は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


広場全体が、水を打ったような静寂に包まれる。

そして、一拍置いてから、凄まじい大歓声が巻き起こった。だが、男の子はそんな称賛には目もくれず、倒れた悪役の頭の上に登ると、そして、悪党に投げつけたボトルキャップを拾い上げ、小さなバッグに入れた。


「よしよし、無くならなくて良かった」


幼いアンジェラは、両親の静止を振り切って、ボロボロの戦場の中へと走っていった。

「すごい! あなた、今の凄すぎるよ!!」


男の子は不思議そうに首を傾げた。「……何が?」


「何がって、あの悪い奴を一発で倒しちゃったじゃない!」


「ああ、これ? 別に普通だけど」

男の子は全く興味なさそうに、そっぽを向いた。


「普通って……もっとこう、漫画のヒーローみたいに『俺の正義の鉄槌を受けてみろ!』とかさ、そういうのないの!?」

熱弁するアンジェラに、男の子は冷たく言い放つ。


「ない。興味ないし」


「むぅ……。じゃあ、私と友達になってくれる?」


「友達……?」

男の子は動きを止めた。


「うん! 友達!」


「……俺、友達なんていないよ。みんなから『不気味な奴』って言われて、いっつも一人だし」


「そんなの関係ないよ! 私にとっては、あなたは世界で一番カッコいいヒーローだもん!」


男の子はしばらくアンジェラを見つめていたが、やがて照れくさそうに口元を緩めた。

「……そっか。俺も、友達ってやつ、ずっと欲しかったんだ。……ほら、これあげる」


男の子が差し出したのは、彼が手首に巻いていた、安っぽい『赤い糸のブレスレット』だった。彼の腕には、同じものがもう一本巻かれている。


「これをつけてたら、俺たちは世界一の親友だ。約束な」


「うん! 世界一の親友!」

アンジェラは満面の笑みでそれを受け取った。


「ねえ、私の名前はアンジェラ! あなたの名前は?」


男の子は自慢げに胸を張って、自分の名前を口にした。


「俺の名前は――シンレイだ」


◇◇◇


「――つまり、お前らはただの幼馴染みだったってわけか」


ゴロウの声で、アンジェラは現実へと引き戻された。


「うん、そうよ。そして私の記憶が確かなら、彼はあの頃、たった一人でどんな敵も圧倒できる力を持っていたわ」


「ハッ、そんな怪物が、今じゃあんなただの無能か。信じられん話だな」


「ちょっと、そんな言い方しないで!」


「わかったわかった、悪かったよ。話は終わりだ」

ゴロウは手を振りながら、歩き去っていった。


◇◇◇


**( 現在に戻る)**


「――で、本当の事ってのは何なんだよ、ジジイ。早く言えよ」


現在。俺は相変わらず胸を焦がすような嫌な予感を抱えながら、目の前のゴロウを問い詰めていた。隣に立つアンジェラは、どこか強張った表情でゴロウを見つめている。


ゴロウはふぅ、と深く息を吐き、俺の目を真っ直ぐに見据えた。


「真実か……。本当のことを言うぞ、シンレイ」


「あぁ、じらしやがって。何なんだ?」


「――俺は、お前のことが死ぬほど大嫌いだ、小僧」


「…………は?」


俺は完全にフリーズした。

え、何それ? このクソジジイ、わざわざここまで大層な雰囲気を作って、俺の頭が割れそうになるほどのストレスを与えておいて、ただの『個人的な嫌悪感の告白』をしただけか!?


「お前……ふざけてんのか!! んなこたぁ言われなくても分かってんだよ!!」


俺が激怒する中、隣のアンジェラはホッと胸をなでおろしていた。

ゴロウは俺から視線を外し、先ほどの彼女との会話の『最後の断片』を思い出していた。


*(『ゴロウ、お願い。何があっても、今のシンレイに、彼が――“人殺し”だなんてこと、絶対に教えないで』)*


老人は小さくため息をつき、踵を返した。

「おい、ガキども! 全員集まれ!」


ゴロウの号令の元、近くの物陰からソラ、ミナ、タロウ、ケンジがぞろぞろと姿を現した。どうやら最初から近くに隠れていたらしい。


「よし、全員揃っているな」


「揃んでますけど、ジジイ。なんで俺たちにこんなクソ重い大荷物を持たせてるわけ!?」

タロウが両手に巨大なバックパックを抱えながら文句を言う。


「そうだよ、ジジイ。俺マジで腰が砕けて死にそうなんだけど! なんでこれを俺たちが運ばなきゃいけないのさ!」

ケンジも涙目で訴えるが、ゴロウは鼻で笑う。


「知るか。嫌ならそこに置いていけ」


「じゃあ、なんでシンレイは何も持ってないんだよ! 不公平だろ!」

ケンジの指摘に、ゴロウは不敵にニヤリと笑った。


「お前、今すばらしい名案を出したな。おい、シンレイ。お前がこのタロウとケンジの荷物を『全部』持て」


「はぁ!? ふざけんなクソジジイ! なんで俺がそんなボロ雑巾みたいな奴隷役を――」

「ハハハ! 助かったぜシンレイ! お前最高ーー!」

タロウとケンジが嬉々として俺に山のような荷物を押し付けてくる。俺は信じられないほどの過積載状態で、もはや歩くタンス状態になりながら文句を言う羽目になった。アンジェラはそれを見て苦笑いしている。


「ちょっと待って、ジジイ。私たち、一体どこへ行くつもりなの?」

アンジェラが尋ねると、ソラも前に出た。


「そうだよジジイ! この二人のバカ、何を聞いても『とにかく一番大切なものだけまとめて旅の準備をしろ』としか言わなかったんだから!」


「その通りだ」

ゴロウはニヤリと笑った。

「昨日の今日だ。ここに居座れば、遠からずハナゾノの追手に首を刈られる。だから移動する。俺たちの次の目的地は――隣国、**【オークヘイヴン帝国】**だ」


「「えええええっ!?!?(絶叫)」」


ソラとミナが、顔の形が変わるほどの驚愕の声を上げる。

「ちょっと待ってジジイ、そんなことできるわけないじゃん! 敵国だよ!? 自殺行為だよ!?」


「できるかできないかじゃねえ、やるんだよ。文句があるならここに残ってハナゾノのオモチャにでもなれ」


「最悪ーー!! 私、自分の部屋からまだお気に入りの魔導研究データとか、超限定版の私物とか持ってきてないんだけど! 今からダッシュで取りに戻る!」

ソラが慌てて回れ右をしようとする。


「私も……あのお気に入りの高級シルクの枕がないと、一生安眠できなくて呪う……」

ミナも魂が抜けた顔でそれに続く。


「ダメだ、一秒の猶予もない」とゴロウが冷たく言い放つ。


「あるわよ! すぐそこなんだからケチケチしないでよ!」

アンジェラも一緒になって反論する。


「女子の荷物移動の執念を舐めないでよね、ジジイ! パンツの替えだってまだ――!」

ソラたちが家に向かって全力疾走しようとした、まさにその瞬間だった。


ゴロウは不敵にニヤリと笑い、おもむろに右手の指を二本、天に向けて立てた。


パチンッ――。


彼がドヤ顔で指を鳴らした直後。


――ズドオオオオオオオオオオオン!!!!


鼓膜が破れそうな凄まじい爆発音と共に、俺たちがさっきまでいた、あの半壊した家が、木っ端微塵の跡形もなく、派手に大爆発して吹き飛んだ。炎と黒煙がギャグアニメのように夜空を焦がしていく。


「「「「いやあああああああああああああ!?!?!?(大合唱)」」」」


全員が目玉を飛び出させ、頭を抱えて絶叫した。


「ちょっとぉおおお! 私の徹夜の魔導研究データがあああ、消滅したあああ!!」

「私の愛しの枕がァァァ!! 灰になったァァァ!!」

「ジジイーー!! アンタ人の心とかないわけ! 何考えてんのよ!!」


全員からの大ブーイングの嵐の中、ゴロウは満足そうに「ハハハハ!」と高笑いを上げ、拳を天高く突き上げた。


「ハハハハ! これで退路は完全に断たれた! さあ、野郎ども(お前ら)、俺たちの新しい地獄の大冒険の始まりだ!!」


家を燃やされた理不尽さと、クソ重い荷物を背負わされた怒りで脳の血管が切れそうになった俺も、思わず釣られて、怒りの拳を天に突き上げて叫んでいた。

「ふざけんじゃねえええええええ!!! マジでぶっ殺すぞクソジジイ!!!」


こうして、俺たちの最悪で最高に騒がしい逃避行が始まった。


◇◇◇


**(同時刻―― ヴァリア王国・中央王宮)**


絢爛豪華な玉座の間。

重苦しい静寂が満ちるその場所に、黒いマントを翻した男・ヴァルカスが片膝をついていた。


「――報告を。例の“無能”は見つかったのですか?」


玉座の上から、鈴の音のように美しく、しかし底冷えするような冷徹な声が響く。


ヴァルカスは低く笑い、頭を垂れた。

「はっ。ハナゾノ様……。確かに、あの路地裏のネズミどもの巣窟にて、あの男を確認いたしました。記憶を失い、見る影もなく落ちぶれております」


「ふふ……そう。お見事です、ヴァルカス」


影の中からゆっくりと姿を現したのは、燃えるような美貌を持った少女だった。

**キアラ・ハナゾノ。**


彼女は冷酷な笑みをその唇に浮かべ、遠くの空を見つめながら、愛おしそうに呟いた。


「完璧だわ。何もかもが私のシナリオ通り……。待っていてね、シンレイ。あなたは私の計画において、最も特別で、最も大切な『玩具』なのだから――」


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