第111話:最終決戦
どもどもべべでございます!
さぁ、最終決戦!
ゴンさんと邪獣の壮絶な戦い!
どうぞ、お楽しみあれー!
……とまぁ、こんな感じで始まった私達の大作戦。
デノンさんに嫌われてしまうという最大のデメリットは抱えたものの、全てが犠牲なく丸く収まるはずの作戦です。必ず成功させますよ!
その為にも、今はゴンさん達の元へと急行しなければなりません。距離的にそこまで遠くはないので、もうそろそろ到着すると思うのですが……。
「グォォォォオオ!!」
「ひえっ」
今のは……私が聞き間違えるはずがありません。
間違いなく、ゴンさんの雄叫びです!
あんなに悲しい、それでいて切羽詰まったお声、初めて聞きました。まさか、ゴンさんの身に何かが!?
茶渋さんは、私の魔力で超絶パワーアップをしていると言っていました。ゴンさんの力とねーちゃんの協力があれば、抑え込めると思っていましたが……それは軽率な判断だったのかもしれません。
「ゴンさん……無事でいてください!」
私は、妖精の力を全快にして、真っすぐにゴンさんの声がした方向へ飛んでいきました。
……そして、見たのです。
「こ、これは……!」
そこにいたのは……無残に倒れ伏した、熊の肉体。
硬さを持ちながらも、ヵ所によってはもふもふな毛皮は、すっかりと朱に染まっています。巨大な四肢を力無く広げ、地面に横たわる姿からは、かつての威厳など感じさせません。
「なんで……」
最強の力を持った、優しい貴方。それが、まさか、こんな結末で……!
「なんで茶渋さんに、お花が刺さってるんですか?」
『我が聞きたいわたわけ! 貴様何をしおった!』
倒れている茶渋さんの横で、ゴンさんがわなわなと震えています。
その姿は、初めてお会いした時のようにボロボロです。しかし魔力の高まりを見ればわかる通り、今まさに最強最高の一撃を放たんとしていたご様子が見て取れます。
「……ここちゃん」
「あ、ねーちゃん」
ふと、一本の木からねーちゃんが顔を出しました。
流石はエルフ。木の枝に乗っている姿がとても映えますね。ばずりますね。
「ねーちゃん。これはどういう……」
「邪獣との闘いが、最終局面に入った瞬間でした……」
いかにもやる気削がれましたって顔で、雑に説明を始めるねーちゃん。
そう、戦いはまさに熾烈を極め、どちらかが命を落とすやもしれないという段階まで来ていたそうです。
そんな拮抗状態の瞬間、ゴンさんのドーピングが切れかけたそうでして、一瞬集中が途切れたそうなんですよね。
あわや茶渋さんの一撃がクリーンヒット! という瞬間、ねーちゃんが魔法で生やした蔦を使って、茶渋さんの腕を絡めとる。そこに、ゴンさんが必殺のカウンター! という、まさにライバルキャラ同士が手を組んでラスボスを倒すっていう少年漫画的王道パターン。
私ったら年甲斐もなくワクワクしてしまいましたとも。
「ですが、その一撃が決まる前に……邪獣の体に、突如飛来してきたフライングフラワーが突き刺さったんです」
「……はい?」
「そのまま邪獣は崩れ落ち、べアルゴンは必殺の構えのまま硬直。私も、『これで決めなさい、べアルゴン!』という、柄にもない恥ずかしいセリフが空回りしてしまい羞恥の絶頂……というタイミングが、今です」
……突如飛来してきた、フライングフラワー……。
「あ」
『……やはり貴様か。否、貴様以外にありえんとは思っておったわ』
い、いえ、違うんですよ?
けして悪気があった訳では……むしろゴンさん達の所へ早く行かねばという義務感で、その、生み出した訳で……。
まさか、それが茶渋さんにダイレクトアタックしてライフポイントを0にする一手になるなんて、予想だにしていなかったと申しますか……。
『ちんくしゃよ』
「はい」
『吟遊詩人が語れば、それこそ三日三晩では足らぬであろう戦いであった。血沸き肉躍るとは、まさにこの事よ』
「はい」
『その昂りが最高潮に達した瞬間に、全てをかっさらわれるのがどれ程の肩透かしか、わかるか?』
「…………?」
『紅茶がまさに、完璧な温度、最高の仕上がりになった瞬間、子供の投げたボールがポットにぶつかるようなものだ』
私はなんという大罪ををををををををををを!?
あわばばば、これはいけません。ゴンさんたら笑っています! にっこにこです! 初めて見ましたこんなにも良い笑顔!
でも怖い! やだこのイケメン怖いです!
『この昂りは、そうそう収めようがない……』
「あばばば、ゴンさんその、す、すみませ……」
『事が全て終わったら、覚悟しておけよ。貴様の体で償ってもらうからな』
「はいそれはもういくらでもなんだってどんなことでも……はい?」
パードゥン(なんだって)?
『はぁ……ほら、邪獣の不浄を払うのだろう。まだ奴の動きを拘束しただけに過ぎん。ここからが本番だぞ』
「は、はぁ……」
『行ってこい。ここからが、貴様の最後の大一番だ』
ゴンさんに掴まれ、私は茶渋さんの元へと運ばれます。
スコーン! って感じに刺さったフライングフラワーがなんともおまぬけですが、流石は茶渋さん。漫画みたいに刺さってるのに、ちゃんと生きてます。
ということは、起きたらまた暴れ出す訳で。いまの内に、茶渋さんを蔽っている不浄を払わないといけません。
「ええと……では、行ってきます」
『失敗は許さんからな』
「は、はいっ」
なんだろう。余りのインパクトを感じて、一瞬前の記憶がなくなった気がします。
けど、うん、まぁ大切なお仕事がありますんで、思い出すのは後にしましょう。
「では茶渋さん、お邪魔しま~す」
どうやって払うかは、前と同じ。
かつて、結界を解こうと努力したように。かつて、世界樹と同調しかけたように。
魔力を通して中に入り込み、お話しをするだけですとも。
一瞬の浮遊感。
意識が持って行かれる感覚。
どうやら、かなり奥まで潜らないと、茶渋さんとはお話しできないご様子。
まぁ、私が意識を失っても、ゴンさんがいますし? 問題ないでしょう。
「べアルゴン。体液を舐めて回復だなんて……不潔です」
『文句あるか。我のだぞこれは』
え、待って。
なんだか私の意識がなくなるタイミングで、重大なムフフイベントが発生してる気がする。
待ってステイうぇいと!
せめて感覚がある時にそういうことを~!
あ、無理。
おやすみなさい。
はい、すみませんでした!