第110話:トンデモ会議
どもどもべべでございます!
今回はいつもの倍近い文字数になりました……!
どうか、楽しんでいただければ幸いです。
どうぞ、お楽しみあれー!
これで、邪魔をしそうな方々は押さえ込みました。ドゥーアの皆さんだけでなく、ヴァナの人達も一緒だったので、結構スムーズに事が運びましたね。
これであとは、ゴンさんの元へ向かって茶渋さんを元に戻すのみです!
キースさんは、今後の交渉を綿密なものにするために残ってもらっています。ノーデさんは、万が一の為にキースさんの護衛です。
なので、ここからは私が頑張らないといけませんね。
「……フライングフラワー、行っちゃいましたねぇ」
一刻も早く現場に向かいたかったので、ノーデさんと同じフライングフラワーを生み出して乗ろうとしたのですが……なんか、少し触った瞬間ぶっ飛んで行ってしまいました。
ノーデさん、あんなじゃじゃ馬乗りこなしてたんですね。やべぇ。
仕方ないので、木の上まで行って真っすぐに飛んで向かいます。キースさんの足でもそこまで時間はかからなかったので、距離はそうでもないでしょうからね。
「結婚、結婚……! 帰ったらゴンさんと結婚!」
あぁ、飛んでる間にもふつふつと湧き上がる高揚感。
そうです。ノーデさん手足ちょんぱ事件のインパクトですっかり流れていましたが、私ってばゴンさんにプロ☆ポーズされたんですよ!
一目惚れから苦節一年。決死のアプローチの甲斐もあって、ようやくここまでこぎつけました。
思えば、私の暴走で色々とご迷惑をおかけしてしまいましたね……。そんな私を見捨てずに、ずっと見守ってくれたゴンさんには、感謝しかありませんとも。
時に怒られ、時にゲンコツ、時に縛られ……あれ? ご褒美しかない。しかも時々褒めてもらえるなんて、惚れない方がおかしい。
そんなゴンさんと、今後は新婚若妻暮らしの日々が待ち受けている! うぇへへへ……樹液止まんねぇ。
しかし、そんなゴンさんとのスウィート溢れる生活も、茶渋さんを正気に戻さないと得られません。なにせ、私の計画は茶渋さんがいてこそ真の意味で花開くのですからね。
その為に、あんなにも熱くプレゼンして、皆さんにも協力してもらったのですから……!
◆ ◆ ◆
「……で、その、【お茶至上主義生産体制】ってのはなんなんだ?」
げんなりした顔のまま、デノンさんが私に聞きます。
えっちゃんは笑ってるし、ねーちゃんは笑顔のまま青筋立ててますし、自分が口火を切るしかないと思ったのでしょう。嬉しいフォローです。
「ふふふ、もちろん、全人類が仲良くお茶を飲めるための計画ですとも」
「あんたが既にお茶の事しか考えてないのはわかったから、俺らにもわかるように説明してくれ。そんな夢物語が本当に実現するとでも思ってるのか? ……思ってるんだろうなぁ……」
流石はデノンさん。私の事をよくわかっています。
そう、この光中心和。やれると思った事だけを常に口走ってまいりましたからね!
茶渋さんがドゥーアさん達の所に向かってるらしいので、時間もありません。ちゃっちゃと説明しちゃいましょう。
「そもそも、皆さんがやばいと思ってるのは、茶渋さんがいい感じに大陸崩壊させようとしているからですよね?」
「そうねぇ、あの子の意志かどうかはわからないけど、大変な事態よねぇ」
「あ、茶渋さんの意志とは無関係ですよ? 私、何回かあの人とお話ししてましたからね。本当は凄く優しい人なのです」
人というか、熊さんなんですけどね。
「……改めて、邪獣と結界内で会話してたって事だよな、それ」
「守護者様、今後はしっかり介護してくださいね」
「四六時中、目を離さないでおいてください」
『むぅ……』
みんなが私の恋路を応援してくれている!
やはり持つべきものは友達ですね……そのアシストに応えるべく、今後も邁進して参ります心和です。よろしくお願いいたします!
「話を戻しますね? その茶渋さんは、自分の理性を黒い何かに塞がれて暴走しているようです。私が封印を解いた時、綺麗で優しい茶渋さんから、一瞬でバーサーク茶渋さんになった時に、黒い気配に覆われたのが見えたのです」
「黒い何か……考えられるとすれば、不浄かしらねぇ」
不浄ですか。
この世界を満たすものの中で、文明を持つ生き物から排泄されやすい要素ですね。
不浄が溜まったとしても、木々が枯れたり文明が破壊されることはない。だけど、不浄は土地を悪しきものに変質していく効果があります。
一番の難点は、魔物が生まれやすくなることですね。コカトリスとかゴーストとか、一目でわかるヤバい方々が溢れかえったりするんです。まるでここ、バウムの森のように。
茶渋さんは、その不浄を一身にため込んでしまっている……そう考えると、あの発狂モードも納得かもしれません。
「では、その黒いものは不浄であると断定します。ぶっちゃけ、それを剥ぎ取ればいいだけの話なので、何であるかは関係ありませんからね~」
『……もしあれが狂った原因が、不浄だとするならば……奴は生み出した文明の者たちが生み出してきた不浄を、その身にため込み続けたことになる。あ奴の事だ、不浄が魔物を呼び出し、他者にその害が及ぶ事を避けたかったのかもしれぬな』
「狂った原因が不浄で、結界を解こうとした方法も不浄とは、随分な皮肉だなぁ」
『黙れデブエルフ。そのような因果関係がわかっておれば、もう少しやり方を考えたわ……!』
あぁ、自己嫌悪でげんなりしてるゴンさんもカワイイ。
しかし、ゴンさんたら結界を弱らせるために不浄をため込んでいただなんて、随分と大胆ですねぇ。そのかわり、魔物を狩ったりしてたらしいですけど、かなりの力技であることに変わりはありません。
「……それで、ここちゃん? 貴方は邪獣から不浄を取り払い、正気に戻そうと考えているのですね?」
「その通りです、ねーちゃん!」
茶渋さんを蔽っている不浄。これを取り除く。
イコール、茶渋さんはあの優しい天使さんに戻る。じめーのりですね!
「原理としては可能化もしれません。しかし、仮にそれが成ったとしても、同じ事が再発しないとは限りません。邪獣の元は人格者だと聞いた今、同じことを繰り返して暴走する可能性は高いのでは? その可能性をぬぐえない限り、国としては協力も難しいかと……」
ねーちゃんの言う通り、確かにそれはあります。
未だこの大陸は不浄に溢れています。争いは絶えず、文明は自然を蝕む。文明を持つ者が生きている限り、不浄が溜まるのは当然の結果なんです。
ですので、ここは発想を逆転させましょう。
「そう、逆に考えればいいさ。不浄なんて溜めちゃおうと」
「……はい?」
「だって、不浄なんて自然が破壊される要素でもないし、人が死んじゃう要素でもないんですもん」
ただ、淀んだ魂がそこに集まりやすくなって、魔物が生み出されやすくなるってだけです。
そんなの、デメリットとして考える方がおかしいんですよ。
「いやいやいや、魔物の種類によってはヤバいんだからな!? それこそマンティコアみたいなヤバい魔物が出て来たりとかした日には……」
「マンティコアって、ゴンさんが一回やっつけてましたよね?」
『うむ、あれは別の大陸を渡ってきたであろうと我は踏んでいたが』
「つまり、どんなに強い魔物が出ても、ゴンさんに任せればいいんです」
「力技が過ぎないか!?」
いえいえ、それとは別に、魔物対策は考えていますとも。
「そも、魔物が危ない原因はなんでしょう? 毒をもつから? 強いから? 違います。見境なく、理性無く、あらゆる生命を脅かそうとするからです。それしか与えられずに生まれてしまったから、彼等は戸惑って周りに当たるんですよ」
大なり小なり、魔物は生命の敵という共通認識。それは長年覆らなかったものです。
それはつまり、知性の欠如。理性の消失。魂が寄る辺を無くし、不浄によって暴走したからこそ破壊の権化として生まれてきた。
ならば、その破壊衝動からも解放してあげればいい。
「もし茶渋さんを解放できれば、そんな魔物さん達に【知性】を与える事ができます。知性とはつまり、生き物を縛る鎖です。すべからず私達は、学んだ事しか出来ずに生きているのですから」
「……つまり?」
うぇへへ……つまりぃ。
「もし魔物の皆さんに、お茶を作る工程のみを植え付けた場合、破壊だとか人を襲うだとか、そんな事せずにお茶を作り続けるようになるって事ですよぉ」
皆さんの目が見開かれました。
んふふふ、びっくりしたでしょう。私ってば、自分を自分で天才じゃない? って思いましたからね!
「このバウムの森の中心に、莫大なお茶生産プラントを作り上げます! その従業員は、全て生まれた魔物さん達に知識を植え付けて働いてもらう! するとあら不思議、皆がお茶を飲めて誰も傷つかないハッピーエンドに早変わり! 暴走しそうだったり本当に危ない魔物さんはゴンさんが対処してくれますし、無問題!」
「すげぇ、偏った知識だけを与えて人材を使い潰す独裁国家宣言を堂々とぶっ放したぞこのドライアド」
「あ、森の管理者として森林伐採とかはしませんよ? 少し真ん中を開ける為に、木々にどいてもらうんです。……まぁ外周が広がるので、各国に許可は必要ですけど」
「すげぇ、堂々と各国の土地を森で侵略するって言い放ったぞこのドライアド」
失礼な。現状を維持したままみんなが幸せになれる計画を、キースさんはどうしてこうこき下ろしますかね!
もちろん、魔物の皆さんにはホワイトな職場環境(お茶飲み放題)も、報酬(お茶)だって用意するというのに。
他種族の皆さんは、魔物に襲われなくなって万々歳。私はゴンさんと茶渋さん、仲良くなった皆さんを侍らせてお茶飲んで万々歳。完全なウィンウィンです。
「それに、これを機会に私のお茶を全大陸に広めて、仲良くしていればどんな怪我や病気だって治してあげるって吹聴するんですよ~。丁度茶渋さんが暴れる見込みですし、今売り出せば大体の人信じるでしょ?」
「おい、だからそれをすると、管理者様の力欲しさに襲ってくる奴らが……」
「うぇへへへ。ゴンさんと茶渋さんが揃っててケンカ売る人達、いると思います?」
「…………」
いないですよね~。
そうですよ~、私の周りに絶対勝てない人達がいて、私からすんごい効き目のお薬もらえるって言うんなら、皆さん最初から喧嘩なんてしないんですよ。
私が、この大陸の神様! そう、オベロン様ポジションになってしまえばよかったのです!
「……正直暴論ですが、私としてはけして無謀な策ではないかと思います」
「グラハム?」
「管理者様のお茶という破格の報酬が入ってくる上に、戦争も魔物被害も減る。これ以上の条件はないのでは? むしろ人材をこちらかは派遣して、共同生産していきたいくらいですよ」
「さすがグラハムさん! コーヒー豆の知識を教えてくれる機会が増えるのは素敵な提案ですね!」
国王様みたいな、すぐには判断を許されない方々とは違いますね。商人というポジションだからこその発言です。
コーヒー豆を育てる魔物さん達。それを見ながらモーニングブレイクする私……あぁ、夢が広がリング!
「つまり今回の作戦の肝は、管理者様のお茶の効能を各国に広め、そのまま戦争という意欲を削り、邪獣を解放して手元に確保する、という事ですね」
「お、おいおい。今からやるには圧倒的に時間がないだろ、それ!」
確かに。今のままだと絵に描いた餅ですよね。絵に描いたままなら喉に詰まるリスクはないですけど、お腹が膨れません。
お餅を実際に作る時間が足りない……そんな問題も、対策済みです!
『その為の時間は、チビ助が稼いでおる。今頃、邪獣を足止めしておる筈だ』
「……は? ノーデが、単体で?」
「ですよ~。だって、ノーデさん死にませんからね~。私達が動くまでの時間を、ばっちり稼いでくれているはずです!」
「な、な、な……! 命をなんだと思ってるんだアンタは!?」
まぁ、命は世界の歯車ですよね。
運命に抗う者も、甘い汁を吸う者も、すべからず世界を動かすためのパーツですよ。
そこにウジウジ言っていては、到底管理者なんて務まりません。
「……デノン王。しかし……ある意味で、これが我々の被害を一番少なくする方法ですよ」
「んな、ネグノッテ女王まで!」
「そもそも、邪獣が解き放たれた時点で何かが壊れるのは必然です。私としてはそこの熊との同志討ちでも良いのですが、その場合、一番厄介な森の管理者を完全に敵に回します。……ここは、ここちゃんと協力してこの作戦に乗るのが、国の為、です」
「っ……!」
よくわかりませんが、ねーちゃんは協力してくれるんですね?
うんうん、かつては忌み嫌っていたゴンさんとも協力してくれる。平和って素敵だと思います。
「……ねぇ、デノンちゃん? 私も、彼女と仲良くした方が、今後の為だと思うわよ? 今までだって、そうだったじゃない」
「う、ぐ……!」
「それに、今こうしている間にも、ノーデちゃんを助けに行く時間が減ってしまうわ? 私だって、ノーデちゃんを囮に使った事はどうかと思うけど、死なないのは確かだもの。適材適所だと思うわよ?」
えっちゃんも、協力してくれると。
「ぐぐぐ……! 管理者様、俺は納得してないからな! 今回は協力するが、アンタとの付き合い方は今後、最大の警戒を持って付き合わせてもらうぞ!」
「えぇ!?」
いつも優しいデノンさんが、凄く怒ってる!?
そ、そんな……私ってば、実は酷い事してたんでしょうか。今更ながら、不安になってきてしまいます。
「え、えぇと、どこらへんか見直した方がいいですか? ピット方面にはあまり森を伸ばさないようにとか……」
「そういう事じゃねぇよ! あぁもう、速くノーデを助けにいってやってくれ!」
……い、いいのかな? よくわかんないですけど、後で謝っておきましょう。
と、ということなので。私達は、この作戦を成就させるべく、各々が行動に移したのです。
デノンさんとグラハムさんは、えっちゃんがヴァナの国まで連れてってくれるそうなので、そこで交渉を。
交渉のテーブルは、グラハムさんが国に待機させてたアオノイさんに連絡してアポ取ってくれるそうです。流石やり手ですね。
で、ねーちゃんとゴンさんと私、そしてキースさんが、茶渋さんを止める係です。
ついでにキースさんがドゥーアの皆さんに渡りをつけてくれるという事ですので、同時進行でいきましょう。
「では皆さん、よろしくお願いしますね!」
大陸の未来を賭けた大一番! その名も!
「作戦名、【ドライアドさんのお茶ポーション】! ここに開幕です!」
こうして、私達は行動を開始したのでありました。
いや、心和ちゃん外道すぎひん……?