第104話:鬼と獣(第三者視点)
どもどもべべでございます!
最終章という事で、今まで触れなかった方々にもご登場願います。
はたして彼等は、国を守る事ができるのか!?
乞うご期待!
鬼人族、ドゥーア。
獣人族、ヴァナ。
この2種族は、この大陸において最も血気盛んな種族である。
邪獣の生み出した文明が離散した後、率先して他国を侵攻し統一しようとしたのが彼等だ。ピット国のフィルボやアーガイム国のヒュリンが平和を訴えても、けして手を取り合うという事はしなかった。
否、ヴァナに関しては、ヒュリンと金銭的な取引はしている事はある。しかし、それは主にドゥーアとの戦に備えての準備に過ぎない。
戦乱の大きな元凶となっていたこの2種族は、森の管理者の情報を得てもなお、接触をひたすらに避けていた。
理由は単純に2つ。1つは、自分たちが森に侵入するためのエリアに、コカトリスが大量発生したが故の自粛。
そしてもう1つは、管理者と対になっている森の守護者に手を出し、国力を削るような事態を避けるためである。
いずれ大きな戦が発生し、各国が戦火に包まれる。その時、天災たる森の守護者もまた動くだろう。
その時までに、自分たちだけの力であの怪物を討伐し、更には周辺諸国を飲み込み、全てを得るための戦力を蓄える必要があった。
それ故の我慢。そのための沈黙。彼等は爪を磨き、喉元に食らいつく機を待っていたのである。
そして、ついにその時は訪れる。
サイシャリィに潜んでいた内通者が、最後の連絡を寄越した。その情報を元に、女王が不在のタイミングを把握する事が出来た事により、背後から強襲される心配がなくなった彼等は、ヴァナの国へと一斉侵攻をかけるべく戦力を集中させていたのだ。
だが、その努力はあっさりと打ち破られる。
全ての準備を整え、いざ戦果を上げんと行進しようとした彼等を、一匹の獣が襲ったのである。
かの者の名は、邪獣。
エルフ程に寿命のない彼等にとっては、薄れつつある伝承の存在。しかし、100年という長いようで短い期間の中では、けして消えなかった記憶。
そんなうっすらとした脅威が、己の国に突貫してきているという情報が、伝令により伝わったのだ。
「巨大な熊? 森の守護者か!」
「あ、あまりに禍々しく、凶悪な様子でした!」
「いかん、すぐに戦力を防衛に回せぇ!」
しかし、かの者が邪獣であることは、現場では当然把握されない。
巨大な熊といえば、森の守護者が真っ先に浮かぶのだ。あの災厄が、なんの因果か自分たちに牙を剥いたのだと、責任者は判断した。
結局、侵攻の為の兵力は、防衛のための壁として使われる事となった。
邪獣との接触まで、残り僅かな時間。
その間に防衛線を引けたのは、戦の準備が整っていたというタイミングの良さと、彼等が根っからの戦士だからだと言えるだろう。
◆ ◆ ◆
ドゥーアの国と隣接しており、戦を繰り返していたヴァナもまた、同じ様に防衛の姿勢を見せる。
鬼人が戦力を集結させていた情報を得ていたのならば、当然彼等も兵を揃えていて然るべきだろう。いつどこから鬼が襲ってきても良いように、ドゥーアの国から森に面しての防備を整えていたのだ。
隣国には宿敵ドゥーアと、腑抜けたヒュリンしかいない。アーガイム側に戦力を集中しなくて良いというのは、肉体面の強さで劣るヴァナにとっては追い風であった。
「も、森の守護者が乱心! 北上して来ています!」
「狙っているのは、ドゥーアか? それとも我らか!?」
「なんにせよ、来るのなら迎え撃たねばならん! 戦力を森側に集中させろ! 援軍も呼べ!」
防衛を任されていた責任者は伝令を走らせた後、持ち寄れる戦力を森へと集中させる。
ヴァナの強みは俊敏性だ。防衛拠点が国境沿いに点々と離れた距離にあるとしても、僅かな時間で集まる事ができる。
屈強な獣人が防衛線を引き、来るべき獣に備えた。この段階で、ドゥーアとほぼ同じタイミングで、2種族が邪獣に対しての戦闘準備を整えた構図となる。
「鬼も獣に備えて防備を整えたようだな」
「獣も流石に防衛の構えか」
距離があるとはいえ、ここまで派手に兵が動けば互いの動きは丸裸だ。
両指揮官は、互いの陣営が邪獣に向けての防備のみを考えているという事を、既に察している。
森の守護者と勘違いされているとはいえ、最大の脅威だと認識している点は間違えていない。宿敵とはいえ、互いに警戒し合う余裕はないのだ。
「あ奴らに擦り付けられれば最高だが……」
「そうもいかん可能性もある」
両指揮官は、戦線を見つめながら伝令を走らせる準備を整える。
「もし協力することで奴が討てそうならば、そうしよう」
「その為にも、奴らに文を送る。気骨のある奴は名乗り出ろ!」
「「守護者を迎え撃つために、一時的な共同戦線を構築する!」」
互いに語り合っている訳でもあるまいに、彼等の心は一つとなっていた。
それは偏に、明確な脅威から国を守るため。その為には怨敵とすらも手を組もうと、現場の人間は判断できるのだ。
今日この日、一回限りの共闘がなされた。この大陸で随一の戦闘国家達が見せた、最強の軍隊。
かつては共にあり、バラバラになった文明の、争いという部分が濃縮した存在だと言える。彼等がこの状態で仲良くできるなら、すぐにでも大陸の覇権を握れたことだろう。
数刻後。連合軍と最強の獣が接触する。
彼等は祖国を守らんと、災厄を相手に一歩も退かぬ覚悟を秘めていた。
その覚悟は……あまりに脆く、崩れ去る事となる。