七神剣の森
そして、神話の始まりの日。
魔女タナルキアの報告を受けて、剣の仲間達が久々に揃った。
大樹の虚のひとつに、地下へと繋がる穴が出来ているというのだ。
移民船は戻らず、人々の暮らしは大樹の幹の上ではこれ以上の発展が望めない。それならば、地下に新天地を求めてみるのも良いかもしれないな、とレオンは考えた。ラストリゾートで調光してやれば、地下だって快適な空間になるだろう。問題は、どんな規模の穴なのか、ということだが。
「…入り口は大したこと無かったですが、これは深そうですね…。虚の位置までの高さの倍は下に続いていそうです」
「そんなに…!?」
セルシアの言葉に、仲間達は気を引き締める。
一行は玉犬の背に乗り、緩やかに下降していった。
何キロメートル下降しただろうか。やがて、大きな空洞に出た。大樹の根はその空洞を意に介さず、更に下に伸びている。闇は深く、お互いの姿すら見えない。
「〈調光〉」
レオンがラストリゾートを掲げると、その空洞に光が満ちた。
「これは…!」
そこに広がっていたのは、青く輝く洞窟。大地と壁面は黒く豊かな湿り気を含み、所々で玻璃や水晶結晶が見える。それらが煌めいて、夜空に青い星を散りばめた様になっていた。
空洞上空から全体を見渡すに、広さは十キロメートル四方は下らないだろう。高さは一キロメートルあるかどうかの様だ。想像以上に、巨大な地下空間だった。
「良いね、ワクワクするねー!」
クリスがココを駆って飛び出す。
「こりゃ凄い、これ全部土か!?」
インカーが床を目指してぐんと下降する。
「インカーさんの街も巨大な地下都市でしたが、此処に都市が出来たらもっと大きなものが出来そうですね。確かにこれは、心躍るなぁ…!」
セルシアも目を輝かせる。フィーネは壁面を伝う水を調べていた。
「んー、残念ながら塩水ですね…。でも、大樹の根の付近は真水があると思います。その辺なら…」
「移民出来そう、って話かね?」
魔女が尋ねる。フィーネが花開く様な笑顔を見せた。
「はい!リオンさん、サンリアさん、これはお手柄ですよ!」
やがて全員が地に降り立ったレオンの周りに集まった。
「皆に提案がある」
レオンの挙手に、一同は頷いた。
「ここを全部都市にしてしまうことも、確かに考えたんだけどな。多分それだと環境的に破綻すると思うんだ。だから、俺はこの数十年見ていなかったものを、ここに復活させようと思う」
クリスがその通りだと言いたげに頷いた。
「ラストリゾートを、この空洞の天井に刺して封印する。それで光を全体に行き渡らせて、海水から真水を作って雨を降らし、風を循環させる。熱の調節もしてもいいかもしれない、太陽みたいに」
「新しい世界を…ここに作ると?」
アザレイが半信半疑でレオンに問うた。
「そうだ。そして、ここを森にしたいんだ。俺達が旅した危険な森じゃなくて、人の生活に確かに寄り添ってくれる、豊かな森に。
都市は小さな街レベルのものを作ろう。それで足りなければ、他に空洞が作れないか探す。森は減らさない。後はそのうち、草原と、砂丘と、綺麗な湖が欲しいかな。それを森で繋げて、維持したい。俺達が海に慣れて忘れてしまう前に、人の色んな暮らし方を思い出して、守っていこう。
賛同して、手伝ってくれるか?」
それを聞いた時、皆が思い出していたのは、自分達があの数ヶ月間で巡った、実に多様な世界と深く広い森の様子。それらに対する望郷の念は、皆の一致するところだった。いいぜ、やろう、面白そうです、と皆から賛同の声が上がる。
「有難う、皆。俺の思いつきに付き合ってくれて。
──それじゃあ、取り戻そう…いや、新たに創ろう。七神剣の森を」
夜明けの神は、終の剣で天を切り拓いた。
──完──