第116話:帰還
どもどもべべでございます!
さぁ、後はラストまでの道筋を描いた後に、エピローグかな。
後数話といったところでしょうか。
長かったけど、楽しい物語。
最後まで、駆け抜けましょう!
なんという見事な流れでしょう。
まるでちょっとアレな薬物でもキメたかのような粗ぶり様を見せつけたゴンさんは、その昂りのままにお父さんイルミネーションをのしてしまいました。
強烈なラッシュを食らったお父さんイルミネーションは、せめて散り際くらいはカッコよくの精神を感じさせるエフェクトで、光に包まれたまま消えて行きます。
いやぁ、あんなの食らったら、絶対おかしくなっちゃう……もうゴンさん無しではいられなくなっちゃう可能性がありますよ!
どうします? 今度おねだりしてみますか?
『絶対せんからな!』
おうふ、速攻で拒否されてしまいました。残念です。
『くそぅ、なんという劇薬を飲ませるのだ……一気に魔力を発散できたから良い物の、一歩間違えば理性を失ったまま暴れておったわ』
おぉ? 世界樹の葉を飲むと理性が吹き飛んでしまうのですか。
つまり、かくあるべき場所でゴンさんに飲ませれば、それはもうビーストなゴンさんと熱い時間を過ごせるということで精神体が砕けんばかりに痛いぃぃぃ!
『例によって邪念を察知したぞこの淫獣が!』
「あぁ! 世界樹の魔力でパワーアップしたアームロックがしゅっごいですぅぅぅ!」
「……というか、なんでべアルゴンがここにいるんだい?」
あ、見事に自爆をすかされた茶渋さんがこっちを見てますね。
世間樹ちゃん共々、顔が赤いです。さっきまでドラマチックに決別の瞬間を迎えかけていたもんだから、うっかり生き残って絶妙な空気になっています。
『ふん、久しく会った同胞に対する態度ではないのではないか?』
「いや、人の中に弟同然な存在が入り込んでるのは、正直ちょっと引くよ?」
『助けてもらった者の反応でもないな! えぇい、相変わらずああ言えばこう言う奴だ』
「それに関しては礼を言うけどさ……でも、正直タイミングとか色々あれだよね」
『ちんくしゃに言えちんくしゃに! 我とて被害者だぞ。よりにもよって、世界樹から絞り出した茶を飲まされたのだからな!』
おやおやゴンさんったら。久しぶりにお会いできた茶渋さんと、あんなに楽しそうに会話しちゃってます。
100年ぶりの再会ですからね、積もる話もあるのでしょう。いずれ大陸に名を馳せる良妻賢母たらんとしているこの心和、旦那様の邪魔になるような事はいたしませんとも~。
「というか、ずっと見てない間に太らなかった? なにさこのお腹。ぐうたらし過ぎなんじゃないかな?」
『えぇいつまむでないわ。貴様と違って100年歳を取ったのだぞ。これは成長したと言うのだたわけ!』
「ふぅん、どうだかねぇ」
『貴様こそなんだ。昔の威厳などまるで無くなって、小娘同然ではないか!』
「ボクは昔から弱かっただろう? だから君に守ってもらってたんじゃないか」
『貴様がそのようなたまだったら、我はもっと苦労しておらなんだわ』
……湧き上がる嫉妬心!
ゴンさんは私の旦那様なんですけどぉん!?
でもモフモフ2匹が戯れる光景は眼福が過ぎるので後で間に挟ませてくださいお金払いますんで!
「……失礼ながら、口を挟んでもよろしいですか?」
『む、許すぞ使用人の小娘』
「なぁに? 世間樹ちゃん」
『世間樹だと!?』
おぉ、世間樹ちゃんが2人だけの世界を叩き壊してくれるご様子! ナイスですよ~!
「ありがとうございます。先ほどべアルゴンさんは肥大化した不浄を散らしてくださいましたが、それでも根元を断った訳ではありません。茶渋さんがまだご存命なのが何よりの証拠です」
「ん~、そうですねぇ。また何か姿を変えて出てくるかも……」
「お母さんは発言しないでください。また何か良からぬ妄想をしたら、不浄が活性化しますので」
我が子が反抗期でちゅらい……。
でも、お父さんイルミネーションの前科があるので何も言えない……。
「私が根を張る事が出来た今の内に、早くここから出る事を進言致します。茶渋さんの為にも、お願いいたします」
『……そうだな。ここに長く居る必要などない。貴様の言う通り、早々に立ち去るとしよう』
……そっか。
いよいよ、本当に世間樹ちゃんとはお別れなんですねぇ。
少し、いやかなり寂しいですね。でも、確かにまた不浄が湧き出る事を考えたら、早く出ないといけません。
「……お母さん。お別れです」
「世間樹ちゃん……」
改めて、世間樹ちゃんと見つめ合います。……あぁ、思い出してしまいますね。
ここに来てから、ずっと寝床になってくれました。
泉も綺麗にしてくれました。
それに、ノーデさんを事実上の不死にもしてくれました。
彼女からは、本当にたくさんのものを貰いましたとも。
そして今も、茶渋さんを支えてくれる柱になってくれる……その身を捧げてまで。本当に出来た子です。
願わくばワガママもたくさん聞きたかったのですが、自我に芽生えて1日ですからね。急な出会いと急な別れです。
「世間樹ちゃん。私、貴女とこうしてお話しができて、本当に良かったです」
「私もですよ、お母さん。貴女は本当に、何をするにも規格外で……私、ずっと見てたんですよ? お話したいって、思ってたんです。……こうして、最期に話ができて、本当に良かった」
やだ、そんな事言われたら……揺らいでしまうではないですか。
「ダメですよ、お母さん。貴女は、自分の決めた事は最後まで押し通してきました。そんな貴女を、私は誇りに思っています。……だから、ここでも、私の好きなお母さんでいてください」
「…………」
そう、ですか。
……そうですね。
私は光中心和。お茶の為に、あらゆる手を尽くす女。
彼女がそんな私を望むのならば、私はそうあり続けましょう。
元より、この生き方しか知らない身。ここで意見を翻しては、今までの私を否定します。
「……世間樹ちゃん」
「はい」
「またね!」
「はい。また」
同時に、私と茶渋さん、そしてゴンさんの体が、光に包まれます。
あぁ、お別れの時が、来てしまいました。
「ありがとう、世間樹ちゃん。ボク、君を寂しくさせないようにするよ」
「えぇ、これからは、よろしくお願いいたします」
茶渋さんと世間樹ちゃんが、握手を交わします。
『おい、樹』
「はい」
『忠心、大儀である』
「感謝の極み」
なんとなく、ノーデさんとのやりとりみたい。
それだけ、ゴンさんは彼女を評価してくれてるんですね。
「皆さま、いと健やかに」
彼女が頭を下げ、私達を見送ります。
同時に、私達の視界も光に包まれ、何も見えなくなりました。
……さようなら、世間樹ちゃん。
これからも、よろしくお願いいたします!
『……惜しいな。あれは』
「え? ゴンさん、今何か言って……」
そこで、私の意識は現実に引っ張られて行きました。