#砂時計の砂が落ちきる前に(9)
『起きなさい!早くご飯食べて学校に行きなさい!早くしなさい!』いつもの様に聞こえる母のイラついてる声は、今日の彼女にとって全く気にもせず、明るく元気に返事をし、布団から飛び上がり、転ぶのでは無いか?と思うくらい階段を駆け下り台所へ向かった。
『おはよー』家族に言った。返ってくる言葉は、妹の『お姉ちゃん、おはよー!』
だけ。でも、彼女は両親から返ってくる返事がなくてもヘッチャラだった。なぜなら、学校に『友達』がいて、クラスのみんなが挨拶を返してくれるから、だから、なんとも思わなかったのだ。食事を済ませ、仏壇に飾らた亡き祖父の写真に手を合わせ『おじいちゃん、おはよう!今日は楽しい一日になりそうだよ!おじいちゃん見ててね!』彼女は祖父に報告し、直ぐ洗面台に向かい髪を束ね始めた。いつもは二つ結びで学校に行っていたが、今日の彼女は一つに髪を束ねポニーテールにした。学校へ向かう彼女の足取りは軽く、途中から走り、一つに束ねた細くサラサラした髪が揺れ、学校までの道のりがまるで花のアーチを通っているかのように感じた。
あっという間に学校に着く。
『おはよー!』久々に彼女の元気な声が飛ぶ。
『おはよー!』クラスメイトも元気よく返してくれる。
彼女は自分の席に向かう。今まで気付かなかった事に彼女は気付く。
彼女の席だけ太陽の光が差していたのだ。
また彼女は嬉しくなり、『今日、本当にいいことありそう!』彼女の心は踊りだす。
席に着き準備を終え、眩しい太陽に手をかざし、太陽の光が暖かいのに気付く『太陽ってあったかいんだ』
太陽に気を取られている彼女。彼が彼女の隣に座り彼女と同じ目線、同じ動作で太陽に手をかざしていた。彼女は全く彼に気付いていなかった。
『おはよ!太陽に手を当てて何してんの?』
彼は彼女に聞いた。
彼の存在に全く気付いていなかった彼女は彼の声でビックリした。
『わぁ!!蓮くんおはよう!』焦って挨拶をする彼女。
彼の名前は『水上 蓮』
彼女にとって初めての『友達』
そう、彼は以前『皆んなが笑わえること』を教えてくれ、そして何より、彼女が笑っていた事を気付いてくれた人である。
『蓮くん知ってた?太陽ってあったかいんだね!』彼女は言った。
彼は『当たり前じゃん!太陽は暖かいよ!むしろ暑いね(笑)』彼女は笑った。
チャイムが鳴り出す1分前、彼は彼女に言った。『昼休みにドッチボールしようぜ!給食終わったら体育館に来いよ!』
彼女にとって初めての誘い。
『うん!やる!』彼女の声は明るかった。
給食を食べ、走ってはならない廊下を走り出す彼女。走ってる姿を見つける先生。
『こらぁー!走るな!廊下は歩くところだ!』先生に怒られ、先生に向かって手を振り『はーぃ!』と言い早歩きで体育館を目指す。入学して初めて昼休みに体育館に来た。
今までは教室か図書室でチャイムが鳴るまで絵をひたすら描いていたのだ。
体育館に着く。彼女は周りを見渡した。
行き交う複数のボール。狭い体育館でも限られたスーペで相手にぶつからないよう不思議なほど上手くハンドベース、キックベース、ドッチボールをする生徒達。彼女は圧倒されていた。圧倒されている彼女の横から『あぶねー!』声のする方へ目を向けるとソフトボールが飛んできた。一瞬の事だった。彼女の手にはボールを掴んでいた。彼女より年上の男女2人の先輩が駆け寄る。『ごめんね!大丈夫?痛くなかった?』
『はい。大丈夫です!』彼女は言い、ボールを渡した。
彼女は彼を探していた。でも彼が見当たらない。動揺する彼女。ギャラリーから体育館を上から見つけてみようと彼女は思い上へと上がる。そして、また彼女は探し始めた。たくさんの生徒達から見つけ出せるのか不安が襲う。そして彼女は思ってしまった。『まさか、嘘を言われたのかなぁ…』と。
不安に襲われながら探したが彼の姿は見えなかった。
肩を落とし落ち込み溜息が出る彼女。涙が出てきた。
ギャラリーの柵に手を置き顔を伏せた。
『おーぃ!ここに居たのか!ごめん!』彼女の肩に手触れた。彼の声だった。
『先生に呼ばれて教務室に行っててさ。やっと終わって体育館行ったのに皆んな居ないし、お前も居ないしさ。体育館から上見たらお前見つけて………………………』彼は驚き沈黙する。『お前……………泣いてんの!?』
彼女はずっと顔を伏せ黙ったまま。
彼は『ごめん。泣くなよ。』
それでも、ずっと顔を伏せ黙ったまま。
彼女は、彼が嘘ついてると思い込んでしまっている自分自身にイラつき、彼に申し訳ない気持ちと、彼の声を聞いてホッとしたのもあり、涙が止まらなかった。泣いている顔を見られたくもなかったからだ。
隣で、ずっと彼は謝った。
『逆に謝らなきゃいけないのは私なのに…。』彼女は顔を見せず服の袖を引っ張り涙を拭った。
『泣いてないよーだ!』手で伏せていたおでこは赤く、鼻も赤くなった顔でニコっと笑い彼に言った。
ホッとした表情の彼は、笑いながら『お前さ、トナカイの鼻みたいに赤くなってるぞ(笑)よし!放課後グラウンドでサッカーしようぜ!』
残された時間、2人は図書室へ行き時計の図鑑を観ていた。その図鑑にはたくさんの時計が載っていた。彼は図鑑の時計に指を指す。




