第114話:最後の足掻き
どもどもべべでございます!
やばい仕事いかないと!
どうぞ、お楽しみあれー!
さて、後は仕上げだけですね。
既に基盤は出来ています。ここに来た時、最初に種を植えたあれですね。
あの時、種を通して世間樹ちゃんの精神をこちらに移した事で、パスが繋がっているはずです。こうして、世間樹ちゃんがメイドさんモードになっているのがその証拠ですね。
「それじゃあ、早速行きますね?」
「はい、よろしくお願いします~」
「うん、お願いね」
今からやるのは、世間樹ちゃんと茶渋さんの統合。
彼女の存在そのものを、茶渋ちゃんに根付かせて存在維持のサポートをする手助けをさせる。茶渋さんの残り少ない理性を守る為に、世間樹ちゃんの全能力を使ってもらうのです。
これにより、彼女の本体はただの樹になってしまうことでしょう。しかし、彼女の精神は茶渋さんの中でちゃんと生きていくのです。何を悲しむ事がありましょう。
「…………」
「わぁ……」
世間樹ちゃんが瞳を閉じると、その体が光に包まれます。
綺麗な庭の中心。そこに佇み輝く彼女は、とても幻想的でした。
まるで、クリスマス間近にお父さんが無理して庭に飾ったイルミネーションのよう。
「お母さん、その例えは撤回を求めます」
「私特に何も言ってませんでしたよね!?」
「失礼な事を考えている顔でした」
なんという事でしょう。ある意味ゴンさんの次に付き合いの長い彼女には、私の考えなどお見通しだったようです。つい先ほど自我に目覚めたとは思えません。
けど、何がいけなかったのでしょう……綺麗なのに。お父さんイルミネーション。
ん? いや、お父さん型のイルミネーションみたいなゴロになってますね。いけません、それは想像してしまうと結構気持ち悪いですよ?
「お母さん、変なイメージしないでください」
待って待って、そうじゃなくて綺麗なイルミネーションをお父さんが買って来てくれて、それでクリスマス用の飾りを作ったって事ですよね。
けしてお父さんがイルミネーションでぐるっぐるになってどこぞの聖者みたいに十字架付けにされてる訳では……うわぁ想像してしまいました気持ち悪い!
「ちょ、やめ、ホント……やめろぉ! 変なイメージしたらダメですって! ここってイメージの世界そのものなんですからっ」
「う、うわぁぁ! 2人とも、あれ……!」
茶渋さんの声にハッとして、私達は彼女の指差す先を見ました。
そこにいたのは、私が何度も吹き散らしてきた不浄の塊。
しかし、さっきまでのモヤモヤとはまったく違った形状となっていました。
見上げんばかりの体躯。
地味ながらもよく手入れされた眼鏡。
歳をおうごとに気になり始める生え際。
毎日を笑顔で過ごした結果に出てきたほうれい線。
そして、ギッチギチに体に巻かれ、光り輝く電球の数々。
その姿は……そう、お父さんイルミネーション。
「ま、まさか……私のイメージを元に、不浄が肉体を持って具現化したとでもいうのですか!?」
「最悪です。なんという姿に具現化してしまったのですか」
えぇ、最悪の一言です。
先ほどのモヤと違い、明確に形になってしまった不浄。これは、私の魔力をもってしても吹き散らすのは楽ではないでしょう。
なにせ、既に存在を確立してしまっていますからね。そんな不浄が茶渋さんの中で暴れれば……事態の悪化は避けられないかもしれません。
まさに、事実上のラスボス登場って奴です。これは、暴れられる前になんとかしなければ!
「か、かわいそう……かわいそうだよぉ!」
「……え?」
えぇっと……可哀想、とは?
「見なさいお母さん。あまりに突拍子の無い姿にされて、不浄が涙目になっています」
えぇ、まぁ……はい、確かに涙目になっていますね。
どこぞの肯定マン様みたいに十字架に固定され、イルミネーションでピッカピッカしてるお父さん(たぶん心和パパ)は、まさに先ほど上司から肩叩きを受けたかのように絶望に満ちた表情を浮かべています。
「最後の最後で、まさかこんな姿にされるとは思ってもみなかったのでしょう……強大な威厳ある存在として封印されていた彼に、まさかこのような仕打ちでダメージを与えてくるなんて」
「普通、もっとこう……相手にとっても配慮された姿にするよね。ベヒーモスみたいな感じとか」
なんですか、私のせいですか?
はい、すみません私のせいです。ラスボスがお父さんイルミネーションになるなんて事態を引き起こしたのは私でございます。
ごめんなさいお父さんイルミネーション。私の不注意と謎の妄想力で貴方をこんな姿にしてしまいました。
責任……責任を取らなければ……!
「よし、世間樹ちゃん。貴女の力で彼を浄化してあげてください」
「そんな時間を与えてくれますか? いくら見た目はアレでも、濃縮された不浄の具現化に変わりはありませんよ。私の定着には時間がかかりますし……」
「ふふふ、時間稼ぎならば私に任せてください! お茶にお誘いして一日分くらい稼いであげま」
「茶渋さん、貴女の理性の力で不浄を抑え込んでくれませんか」
「や、やってみるよ!」
あれ、茶渋さんと世間樹ちゃんの間から私という存在が排除された気がしました。
ラスボス戦ですよ? 最期の山場ですよ? ここは3人力を合わせて凄まじい力を発揮し大団円の流れじゃないんですか?
「くぅ……! もうボクは、お前になんて縛られない! 罪を償うために正気を取り戻すんだ!」
「そうです茶渋さん。貴女ならやれます!」
あるぇぇ。なんか茶渋さんだけでめっちゃ拮抗してますね。むしろお父さんイルミネーションが押されてますね。
茶渋さん、流石は伝説の存在なのです。諦めからすっかり抵抗することをやめていましたが、こうしてやる気になりさえすれば心強いのです。
……うん、私いらなそうだなぁ。
「……お茶飲んでましょうかね」
世間樹ちゃんが淹れてくれてたお茶、余ってますし。
その世間樹ちゃんも、根付くために全力だしてますし。
お父さんイルミネーションも、茶渋さんとの精神的バトルの為に全力使ってるみたいですし。
むしろ、私が入んない方が良いまでありますよね。
「いただきまぁ~す」
うん、やっぱり素敵なお味。
果実のような風味を取り入れて、甘みの中にちゃんとした渋みもある。
現実味を感じられない所を除けば、やはり最高のお茶です。
「クッ……もう、誰も傷付けはしない! ボクは決めたんだ!」
「あと少し、です……!」
「あああああ!」
おぉ、お父さんイルミネーションが最後の力を発揮しています。
ですが、茶渋さんの覚悟は塗り潰せません。頑張ってください、茶渋さん!
……それはそれとして、このお茶もう少し工夫したらもっと美味しくなりません?
ヤテン茶の要素を取り入れてみるとか、もっと風味豊かになる気がします。
なるほど、ヤテンと紅茶のブレンドなんて試してみると良いのかもしれませんね! 帰ったら試してみましょう。
「ん? ブレンド?」
これは、青天の霹靂かもしれません。
そう、美味しくないものも、ブレンドすれば美味しくなる可能性があるのです。
たとえば、先ほど2枚貰ってましたが、1枚しか使っていなかったあの茶葉。
あまりおいしくなかったから、もう飲む気が起きてませんでしたけど……今なら美味しく飲めるかもしれません。
「じゃじゃ~ん、世界樹の葉~」
美味しくなかった世界樹の葉!
これを、今ここで、美味しいブレンド茶にすれば!
最高の一杯が飲めるかも!