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にぃにと呼んでいたと言われても……。

 リビングを沈黙が支配する。どうやら兄と弟の再会は感動のと言うものでは無かった様だ。

 と言うのも、弟君が帰って来た時は特に何も無かった。ただ彼がお客さんが来ているんだ程度。


 しかし、両親である修一と奈々が弟君が部屋に上がるのを制止。其処から渡について会話を始めてからが問題だった。

 話が進むにつれ……弟君の表情が険しくなっていった。


「なんだよそれ、今更になって帰ってきたとか意味不明だし」


 そして、ようやく口から出た言葉が兄である渡を拒絶する言葉。

 これが本当に「にぃにはどこぉぉぉ!」と泣き叫んでいたのだろうか? いや、それともこの十年の間に何かあったのか……有ったのだろう。でなければこの様な態度をとるとは思えない。


「ふむ……どうやら弟とやらは俺の事を認めていない様だ」

「待って! ちょっと武! ようやく戻って来れたお兄ちゃんになんて事を!」

「いや、今更だろ! 帰って来れるなら何でもっと早く帰ってこなかったんだよ! 当の本人は弟とやらとか言ってるし!」


 母の奈々が弟である(たける)を窘めようとするが、その弟である武は更に反抗。

 と、此処で渡はようやく弟の名前が武であると言う事を知った。まぁ、知らなかったとはいえ、弟とやらと言ったのは少し間違いだったかもしれない。

 だが、そもそもそれまでの会話に弟の名前が出ておらず、渡が家族の事を忘れていたにも拘らず、それを知っていたのに周囲の人の名前を教えていなかった両親の落ち度と言っても良いだろう。


 とは言え、その様な事は弟の武には全く関係が無い話。


「どうせ、家族の事なんて忘れる程気ままに生活していたんだろ! 今頃帰ってきて何の用だよ! 父さんに母さんもなんだよ! どれだけ苦労して……」


 知らないと言うのは救いなのだろうか、それとも罪と言うべきなのだろうか。

 渡の過ごしてきた日々は、武が考えている以上に地獄と言える生活だったのは間違いない。それを、知らず知らずとは言え、簡単に帰って来れる場所から何となく返って来たのだろう! と、勝手な想像で渡を責める。

 とは言え、此処で責める武を頭ごなしに押さえつけるのは間違いだ。何故なら、この平和とも言える環境で過ごしてきた武に、渡の過ごしてきた日々を想像しろと言う方が無理。

 寧ろ、きつい生活だと言われたとしても、毎日のご飯が一食だったとか、スマホやテレビが無い生活だったのだろうと想像する方が容易だろう。


 そして、武が激怒している理由は両親に有る様だ。

 渡からしてみれば解らない事だが、両親である二人は余りにもの心労からか、見た目が十歳以上老けて見えてしまっている。修一など、所々に白髪がちらほら。オデコが後退してないのがせめてもの救いだろうか。


「たけ「ふむ、どうやら俺の置かれていた環境と彼の想像ではかなり乖離が有る様だ」……渡?」


 奈々が武に対して叱ろうとするが、其処で渡が奈々の言葉を遮って自分の意見を言った。

 渡は飛ばされた世界においてかなり修羅場を潜って来ている。それは、戦闘においてもだが、対人関係においても……それこそ、あちらの世界では少しした事で命のやり取りになる事もあり、こうした時の心理を読むと言う事も磨かれてきている。

 そして、渡は自分と弟の考える渡の生活に、エベレスト……いやマリアナ海溝よりも深い溝が有ると察した。


 なので先ずはその溝をどうにかしようと、渡は行動する。


「まずはこれを見て貰おうか」


 そう言って服を脱ぎだす渡。


「ちょ! 行き成り服を脱ぐとか露出きょ…………って、なんだよそれ」


 武は初めてで両親は二度目。

 その目に映るのは、渡の体に有る無数の切り傷や火傷などの跡。二度目と言っても両親としては目を逸らしたくなるソレ。

 そんな傷を見て、武はその後言葉と続ける事が出来なくなってしまった。


「ま、こんな怪我をする場所に居たんだ。簡単に帰って来れる様なモノでも無かったよ」


 渡が思い出しながら苦笑する。とは言え、笑って済ませられる様な跡などでは無い。


「……一体何をしたらそんな傷になるんだよ……」


 今までとは違い、力が全く籠ってない声。想像していた物とは違う。寧ろ、想像を絶すると言っても良い証拠と言える傷跡。

 そのようなモノを見せられ、誰がその傷を持つ者を責める事が出来るだろうか。弟である武もまた、責める言葉を失いどうしたら良いのか解らない。そう言った境地に陥ってしまった。


「と、とりあえず今日は再会を祝おうじゃないか! そうだ渡! まずはお風呂に入ってきたどうだ? 入り方は解るか?」

「風呂? 風呂とは?」

「む、風呂が解らないか……風呂と言うのはだな……っと、そうだ父さんが入り方を教えようじゃないか!」

「あーありがとう……で良いのか?」

「そうだな! こういう時はありがとうで良いと思うぞ」


 沈黙してしまった状況で、修一が思わずと言った感じで渡に風呂を進めた。

 そのフォローに奈々と武がホッと安堵を覚える。しかし、其処で終わる訳にはいかないと修一は奈々にアイコンタクト。


「武。とりあえず荷物を部屋においてきたらリビングに集合ね」

「あ、あぁ、解ったよ」


 と、その様か感じで家族全員の再会は、ものの見事に上手く行かなかった。

 だがそれは、お互いがお互いの過ごしてきた環境を理解して居なかったが故のすれ違い。


 一度リセットの為に動いた後、両親が共に上手くフォローをして再会のやり直しとなる。

 そして、それが上手く行くかどうかは二人次第だ。

デカルチャー!! とは叫びませんよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弟の気持ちも解るが、もっと話を聞いてから結論を出して欲しいよね。 ただでさえ記憶が全く無いのだから、当時の事を責められても謝れもしないよね。
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