第113話:バイバイ
どもどもべべでございます!
10日間も空いてしまった……申し訳ないです。
なんとか投稿ですね。どうぞ、お楽しみあれー!
茶渋さんとは、取り止めのない話をいっぱいしました。
お茶の話題。ゴンさんの話題。
そして、お茶の話題。または、ゴンさんの話題。
極め付けはお茶とゴンさんの話題。
「それでですねぇ、ゴンさんたら私をお嫁さんにしてくれるって言ってくれて……」
「へ、へぇ。あのべアルゴンが告白するなんて、意外だなぁ。……ところで、この大陸って今、どうなって……」
「うぇへへへ。結婚式にはお茶を大量に持ち込んで、ティーパーティーとしゃれこみますよぉ」
「た、楽しみだねぇ。……っ!」
お話しの途中で、茶渋さんがビクッと肩を跳ねさせました。
視線の先を追ってみますと……まだお話しの途中だというのに、不浄が襲ってきている様子。
何度目ですかまったく。性懲りもなく乙女の茶話会を邪魔しようなんてふてぇ族です。容赦なく吹き散らしてあげますとも。
私が軽~く息巻いただけで、不浄は霧を扇いだように散っていきます。私の魔力を取り込んだのがアダになりましたねぇ。
「ほ、本当に凄いね。これで何回目かな……しばらくお話ししてるのに、未だに理性を保っていられるなんて新鮮だよ」
「んふふ、美味しいお茶を堪能できないなんて、あってはならないですからね~。ささ、もっと飲んでくださいな?」
「ありがとう、いただくよ。……しかしこのお茶、凄く美味しいね?」
メイドさんから受け取った紅茶を嗜みながら、茶渋さんが薄く微笑みます。
うぇへへ……でしょうとも。この紅茶は心和の記憶と私の経験が元になって出来ています。
美味しいお茶を探求し続けた私。そして美味しいお茶を沢山知っていた心和。もう心和の知る味を、私はしっかりイメージできるようになっているのです。
これは、そのイメージと実感を重ねたお茶。つまり、現実と空想の境目でのみ扱える理想のお茶! 風味も香りも後味も私にとっての至高が詰まっているのです。
「つまるところ、現実のお茶より美味しいお茶ってこと……かな?」
「そうなりますが……唯一の欠点は、現実味が無いって事ですね。つまるところ、満足感を得られないって事なんですよねぇ」
結局、実際に飲んでみない事には感動というものは味わえないのです。それは、知っているのに飲んだ事の無かった私が一番よくわかっています。
是非とも茶渋さんには、本当のお茶を飲んで頂きたいものです。
「……そういえば、ゴンさんがですね?」
「う……ね、ねぇ、ボクそろそろ……」
さぁ、まだまだ話題は尽きません。次はゴンさんがお茶を飲んでいた時の話題でもしましょうか。
「待って、もう勘弁して……!」
「え? 何がですか?」
「な、なんていうか、もっと他の話題にしないかな?」
「そうですか? じゃあ、美味しいヤテン茶の淹れ方でも」
「またお茶の話題!?」
ふぅむ? ではコーヒーの話題にしましょうか。厳密にはお茶ではないですし、あれ。
「いやいやいや、全部べアルゴンと飲み物の話題ばかりだよね!? 会話という名の一方通行にボクの正気は削れる一方だよ! 貴重な最後の理性なんだから大事にしてくれないかなっ」
なんと、茶渋さんの正気が今まさに脅威に晒されているご様子。これはいけません!
それほどまでに、不浄は根強く彼女を包み込んでいるのでしょう。苦しみの時間は長引いてはいけないのです。
「わかりました……きちんと問題を解決した後に、またゴンさんの魅力1000本ノックを叩き込む事に致しましょう!」
「ピィ!?」
あぁ、こんなに怯えて、可哀想に。
大丈夫、私が貴方を御救いしてみせますからね。
「……お母さん、その前に、お茶のお代わりはいかがですか?」
「おほぉっ! ナイスですよ~」
と、そんな決意を抱く私の横から、メイドちゃんが紅茶のお代わりを持ってきてくれました。
これを飲まないのはウソというものでしょう。
あはぁ、夢心地になりそうな美味しさ! まるでイケナイ葉っぱでも使っているかのような多幸感!
満足感だけは得られないのが残念ですねぇ。どんどん欲しくなっちゃいます。
「大丈夫ですか茶渋さん、まずは落ち着いて深呼吸です。……お母さんに悪気は一切無いですし、言動に意味もほとんどありませんからね。受け流すのが大切ですよ」
「あ、ありがとう……ところで、君は一体誰なんだい?」
紅茶の香りを堪能している間に、2人はすっかり仲良くなっていらっしゃる様子ですね。
仲良きことは美しきかな、ですね。
しかし、確かに紹介をしていませんでした。これはいけませんね。
「茶渋さん、この子は世間樹と言います。今日から茶渋さんの中に住まわせますので、よろしくお願いしますね?」
「あ、そうなんだ。よろしくね世間樹さん……って、なんて?」
「よろしくお願いいたします」
ですから、世間樹ですって。
私を守る為に、自我に芽生えてくれたあの子。私を毎晩、揺りかごの如く包んでくれたあの世間樹です。
今回、茶渋さんを助けるために、私は彼女の力を借りる事にしました。
「そもそも、不浄なんてのは生き物であれば誰しも持っているものでしょう? 茶渋さんみたいに取り込み過ぎたらアレですけど、少量ならば体に直接害のあるものではないはずなんです」
「あ、ようやく話題のループから抜け出せたんだね? ま、まぁ僕の場合、自業自得なんだけどさ……僕の失敗で、戦争が起こってしまった訳だし」
「全部が全部茶渋さんのせいっていうのは暴論過ぎる気がしますが、まぁ論点はそこじゃないんでいいですよ~。茶渋さんの問題は、その不浄が普通の浄化じゃ追いつかないくらいの密って点なんですよね。だからイヤンな事になってる訳ですし」
それこそ、正気を失い数多の生命を根絶やしにしようと暴走する程度にはすんごい濃度が詰まってるはずです。
不浄によって増えた魔物が生き物を襲うのも、不浄の過剰摂取が原因なのかもしれませんね。
「では、その不浄を取り除くにはどうすれば良いのか?」
「……無理だと思うよ? ボクの体は、もうほとんどが不浄で塗り潰されてる。不浄を全部浄化しようものなら、きっとボクはこの世から消滅するだろう」
そうですね。
中に入ったからこそわかる、茶渋さんの浸食具合。
もはや茶渋さんは、全身余す事無く不浄の温床となってしまっています。
「ボクとしては、君の力で完全に消し去ってほしいんだけどね」
だからこそ、わかる。
確かに、私は彼女を浄化して、完全にこの世から消すことができるでしょう。
要は相性の問題です。世間樹の浄化能力を見てもわかる通り、私の力は不浄を散らす事にかけては一級品ですからね。なんせ癒しの力、生命の源ですから。
「お断りしますよ~。私は茶渋さんを消したいのではなく、茶渋さんが欲しいのです」
ですが、消すなんてまっぴらごめんです。
そう、私は心から茶渋さんが欲しい。
だから、私は大切なものを手放します。
「世間樹ちゃん。私が何をしたいのか、わかりますね?」
「……えぇ、お母さん」
そう、大切な、最初の我が子を。
茶渋さんのために、手放すのです。
「私が中から、彼女の不浄を散らします。そして……」
「私が外から、彼女の不浄を維持します。お茶を飲んでね」
そう、これが私の最終計画。
世間樹ちゃんをまるまる茶渋さんに移植して、その聖なる力で不浄を一気に払い、正気を取り戻させる。
ですが、それでは茶渋さんが消えてしまいます。それを阻止すべく、私がお茶を飲むのです。
ゴンさんが、どうやって結界を弱くしたのか。それは聞きました。なんでも、私がお茶を飲んだら不浄が溜まるみたいですね。
つまり、私がお茶を飲み続ければ、彼女の中の不浄は一定を保ち続けるはずです。
「む、無茶苦茶な事を考えるね? ボクが消えないように不浄を保とうとするって……」
「そもそも、私ったらお茶をやめるつもりないですからね~。お茶の一大生産地も作る予定なので、割とついで感覚でできちゃうんですよ。……まぁ、その為には茶渋さんが絶対に必要なんですけどね?」
私は私のために、茶渋さんを絶対に手に入れるつもりです。
だからこそ、有無なんて言わせない。既に世間樹ちゃんはこの中にいるんですから、後は実行するだけなのです。
「改めて、茶渋さん」
「…………」
「私のものになりなさい」
手を彼女に向け、握ります。
私の視線から見ると、まるで心臓を握っている気分。うぇへへ、ちょっとドキドキしますね。
「私が、この大陸を幸せにしてあげます。貴女の責任を、全て私が清算します。だから、貴女の全てを私にください。私に命を握られてください」
「……君って、凄いね。とてもとても、強欲だ」
「いえいえ、私はただ、お茶が飲みたいだけですよ?」
私の答えに、茶渋さんはプっと吹き出しました。
「あははは! そっか、お茶のためか」
「えぇ、お茶のためですね~」
「それなら、肩ひじ張る必要はないね。うん、ボクを存分に使っておくれよ」
おぉっ、これは素敵なお返事ですね!
やりました。私ったら、ついにゴンさんと茶渋さんの2台大巨頭を手に入れましたとも~。
「うぇへへへ、よろしくお願いします~」
「うん、よろしくね。御主人様」
おぉ? なんとも背徳的な響き。
今までそう呼ばれたことはありませんでしたね……こう、ゾクゾクっときます。
「お母さん、準備はよろしいですか?」
「え? え、えぇ、もちろんですとも~」
なにやら禁断の扉が開かれそうになったきがしましたが、世間樹ちゃんが強制的にそれを閉めてしまいました。
うぅん、あの感覚はいったい……。まぁ、それは置いといて。
さぁ、善は急げです。しっかりと不浄を消し去ってしまいましょう~!