第117話:置いてけぼり
どもどもべべでございます!
締め切りまで後20分という事で投稿! 危なかったです。
というわけで、本編はここまで!
あとは、エピローグを語らせていただきましょう!
最初に感じたのは、微睡みでした。
もはや眠いを通り越してもっさりした気分。楽しくも悲しい夢から一転して、お布団の暖かさに包まれています。
ふと、私の口に甘い何かが入り込みます。顔を少し触ってみると、僅かにですが濡れていました。
これは……泣いているんですか、私。まさかこの甘い汁が自分の樹液だとは、思いもしませんでしたとも。
自分でも思いのほか、辛い別れだったという事でしょうか。あの時の世間樹ちゃんの笑顔が、思い出されては消えて行きます。
うっかりアンニュイな気分になってしまう私です。お布団に顔を埋めつつ、涙を拭います。
くよくよしている時間はありません。世間樹ちゃんとお別れしたという事は、茶渋さんが人生コンテニューに成功したという何よりの証拠。
はやくこの微睡みから抜け出し、駆け付けなければ。
……ふと、そこまで考えた所で、違和感を覚えました。
私ったらたしか、お外で意識を失ったはずなのですが? そう、茶渋さんとゴンさんが歴史的大決戦を行ったあの場所で精神世界に入ったはずなのです。
それなのに……お布団? この柔らかな感触は一体……。
『……起きたか、ちんくしゃ』
「…………」
……なるほど、ね。
『おい! 何故無言のまま服を脱ぎ始める! やめんかたわけ!』
「意識のない私を抱きしめてたんですよね!? それってもうそういう事ですよね! 大人の階段昇ってシンデレラストーリーを突然におっぱじめていいって事ですよね!」
『ぬおおおお! 変に興奮して力が増しておるな貴様! 我が引き剝がすのに苦戦するとは!』
「ここちゃん。そいつ意識を失ったここちゃんをペロペロしてましたよ」
『余計な事を言うでないわ!?』
ほぉらねーちゃんが教えてくれましたよ!
これは確定ですね! オベロン様、心和は今日大人になります!
「……あの……」
「はぁ、はぁ、何人くらい産めばいいですか? 種なら無限に生み出せるのでどんどん仰ってください」
『まだいらんわ! そういう場合でもなかろう!』
「あぁ失敬! 種を出すのはゴンさんの方でしたよねHAHAHA!」
『嫁がそういうド下ネタを口走っている光景を見せられた亭主の気持ちも汲めポンコツがぁ!!』
「あ、あのぉ……」
あひゃあああ! 嫁! 亭主! イコール夫婦! アドレナリンが止まらない!
ほらほら早く私を強く抱きしめてください!
「あ、あのぉ!」
「なんですか今忙しいんですよ茶渋さんは黙っててください!」
「えええ!? ボクだと認識した上でそういうドライな対応できるの!? 本当に目的を見失ったんだね!?」
そう、この時の私は、目的を見失っていたのです。
数刻後にはベッドルームにいて、顔を覆ってスンスン泣くゴンさんの横でたばこを吹かしている妄想が脳内からドップドップ出ていました。
だから、ゴンさんと同じくらいのサイズに縮んだ茶渋さんの存在をあまり認識できていなかったのです。
「うぅ、どうしたら……」
「失礼いたします、茶渋様」
「あ、貴方は……!」
さぁ、腕力でゴンさんに勝つという快挙を成し遂げた私の猛攻は止まりませんとも。
今まさに、ゴンさんを押し倒して肩を押さえつけ、熱いベーゼをプレゼントしようとしています。
ゴンさんが絹を裂いたような悲鳴を上げているのがまたそそります。嫌よ嫌よも好きの内とはよく言ったものですねふはははは!
「ココナ様。ドゥーアの特産である香辛料を用いたお茶を兵士の方から調達できましたが、いかがなさいましょう?」
「なんですって!?」
香辛料!? それってもしや、スパイスティーという奴ですか!?
心和の記憶で一番新しいのといったら、ミルクティーに香辛料を入れたチャイなんかがあげられます。その文化を、まさかドゥーアの皆さんが保持していたとは!
飲みたい。是非飲みたいですよ!
「こうしてはいられません。是非そのスパイスティーを……あれ、なんでゴンさんが私の下にいるんですか?」
『……ふん!』
「ほぎゃあああ!」
ゴンさんの胸板がバンプアップし、その反動が上に乗っていた私を大きく弾き飛ばしました。
森の中にいたため、私は顔面から木々に突入。首だけ刺さった状態でブランと釣り下がってしまいます。
『……さて、戻ってきたようだな。アル――――』
「おっと、今の僕は茶渋だよべアルゴン。改めて、ただいま……だね」
『……ふん。帰還を褒めてやろう、茶渋よ』
私の下から、尊さしか感じられない会話が聞こえてきました。
……そうでした。私、茶渋さんを助けるために精神世界に行ってたのに……すっかり色々ぶっ飛んでしまっていましたね。
「ご復活、おめでとう存じます。茶渋様」
「君は、僕を止めてくれた人、だったよね? うっすらとだけど、覚えてるよ」
「ノーデと申します。そして、あちらに隠れているのがキース様でございます」
「ちょ、俺を紹介するんじゃねぇよ……!」
なんと、ノーデさんとキースさんが来てくれていたのですか。
私が意識を失ってる間に合流してくれたのですね。私の暴走を止めてくれたのは、素直に感謝しかありません。
「……ごめんね。ボクは君に、ヒドイ事をしてしまった。……理性の中でずっとみていたよ」
「なんとおっしゃいますやら。貴女様の御前に立たせていただくという栄誉、この身に余る光栄にございました。私などに貴重な時間を使ってくださった事に、深く感謝いたします」
「えええ? い、いや、お礼を言われても困るというか……!」
「あ~、気にすんな。こいつはデフォで狂ってるんだよ」
ふふふ、どうやら茶渋さんとはすっかり仲良くなっているようですね。
よかった。まぁノーデさん達なら心配はしていませんでしたが、それでも安心した事には変わり在りませんとも。
「……守護者様、おめでとうございます」
『うむ、出迎えご苦労。万事うまくいったぞ』
「はい。このノーデ、敬服いたしましてございます!」
うんうん、私も嬉しいですよ。
「……まさか、本当に邪獣を無力化してしまうなんて。未だに信じられません」
『ふん、エルフよ。これでもう、貴様と対立する理由はないな』
「そんな訳が無いでしょう。……しかし今後は、様々な環境が大きく変わっていきます。その変化についていく為にも、貴方との関係を見直さないといけませんね。あまり確執だけを見ていてもいけないと、痛感しましたよ」
「よ、よろしくね、エルフさん。……あの、この前は、ごめんね……」
「……ふふ、貴女も、これから苦労しますよ。一緒に頑張りましょうね」
「う、うんっ」
素晴らしい。ねーちゃんもちゃんと和解の意志を示しています。
今この瞬間、全ての生物は一丸になって、未来に生きる可能性を見せてくれていますよ!
私が望んだ世界が、ここにあるんですね!
『ふぅ……我は疲れた。帰るぞ。チビ助、とっととチビ王達に成功の報告をせい』
「は、では我が王に連絡をいたします」
『うむ。鬼にはデブエルフから言伝しておけ』
「へいへい……しばらくは帰んねぇからな」
そうですねぇ、すっかり私も疲れてしまいました。
帰ってお茶が飲みたい……さぁゴンさん。私を引っこ抜いて、その胸で包み込んでくださいな!
『よし、行くか』
「うんっ」
「ネグノッテ女王様も、良ければお茶などいかがでしょう?」
「……しかたありません、呼ばれましょう」
……あれ? 帰るムードですか?
誰か忘れていませんか?
「ゴンさん? ゴンさ~ん?」
『……ふん』
「あの、守護者様……」
『行くぞ』
え? マジですか?
生娘みたいな悲鳴上げたのがそんなに屈辱でしたか!?
でもゴンさんもペロペロしたんですよね!?
「じゃあな~」
キースさんはもう私を認識すらしなくなった!
えぇい抜けなさい! このっ、このっ! あぁ、なんか私の涙で成長した木々が絡まって抜けない!
「いやあの、べアルゴン?」
『構わん。あ奴はいい加減に反省すべきだ』
「えぇ……恩人なんだけど。でも、確かにあの行動はなぁ……」
あ、茶渋さん的にもダメでした?
恩人がいきなり弟を押し倒してにゃんにゃんしようとしたのはアウトでしたか!?
のう! 足音が遠ざかっていく! 待って皆、まってくださいぃ!?
「ま、なんにせよ、だ」
ビッチビッチと跳ねる私の下で、キースさんの声が聞こえてきました。
「これにて、一件落着だな!」
……うん、まぁ、そうなんですけどね?
結局、私はそのまま放置され、皆さんは麗しのわが家に戻って行ったのでありました。
まぁ、途中で枝を操作して出れば良い事に気付いたので、鬼の形相で追いかけさせてもらいましたけどね?