本当に!!
渡と武のちょっと残念な再会から少し時間が経った。
渡は父と風呂で語り合い、武は母と渡についてどういう状況で戻って来たかを話し合った。
渡はと言えば、風呂と言うものにカルチャーショックを覚え父を逆に驚かせたりして……まぁ、ソレも仕方のない話。渡の過ごして来た場所はと言えば、風呂など無く井戸の水で体をふく程度の環境だった。
そりゃ驚きもするだろう。暖かいお湯や水が使いたい放題で、あわあわぶくぶくとしたモノが体に纏わりつきゴシゴシと洗われて行く。
そして、風呂に浸かれば全身の力が抜けていくような感覚に陥るのだ。これをカルチャーショックと言わずして何というのか。
そして、そんな驚きを見せる渡に父は漸くホッと一安心した。いや、車に乗った時や町中を車で走った時も感じた事ではあるが、直接驚き子供の様な表情を見たのはこれが最初。
そもそも、渡と話している時は、何処か大人びたと言うか壮絶な経験をしたのだろう、そんな雰囲気だったのだから……。そりゃ、親からしてみれば心配しか無いだろう。
場所は変わって武側だが、此方も此方でもはや何を口にしたら良いのか解らないと言った……正にお通夜と言っても良い雰囲気。
奈々の告げる言葉に、武は「うん」とか「あぁ」と単語でしか返事が出来ていない。まぁ、相打ちを打つことが出来るだけマシなのでは無いだろうか。
そして一通り話が終わった後、武は〝もうどうにでもなーれ〟と言わんばかりの精神状態になってしまった。だって、もうどうしたら良いのか本当に解らないのだから。
とは言え、彼が渡を責めたのも全ては両親の過労の為。根はやさしい子だ。それと、後ほんのちょっとの恨み言。何せ、渡を探すのに時間を使う両親だ。武に対して確りと構ってやれたとは言えないだろう。
とは言え、武まで居なくなってしまっては! と言う両親の思いは、武を相当大切にしてはいたのだが……まぁ、お互いの思いは中々伝わらないモノである。
「あー……良い湯だったなぁ」
「この世にあのような物が有ったなんて……」
風呂一つで大げさな! と思わなくもないが、ソレは両親や武がソレを日常としているからの話。
渡からしてみれば此方が非日常。とは言っても、地獄から天国へと来たと言っても過言ではない環境だろうか。
そんなほっこりとするようなワンシーン。
だが、此処で突如としてこの空気を破壊する音が響いた。
ピンポーンピンポーン!!!
空気を破壊した音の正体は呼び鈴またの名をチャイム。
だが、それが何かを知らない渡は、何か襲撃か!? と、戦闘準備。
「あー……落ち着け、来客の合図だ」
「客? このような時間に客なのか? 刺客と言う意味の客じゃないよな?」
「……一体どんな場所で生活してきたのさ……」
弟君。その疑問は正しい。しかし、渡はそんな生活から漸く戻って来たのだから、長い目で見てやって欲しいモノである。
それはそうと、来客の合図なのだからと修一が客の確認をし……ふむ、と何か理解した様な顔をした後玄関の方へと向かって行った。
「あら? 誰が来たのかしら」
「さぁ、警察とかじゃね? この人が何処で何をしていたのか解ったから説明に来たとか」
それは無い。無いのだがそう考えるのも自然な流れ。
だが、どうやら客と言うのは警察などではない様で……ドダバタ! と廊下を駆ける足音が響いた。
そして、そこに現れたのは……。
「あー! 本当に、本当に戻って来てるぅぅぅぅ!!」
渡にとって見覚えも無いはずなのに、何処か懐かしさを感じさせる。そんな女の子が現れた。
ヒロイン登場です。
そして相手は……まぁ、プロローグに出て来た娘ですが。