知③
「争った跡……消えたご夫妻。事件性しか感じられませんねぇ」
「朝倉刑事、俺は外にいた方がよろしいのでは? 部外者ですし。実際管理会社の方も室外にて待機されていますし……」
識がそう進言した時だった。
鑑識官の森野に声をかけられた。
「いいえ、進藤さん。貴方はもう関係者よ。いてくださる?」
「えっ?」
「朝倉君と組んでいるのでしょう? それに協力者として既に足を踏み入れすぎているわ。諦めて……最後まで付き合ってもらわないとね?」
「言い方が少々ひどいですが、進藤さん。貴方はもはや立派な協力者、相棒ですからねぇ。それに、貴方だからこそ気づけるものがあるのではないでしょうか?」
(俺だから、気づける……ことかぁ)
言われて、鑑識官達の邪魔をしないようにしながら室内を観察する。
(争った跡を隠蔽……か。違和感があるとしたら……壁?)
識が視線をやったのは、特に激しく争った形跡を鑑識が見つけた居間の左側、窓際の壁だ。
その壁に集中して見つめてみる。鑑識の技術によって、そこから血痕は見つからなかったが……塩素反応などが出たと先ほど森野と会話していた鑑識官が言っていた。
(塩素反応……痕跡を消す……何故夫妻と争った跡を? 抵抗されたから? 何が理由で? ……世那まりかが軸?)
――全ては、世那まりかを中心にして動いているのではないか。
「進藤さん? どうされました?」
「いえ、あの壁が少し気になりまして……何故かはわかりませんが」
「ふむふむ? 確かあの壁からは塩素など……成分分析に回さないと分かりませんが、反応があった所ですね?」
「そうですね。なんであの壁にだけ反応があったのかと……それに、塩素って海水にもありますよね? 連想してしまって」
「久川さんと……ですか」
「はい……なんていうんでしょうか。全ての起点に世那まりかがいる。そんな感覚があって……憶測の域を出ませんが」
「全ての起点、ねぇ?」
朝倉は考え込むような仕草をすると、識の方へ視線をやり、静かに呟いた。
「その観点は大事かもしれません」
「そう、ですか?」
「えぇ、そうです。とても大事な観点です」
朝倉の言葉で、識はより深く思考を巡らせる。
(世那まりかにはストーカーの性質があった。そんな世那まりかが偽名でマンションを借りていて、彼女の退去後にそこから盗聴器が発見された。考える限りだと……推測ばかりで嫌になるが、世那まりか自身もストーカー被害を受けていたとしたら?)
こんなの突拍子も良い所だ。
だがらこそ、その証拠を見つける必要がある。
立証する、必要がある。
そのためにも……今急がれるのは、世那まりかの両親の行方を突き止める事だ。
事件性が高い以上、警察も動くしかない。
その中で、洋壱の死とどう関わっているのか……そこを知るためにも、夫妻を探すのが先決だ。
多中の借りているアパートへ家宅捜索で入った、竹田達の協力も必要だ。
全ては――事件を解決するために。




