第109話:売り込み
どもどもべべでございます!
時間ギリギリ! 仕事行ってきます!
どうぞお楽しみあれー!
そこはまさに、阿鼻叫喚の地獄絵図ってやつでした。
響く呻き声、あがる悲鳴。
医療班の怒号に、静かに消えていきそうな呼吸音。
頭に角が生えた、逞しい方々や、動物の耳がちょこんとついた可愛らしくも雄々しい方々。喧嘩してたって種族が、どちらも集まって治療しあっています。
「おいお前! 酒なんて飲ませてどういうつもりだよ!」
「あぁ? 俺達はいつもこうやって痛みを飛ばしてから治療してんだよ!」
「血の気が多いドゥーアと一緒にすんな! 血が止まらなくなるだろうが!」
「臭ぇ! おいなんだこの泥!」
「泥とはなんだ! ヴァナ秘伝の軟膏だぞ!」
うぅん、茶渋さんと一緒に戦ったから、義理人情で一緒に治療し合おうねって感じになったんでしょうけど、流石は元々の喧嘩相手。
まったく統率が取れていません。このままでは、色々と手遅れになってしまうかも。
「……責任者を呼んでくる。お前らはそこで待っていろ」
私達の隣にいた、名前もしらないドゥーアさんが、話しを通せそうな人を呼んできてくれるそうです。
なぜ、私達がこんな場所に入り込めたのか? 答えは簡単です。
「あぁ、頼んだわ」
フランクな態度でドゥーアを見送る、キースさん。
そう、キースさんが顔パスでここを通してくれたんですよね。
「いやぁ、犯罪者って役に立ちますよね~」
「本当だな。儲けの為だけにドゥーアとつるんでたのが、こんな形で功を奏するとはなぁ」
元々、キースさんが何故私のお抱えキノコ職人にさせられたのか。覚えておいででしょうか。
非合法なキノコを栽培して、売り払ってたからアウト判定くらったんですよね。
で、そのキノコは、どこに売っていたのか?
「おぉキースか、いいタイミングだ。悪いがこんな状態でな……痛み止めのキノコとかあるか? 言い値で買うぞ」
奥からやってきたのは、私達よりもあたま4個分くらい大きなドゥーアさん。
角も3本くらいありますし、めっちゃ偉い人感あります。
そう、キースさんたら、駄目なキノコをドゥーアに横流ししてたんですよ。ねーちゃんが知ってたら首飛んでた案件ですよね~。
「悪いなダンケル、今回は商談の為に来たんじゃねぇんだ。けど、お前らのピンチを助けに来たことに変わりはないぜ」
「どういうこった? キノコが無いなら帰ってくれ。見ての通り暇じゃないんだ!」
「まぁ待てよ……後ろの顔だけは良い妖精を見てみろ」
おっと、変な強調しませんでした?
なに、ケンカ? 喧嘩します?
「……そこのペチャパイがどうしたってんだ?」
よっしゃ表出ろ。
「か、管理者様、殿中、殿中にございます……!」
「心和!」
「は……」
「こ・こ・な! セイ!」
「……こ、ココナ様……」
ノーデさんカワイイ。襲おう。
「ふん!」
「痛い! ハリセン!?」
「お前今、無意識にノーデのズボンの中に手を突っ込んでただろ!? 俺はお前が怖いよ!」
HAHAHAそんなまさか。
理性と自制心の権化たるこの光中心和。人前で事案を発生させるような過ちを犯すはずがありませんとも。
ねぇノーデさん? あれ、なんで顔が真っ赤なんでしょう。
カワイイ。襲おう。
「痛い! ハリセン!?」
「……お前ら、帰ってくれないか」
「ちょ、ちょっと待て! おい、良いからあれ出せよ!」
お、おぉ、そうでした。
ノーデさんたら罪なお方。私から目的を奪い去るなんて。
ですが、ノーデさんの罠をすり抜けたこの心和にもう迷いはありません。最初からない気がします。
とにかく、いつも通りに大量の茶葉を発生させますとも。
「……なんだこりゃ。茶葉?」
「あぁそうさ。この茶葉を水なりお湯なりでちゃっちゃと作って、怪我人に飲ませろ。そしたらあら不思議、たちまち健康体に元通りっつうあり得ない茶さ」
「……お前、元から胡散臭い奴だったが、とうとうそっちにも手を出したのか」
あ、詐欺だと思われてますね。
これはキースさんが怪しいせいですよ。
「……こいつを見てもそう思うかい?」
しかし、そこはキースさんも読んでいたご様子。
茶葉を取り出した水筒に入れ、水出しをしながらノーデさんを前に押し出します。
「そいつは……俺たちが撤退する時に助太刀に来たフィルボか。無事だったとは驚きだ」
「その節はどうも。こうして、ココナ様たちのおかげで命を拾ってございます」
「アンタには感謝している。……足と手か。手ひどくやられたな」
どうやら、彼は人格的に優れた人物のようですね。
ノーデさんを把握しており、感謝を忘れず、なおかつ心配までしてくれる。
ドゥーアは野蛮だとねーちゃん達が言っていましたが、やはり人それぞれなんですよね。
「相変わらず成分出るの早ぇな……おらダンケル、よく見とけ。この茶を今から、こいつに飲ませるからな」
挨拶もそこそこに、キースさんが水筒をノーデさんに持たせます。
ノーデさんはそれに祈りを捧げ、迷いもなく飲みました。
「……こ、こいつぁ……!?」
するとどうでしょう。
まるで動画を逆再生しているかのように、ノーデさんの手足がにょきにょき生えてくるではないですか。
「ひ、非常に痛痒うございます……!」
あ、やっぱ部位再生ってそんな感じなんですね。
肉の体って不便ですよね~。植物だったら折れたとこはまた生えるんですけど、そうはいきませんもんね。
とまぁ、そうこうしている内に、ノーデさんはすっかり元のノーデさんに戻ってくれました。
うん、とてもカワイイです。
「な、治っちまった……」
「凄い茶だろう? げろまずポーションでもこうはいかねぇぜ」
「あ、あぁ。今の俺たちにとってはまさに魔法の薬だ! いくらで買わせてくれるんだ!?」
ちっちっち、とキースさん。
ふふふ、食いついたからには、こっちのものですよね!
「茶葉を生み出したこいつの名は、光中心和。あの森の中心に生えた神木の主だ」
「なに!? てことは、こいつが森の管理者ってやつか」
「そこまでは掴んでたか。……だったら、こいつの目的をそのまま言うぜ? ずばり、馬鹿な戦争をやめる事だ」
「……ヴァナやエルフと矛を収めろってことか」
「あぁ、そうすりゃあ定期的にこの茶をドゥーアに送る事を約束してくれるんだとよさらにドゥーアの茶をくれるなら倍率ドンで提供してくれるっつう話だ」
そうです。
私の目的は、ドゥーアの特産茶……もとい、戦争を止める事。
茶渋さんを元に戻しても、ケンカしてる人達がいるんじゃあ意味ないですからね! これを機に、皆さん一度落ち着いてもらわないといけません。
「むぅ……俺の一存でどうにかなるものではないが……」
「言ってる場合か? こっちは譲歩しないからな。嫌だってんなら見殺しだ」
「ぐぬぬ……!」
「殺してでも奪い取る、は無しだからな。今あの獣を止めてるのは、俺らの仲間だ。俺らが戻らなければ、獣をこっちに押し込ませる算段になってるぜ」
そんな算段してないんですけど、キースさんはウソが上手ですねぇ。
私とノーデさんだけでは、こうはいきませんでしたよ。
「……はぁ、わかった。その、ココナ? の言い分を通せるよう、全力を尽くすと約束する。だから、茶葉を部下たちとヴァナ達に分けてくれんか」
「わぁっ、ありがむぐぅ」
「いいやまだだ! ついでにヴァナの指揮官もいるんだろ? そいつを呼んで約束させろ! ちなみに、ヴァナの本国にはピットのデノン王が交渉に向かってる。ここでごねても得しないってのを伝えとくんだな!」
うわぁ、キースさん悪いひとだ~。
でも、流石ですね~。身の回りに悪いひとがいるだけで、かなり楽になるんだな~。
……永劫、手元に置いとこうかな~。
「…………!(ぞわぞわっ)」
結局、キースさんの言い分は全て通り、ヴァナの指揮官さんも来ていただいての交渉が始まりました。
その結果、私の茶葉を見せた上で同盟の進言を本国に勧める、という形になりました。
キースさんが細かい条件を詰めた後、私は改めて茶葉を大量生産。兵士の皆さんに振る舞います。
こうして、もう助からないという見込みだった人達を含めて、全員が復活。
なんと、死傷者実質0人という快挙をたたき出したのでありました~。