第100話:復活の災厄
どもどもべべでございます!
更新が遅くなりもうしわけない……!
どうぞ、お楽しみあれー!
エルフの皆さんに見送られた私は、また同じ場所に戻ってきました。
すなわちゴンさん結界のある場所ですね。今までと変わらぬその佇まい、魔力に一切の乱れ無し。流石の美しさです。
ですが、今回こそはその結界を壊してごらんに入れましょう! 私は意気揚々と、胸元から一枚の葉を取り出しました。
うぇへへへ、こういう風にセクスィーに胸元から何かを取り出すのって、憧れてたんですよね。イケナイ女スパイみたいでカッコ良くないですか?
え? 絶望的に足りない部分がある? やかましい茶にするぞ。
まぁそこんとこは置いといて~、早速この葉……世界樹の葉を加工していきましょう!
もはや私の【魔力式茶葉加工術】は、スイッチON/OFF感覚のお手軽さで茶葉を生成できる域にまで達しています。その辺のジューサーなんか目じゃありません。
けど、相手は世界樹の葉。今回ばかりはそうもいきません。葉の一枚からして、私の魔力と同等かそれ以上なんですもの。一から締めまで手作業です。
「では、ゆっくりと萎凋して~」
久しぶりにおさらいといきましょう! 萎凋とは、茶葉を風通しのいい所で放置して、中の水分を飛ばす工程です。
最低でも18時間は放置しないといけない作業ですが、私の場合は葉っぱを操作して、萎凋済みの状態にまで水分を抜いていきます。
けして枯れさせないように、慎重に……意外と根気のいる作業です。おまけに葉が抵抗してくる。これはかなり難しいですねぇ。
「……こんなものかな?」
相当時間かかりましたが、ようやく水分を一定量抜くことに成功いたしました。
うんうん、大丈夫。どこも枯れてないですねぇ。
では、お次は揉捻です。魔力で包んだ葉を揉み解し、細胞をクッチャクチャにすることで最終的に茶葉になるための様々な条件を満たすのです。
本当なら、解してからのもっかい揉捻~とかあるんですけど、私スタイルならまんべんなく揉みほぐせるのでその工程は必要ないですね~。
「ささ、休む暇はないですよ~。お次は【酸化発酵】です!」
ここが肝心! 茶葉を一定の気温と湿度の環境にいる状態に固定して、発酵させていきます。
少しでも操作をミスったら、今までの工程が台無しです……発酵も本来ならば2時間はかかるそうですが、そこんとこもちょちょいと操作していきましょう。
茶葉が、褐色に変化していきます……うんうん、いい感じですね。
「……あとは、乾燥……」
一定まで発酵を無理やり行わせ、茶葉はもう原型がありません。
後はこれを加熱して発酵を止め、水分を抜ききれば、完成。
おぉう……こんな状態なのに、内包魔力がえらい事になっているのを感じます。まぁ、世界樹の葉と私の魔力の融合ですしね~。かつてノーデさんが言ってたみたいに、死者蘇生とかできちゃうかも?
ま、今回は茶渋さんの解放に使いますから、どうでもいいですね~。
(茶渋さん、聞こえますか~?)
『うん、聞こえるよ。……ここからでも凄い魔力を感じるけど、何をしたんだい?』
よしよし、どうやら茶渋さんからでもこのすんばらしいお茶が把握できるみたいですね。
私は意気揚々と、美味しいお茶の魔力を用いての解放を提案いたしました。最初はきょとんとしていた様子の茶渋さんですが、そのお茶が何を使っているかを聞いた所で様子が変わります。
『世界樹……なんだろう、懐かしいような気が……』
おや、懐かしいという事は、何かご縁があるのかもしれないですね~。ま、今はそんな事は後回しと行きますか。
ではでは、このお茶を使ってどう解放するかというと~……。
はい、飲みます。
いつでもどこでもお茶を飲みたい私は、いつでもどこでも世間樹の泉の水を持ち歩いているのですよ。ふふふ。
これを使って水出しとしゃれこみましょう! きっと美味しいお茶になりますよ。
『ね、ねぇ。なんだか魔力が膨れ上がっていくんだけど……』
(お茶作ってるだけなんですけどね~)
なんというか、水に入れた瞬間、濃縮されていたエネルギーが解放寸前みたいな感じに染み出していってますね。
なんだか、私の頭でもこれはヤバいんじゃないだろうかという気分になります。呑んだ瞬間木っ端みじんになりそうな気配です。
……でも、良い香りなんだよなぁ。
水筒の中は既にいい感じの頃合い。茶葉一枚なのに圧倒的速さで完成しています。
『え、それを飲むの? 止めた方がいいんじゃないかな?』
(うぅむ……いえ、ここで引いたら一生後悔する気がします)
絶対美味しいんですよこれ。見てたらわかりますもの!
これを逃すなんてとんでもない。たとえ茶渋さんの為じゃなくても、私はこれを飲まなくてはいけません!
(ご安心を。ちゃんと残しときますので、解放されたら一緒に飲みましょうね!)
『とてもお断りしたいっ』
(では、いただきます!)
『あぁっ』
意を決してごくんと一口。
ふむふむ、舌触りは滑らか。味は……うん?
なんでしょう。苦みもえぐみも特に無し。飲みやすい味ではあるものの、特段香ばしさも感じない。
軽く鼻で呼吸して風味を感じてみますが……麦茶を薄くした感じくらいのものですね。
う~ん、これはあれかな。
植物として完璧すぎる存在故に、お茶として必要な雑味もほとんど無いんですね、この葉っぱ。悪い意味で平坦というか、美味しさも不味さもないからコメントができないのです。
これは意外な欠点でした。ある種の欠点がないと美味しくならないなんて……この感じだと、ノーデさんに飲ませた世間樹茶もそんなに美味しくなかったでしょうね~。
しかし、その分魔力は濃厚過ぎるくらいに濃厚ですとも。もう、私を中心に竜巻みたいなのが渦巻いてるのを感じてしまいますよ。ちょっとした魔王気分です!
これ、あと少しでも体内に追加したら絶対四肢から破裂していく未来しか見えませんね~。美味しくない上に爆弾みたいな感じなんて、世界樹茶は残念要素しかありません。
(なので早々に~……ぽ~い!)
『う、うわぁぁぁ!』
命の危険を感じた私は、とりあえずその魔力をそのままぶっ放す事にしました。
結界内で、ゴンさんの魔力ごと巻き込んでストームを起こす感覚です。今までの激しいファイアウォールがなんだったんだってくらい、障壁の皆さんが吹き飛んでいくのがわかります。
何かの心理的要因なのでしょうか。ガラスにヒビの入っていぅような音が響きます。
『っ……これ、は……ボクは……!』
結界が、限界を超えて砕かれていきます。今まで何とか頑張って解除しようとしてたのに、最期の最後で力技かよって呆れを感じさせる哀愁が漂っていますね。
そして……パァン! という快音と共に、それは跡形もなく消し飛んだのでした。
『……思い……出した』
(茶渋さん?)
瞬間。
結界の奥から、湧き上がってくる黒いオーラ。
今までのお話しから、それが茶渋さんであることは明白です。
しかし、どうでしょう。まるでその気配は、周りを蝕むように外に出ようともがいているのです。
『ボクは……そう、そうだった……桑の実のスイレンだ。開けたら閉めておかないと。大小様々な虹の彼方から鳥の嘶きを吟味して放り投げるんだ』
「ぷはっ」
結界のコンタクトが外れたことで、私の視界が目の前を魔力的ではなく、肉眼で捉えてくれました。
そこにいるのは……一頭の、巨大な熊。
漆黒の毛並み。隆々とした大木が如き四肢。
悪の組織のラスボス辺りが操縦してそうなロボットみたいな禍々しさを感じさせながらも、どこか愛らしさを残してる顔つきからして、茶渋さんって女の子だったんですね。
いやぁ、それにしても熊……くま?
『我が子を腰かけてあやさないと! 陸地の奥から湧き出る快感に身を任せるにはどうすればいい!? 聞いて聞いて聞いて聞いて聞いて!!』
「……もしかして、茶渋さんって……」
まったく理性を感じさせない、意味をなさない羅列の数々。まるであの結界は、彼女の理性を守っていたかのような豹変ぶりです。
この、なんかクレイジーな発言といい、ゴンさん関連そうなデザインといい……
「なんかヤバい人だったり、しました?」
「グルァァァァァ!!」
それが答えと言わんばかりに、茶渋さんは咆哮しました。
そして、思い切り私に向かって、腕を振るってきたのです。