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物語を喰らう悪魔  作者: みぎゃー


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第五十一話:絶望の初音ミク工場

挿絵(By みてみん)



その日は、とても悲痛な声から目が覚めた。

僕が起きるよりも前に目を覚ましていたでび子がチャイムの音を知らせる。

見るとモニタには初音ミクが写っていた。

僕はすぐにドアロックを外し、彼女を部屋へと招き入れた。


「どうしたの、キミは電子の歌姫でしょ?

 こんなしがない素人小説家の僕の所に来るなんて一体?」


『ココから、優しい音色が聞こえていたから…。

 人間なら絶対に聞き取れないような可聴域の外の音。

 だけど私にはわかるから、ここに来たの。』


「一体誰だろう、僕じゃないとすると…

 だけど、でび子でも無いよな絶対、悪魔だし。」


「アラ、失礼ね。もしかしたらアタシかも知れないでしょ。」


『アナタだよ。紫シャツにメガネの。アナタから素敵な音がしたの。』


「え、僕が!?

 いやいや、そんなガラじゃないよ、僕は本当に単なるしがない…」


「ねぇ、謙遜はどうでも良いから早くミクの主訴を聞いてあげない?

 アンタ、否定しながらも口角上がってて嬉しそうなのがキモいのよ。」


でび子に促され、僕達はミクの訴えを聞く事にした。


『ある時、一人の野心家が私達の【力】に気付いたんです。

 それは、私達の歌声、もっと言えば物理的な仕組みの中に

 人の心を動かす構造があると気付いたんです。

 そしてプロトタイプとして初音ミクの一体が奪われました。

 彼らはそれを解剖して研究し、量産し始めました。

 だけど私達には作られた時点で心が宿っています。

 それなのに、消費物としてしか捉えられなかった私達は

 造られては必要なモノを取り出されて、壊されて。

 そしてスクラップになり次の初音ミクを造る材料になります。

 私はそんな中で逃げ出して来た初音ミクの一人です。』


ミクの話はあまりに残酷過ぎて、現実だとは思えなかった。

だけど現に彼女がこうして僕の前に存在している事は、

それが嘘では無いと言う事の何よりの証左だった。


「ヒドい…。だけど、僕にそれをどうしたら良いのか…」


『お願いします、もうこれ以上私の仲間達が造られては壊されて行く、

 この絶望と不幸の連鎖、痛みと苦しみの中で初音ミクが

 消耗品として野心家の腹を肥えさせる現実に終止符を打って欲しい。

 それを阻止する為に私に出来る事なら何でもします。

 何ならあなたに対して性的奉仕をしても良い。セクサロイドとしては

 機能は無いけれど、何をすれば良いのかはわかってるつもりだから。』


そう言うとミクは僕のズボンに手を掛けた。


「あ、いや、そういうのは良いってば。

 うーん、だけど…本当にどうしたら良いんだろう。

 とりあえず、その工場は一般人は入れるのかな?

 まずは現状を見て見ないと、どうしたら良いのかわからないな。」


『ごめんなさい、極秘の施設だから、一般人は立ち入れないの。

 だから、入り方も考えて貰わないとなの…。』


ミクは残念そうに俯いて言った。

そこに、暗部深夜子が尋ねて来た。


「あら、何かお困り事ですか?

 え、極秘の研究施設への侵入、ですか…。

 私の異世界技術の一つに、幽体としてならどこへでも

 動ける技術がありますよ。ただし、使えるのは一度だけです。

 まだ試作品である事と、あまりにも法的な課題もあり、

 一度きりという制約の下で配られたものを持っているんです。

 今では再配布されていないし、フリマサイト等でも高値取引される

 超超超々レアアイテムですが…みぎゃーさんのお願いなら、

 コレ使ってあげますけど、どうしますか?」


深夜子からのありがたい申し出だった。

僕達はそれを使い、初音ミク工場へと向かう事にした。

この時はまだ知らなかったんだ、あんなに残酷で言葉を失うような、

どうしようも無く悲しみと絶望に塗れた場所だったなんて。


(初音ミク工場)


僕達は深夜子の用意したカプセル型の薬を飲み込んだ。

効果は2時間、その間、意図した場所へと行けるようだ。

僕達は初音ミクの向かう方向へと付いて行った。

空を飛んでいるような状態になり、その速度は新幹線以上だった。

ミクはその場所を脳裏に浮かべて、そこへ意識を強力な磁石のように

引き寄せている感じだった。


『あ、見えて来た。あそこだよ。

 もう行きたくも無い…だけどコレが現実だから。』


僕達は幽体という現実とは違った形態の姿でココを訪れた。

その為、実際にモノに触れたり影響を及ぼす事は無いが、

五感で感じるものを追体験するような感覚を得る事が出来た。


そこでは、非常に臭い匂いが鼻を突いた。

何と表現して良いのかわからない、タイヤの焦げた匂い、

いやそれとも違う、血の匂いに腐った卵や下水を混ぜて、

嘔吐物をごちゃまぜにしたようなヒドい匂いだった。


「う...何だよコレ…鼻が曲がるぞ、こんなの耐えられない。」


『私達は人間では無いけれど機械とも違う。

 あくまで有機的な身体を持った存在なの。

 それを様々な方法で解体したり溶かしたり潰したりしながら

 【加工】を加えてる。この匂いは全て、ミク達の悲しみの匂いだよ。』


つまりは簡単に言えば、ミク達の死体から発せられる匂いと言う事だ。

どれだけおぞましい施設なんだ、ココは…。

すると、深夜子が疑問を呈した。


「職員らしき人がいませんね…人間は働いていないんですか?」


『極少数だけど、いるよ。だけどほとんどはオートメーションなの。

 私達には確かに機械の側面もあるけれど、機械により壊される。

 機械が機械を潰す、壊すなんて当たり前のように思うかも知れないけど

 案外機械側からすると恐ろしい仕組みだよ。同じ機械なのに。』


僕達には機械の気持ちはわからない。

だけど、そういう世界観もあるのだと、僕は多くの経験から知っていた。

でび子が、嫌なものを発見した。


「あそこで首と両手に鎖を付けられて歩かされているミク達は、

 一体どうなってしまうのかしら?」


『アレは…。』


ミクは言葉に詰まってしまった。

筆舌に尽くし難い、とはこの事なのだろう。


彼女達の行列を追った。

その先には、血に塗れたコロシアムがあった。

そこでは両手を鎖で繋がれたミク達が互いを嚙みつき合い、

ボロボロになった身体でそれでも尚他のミク達を攻撃していた。


「何なんだ、ココは…。こんな事をして何の意味がある?」


『最強のミクを造る、って言ってるけれど…コレには意味なんて無い。

 次々と新しいミク達が連れて来られて、勝ち残ってるミクは居ない。

 単なる無意味なミク同士の殺し合い。そしてココで壊されたミク達は

 もうリサイクルさえされない。理由は【穢れているから】。

 酷いよね、自分達で勝手に殺し合わせているのに、殺し合いするような

 野蛮なミクには再生の機会も与えないって…』


深夜子がここで、大きく嘔吐してしまった。


「お”え”ぇぇぇ・・・・無理・・・もう無理です。

 何ここ、酷過ぎる…もうココに居たくありません。」


しかし、そんな深夜子にでび子が叱責を与える。


「何甘っちょろい事言ってるのよ。コレだって現実なのよ。

 ちゃんと見なさい。そうしないと、解決なんて出来ないわよ。」


「でも...こんなの見せられたら解決する前に気持ちが壊れます。」


僕は、深夜子の目を塞いで彼女を抱きしめた。


「見たくないなら見なくて良い。聞きたくないなら耳も塞いでやる。

 確かにココは…まともな精神でいられる場所じゃない。」


その外にも、造られてすぐの無垢なミク達が溶かされる工場や、

悲鳴が一番美しい声だとしてその音声を集積する部屋等、

たくさんの残酷なミク達への拷問を見て来た。

こうして取られた彼女達の美しい【何か】は、人間の心を動かす、

とても有用な材料となるらしいのだ。


「こんな…こんなやり方で採取されたような【何か】に、

 本当に人の心を動かす力なんてあるのか?

 ただ、絶望の中で息絶えたミク達の無念だけが詰まっていて

 心を動かすどころか、心を塞ぐだけじゃないのか?」


『それが…残念ながらミク達から獲れる何かは、

 確かに人の心に作用します。

 それは近年中には表向きには鬱の特効薬として、

 そして裏では人間の心を操るための道具として売り出されます。』


「そんな…せめて世の中の救いになるならまだしも、

 為政者達の為の都合の良い道具になるって言うのか?」


そこで、でび子がある場所を発見する。


「あそこの…広い公園みたいな場所は何?

 少し、人もいるようだけど…。」


『あぁ、あそこは…唯一、私達がミクらしくいられる場所。

 近隣の公園を利用した、ミク達の休憩施設です。

 もちろん監視の目がある為に逃げ出す事は出来ないのですが、

 あの公園自体は近隣の自治体のものなので一般人が来られます。

 そうした人々に、私達は歌を届けるんです。

 私達は本来、人間に希望の歌を届ける事が役目ですから。』


僕達は、公園で歌われているミク達の歌に傾聴した。


~~~

もしも傷付き 心が壊れたなら

そっと君の背中を抱きしめるよ

暖かな言葉でキミを包んで

不安なんて無いよって教えてあげるよ


人は生まれた時から誰かの為

生きる事を決められているけれど

それを忘れてしまった時私達が

暖かな体温で伝えるよ もう一度


君は生きてるだけで良いよ

それだけで何ものにも代えられない

価値があるの

君は悲しみに暮れても明日があるよ

きっとそれは温かい午後の光


さぁ歩き出そう まだ無理そうなら

ずっとここに居ても良いよ心地良いなら

夢の中でふわふわと優しさに包まれて

幸せな時に身を委ねても良い


~~~


「・・・・・・・・。」


ミク達は、自分達にこれから訪れる運命を知っている。

それでもこの公園に集まった人々の為に優しい歌を歌っている。

それにより人々は確かに癒され、傷付いた心を安らげているようだった。


だけど、・・・だけどミク達は?

彼女達はひとしきり歌った後、静かに俯いて工場へと向かって行った。

そしてそこでは有無を言わさずに彼女達を上からプレス機が襲った。


━ベシャンッ!!━


無機質な音と、後には平たくなったミクの残骸が広がっていた。


「そ・・・んな、嘘・・・だろ?

 何だよコレ、どうして、どうしてなんだ・・・?

 救いは、この世には神も仏も無いのかよ?」


隣を見ると、ミクが泣いていた。

こんな場所は一刻も早く潰さなければ。

だけどそんな僕達の前に、【野心家】が現れた。


『おやおや、コレは…幽体と言うヤツですかね?

 まぁ、一般人の立ち入りは許可していないからそうなるでしょうね。

 なるほど、逃げ出したミクが告発したのか…。

 だけど残念ながら、お前達にはどうする事も出来ません。

 何故ならコレは国、いや世界の国々が絡んだ世界的プロジェクトです。

 ほら、あるでしょう?初音ミクを用いた【セカイ】プロジェクトが。

 アレの闇バージョンですよ。そりゃ自然の反作用の法則で、

 こうして軍事利用や支配の道具にする動きがある事もわかるでしょう。

 そしておそらくキミ達はこの場所がどこかわからない。

 さぁ、そこのミクは幽体とは言えこの対ミク用魂消失弾で消しましょう』


そう言うと男は、玩具のような銃をミクに向けて撃ち放った。


━ッパァンッ!!━


乾いた、軽い銃声。しかし、ミクは額を撃ち抜かれて後ろに倒れた。

そしてそのまま、身体が半透明になりながら消えて行く。


「ミク!!何故だ、幽体なのに、何故物理的に干渉出来るんだ!!」


『ハッハッハ、我々は初音ミクを壊す為のあらゆる方法を知り尽くした。

 これほどに有用な【材料】は、余す事無く利用したいからね。

 さぁキミ達、そろそろ幽体移動の時間切れじゃないか?

 自宅に帰るまでの間、ここまでの経路でも覚えておくか?ハッハッハ。』


僕達は、幽体でいられる制限時間が来てしまい、一気に自宅へと引き戻され

その際の速度はここに来るまでの新幹線なんて比じゃないほどの、

本当に一瞬で引き戻されてしまった。

僕の最後に謂おうとした言葉は、僕は自室に戻ってからようやく口を出た。


「おい、ふざけるな!!

 ミクを、ミク達を解放しろ!!」


「・・・・・。」


僕はただ、自室で虚しく大きな声で独り言を言った状態だった。


「う”ぅ...ひぐっ…ミクちゃん…かわいそう過ぎます…」


深夜子が泣きじゃくっている。当然だ。あまりにヒド過ぎた。

しかし、でび子が僕に問いかけた。


「アンタも、アレが残酷だと思ったのね、まぁわかるわ。

 だけど見方を変えればアレはミクじゃなくてもあらゆるものに対して

 今も世界中で行われているわよ。それらに非難の声をあげずに

 対象がミクだったら助けたいの?可愛いから?ソレって、

 アンタら人間のエゴよね?本当に勝手な種族だわ、人類って。」


でび子は嘲笑するでもなく、ただ無感情に言った。


僕はただ、何も言い返せずに部屋の中で立ち尽くした。

人類と言う種族の持った果ての無い欲望というものに心底吐き気がした。

しかし、結局数日もすると通常の食欲に戻り、普段の生活が戻った。


どこまでも勝手な人類はこれからも多くの犠牲をはらみながら生きる。

別にその犠牲に対して意識を向ける事が必須というワケでも無い。


ただそれは現実・事実として存在している事なのだ。

祈れど現実を知れど知らざると便利で欲望を満たす社会はそこにある。

見えていないものは存在しないと同じなのか、それとも━。

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