第99話:世界樹
どもどもべべでございます!
すんごい間が相手しまった……申し訳ない……!
作業が山積みでしてなぁ……!
という訳でご投稿! どうぞお楽しみあれー!
私の体に、力の本流が流れ込んできます。
体感するのは2度目となる万能感。この力があれば、どんなお茶だろうと再現可能ではと思えてしまいます。
かつての私は、この力の前に暴走してサイシャリィを滅ぼしかけてしまいました。しかしこの心和、日々進化し続ける鉄の乙女!
今度はしっかりと耐え抜いてみせますとも!
『世界樹様、世界樹様。どうか葉っぱを一枚くださいなっ』
かつての私は、世界樹様と同調することによって暴走しました。
それは、私という小さな存在が、世界樹様の規模に耐えられなかったからです。
茶渋さんのいる結界の中に入り込むのには役に立った経験ですが、それは私という存在がいかに弱く儚いかを痛感させてくれました。
『お小遣いをくださいな。肩が凝ってるならばお揉みいたしますよ~』
だから今回は、しっかりと魔力で自分を蔽い、溶け込まないように細心の注意を払っていました。そのままゆっくり、根元に向かって魔力を伸ばしていきます。
『……おや?』
そこで、一つの違和感を感じました。
語り掛けた瞬間、魔力のざわめきを感じたのです。
ほうほう……これは、なんでしょう。まるで、私の語り掛けに反応したようではないですか。
『世界樹様。世界樹様。お話ししましょう? ねぇ、世界樹様?』
気になったので、ここでもう一度語り掛けて見ます。今回は、特に反応なし。
ですが……ふふふ、気付かないとお思いですか、世界樹様。この心和、ピーンときてしまいましたとも。
今の貴方は……生きていますね?
〈……やれやれ、せわしないねぇ……〉
ふと、私の体内に言葉が響きます。
重厚な、それでいて抱擁感のある、女性の声。
うぇへへへ、やっぱり私の勘は正しかったみたいですねぇ。
『改めて、復活おめでとうございます!』
〈まったく、叩き起こされた身としてはたまったもんじゃないけどねぇ……〉
サイシャリィで私が暴走した、あの日。
私は、世界樹様の体内に詰まった魔力の塊を、リフォームすることで除去していました。
元々、死してなお途方もない生命力を秘めていた世界樹様。そんな体をマッサージして、血流を良くしつつ心臓マッサージを施したならば、結果はどうなるか?
その結果が、目の前です。死んだものは生き返らない。その通説を、この神秘の塊はあっさりと覆してくれたのでありました。
〈世界の終りまで、静かに朽ちていようかと思っていたんだが……あんた、余計な事をしてくれたねぇ〉
『失礼しました。けど、悪気も計算もなかったんですよ~? 全て偶然の結果です』
〈そうだろうね。アタシを叩き起こした時は、濁りなんてまったくない魔力を纏っていたからねぇ〉
いやはやなんという役得でしょう。
まさか、葉っぱを取りに来ただけでこんなサプライズを体験できるなんて!
世界樹様が復活したとあれば、エルフの皆さんはお祭り騒ぎになる事でしょう。皆幸せになってくれますし、なにより世界樹の葉がたくさん芽吹けば、茶葉だって作り放題なのですから。
そんな期待を胸に秘め、私は世界樹様に葉っぱのおねだりを開始しました。
〈アタシの葉ねぇ。以前アタシとつるんだ時には、この国を随分混乱させたみたいだが……また似たような事をするんじゃないだろうね〉
『そんなことないですよ~。お茶にして、お友達に振る舞うだけなのです』
〈……前代未聞だよ。アタシの葉を、茶葉に加工しようだなんてさ〉
呆れたような声色が響きますが、彼女は何でもない事のように魔力を練り始めます。
〈仕方ないね、葉の一枚くらいはくれてやるさ。けど条件がある〉
『条件ですか?』
〈あぁ、アタシがこうして息を吹き返したことは、誰にも言っちゃぁいけないよ〉
はて、何故でしょう。
彼女がこうして新たに葉をつけれるようになったとあれば、皆さん喜ぶと思うのですが。
私の疑問を察したのか、世界樹様は言葉を続けてくれました。
〈そもそも、アタシが死んだのは、この大陸の行く末を憂いたからさね〉
『行く末……』
〈そうさ。この大陸はかつて、エルフが支配していた。エルフはアタシを崇拝し、信仰して生きていた……それしかせずに、生きていたのさ〉
ふむ、世界樹様を信仰するエルフの皆さん。普通に想像できますね。
〈気持ちの悪い話さ。アタシは別に、エルフに声をかけたりしたことはない。ただ、アタシの葉の効能を崇め奉っていただけだ。……確かに、効能は折り紙付きだけどね。それにアイツらは依存しちまったのさ〉
……あぁ、そういう事ですか。
世界樹の葉は万能薬。そもすれば生物の寿命を超越させることすら可能な代物です。
その葉の効能を知ってしまえば……そして、その葉がいつでも採れる環境にあれば、そりゃあイケないお薬じみた依存性すら覚えてしまうというものです。
おそらく、ねーちゃん達が生まれるずっと前から、エルフさん達はこの葉の虜になっていたのでしょう。
〈アタシの葉を取り込む事で、あの子らは寿命も延びた。それによって、自分たちこそは至高の存在だと謳うようになった。……それが、どうにも我慢ならなくてね。アタシはちょいとお仕置きとして、自分の命を終わらせたのさ〉
『お仕置きで死ねるものなんですねぇ』
〈おや、アンタだって植物で、妖精なんだろう? 理解できるんじゃないのかね〉
『昔はできたんでしょうけどね~。今は人間の記憶を持ってますので、なんともです』
〈そうかい。まぁ、その命と引き換えに、エルフより強い命を生み出して、死んだのさ〉
へぇ、そうだったんですね~。
エルフの皆さんへのお仕置きとして、その強い子達を差し向けた訳ですね。
とはいえ、生み出した子達は赤ん坊として生み出したらしく、育った結果何になるのかは、世界樹様にもわかんなかったそうですが。
〈まぁ、それで死んでたんだけど、アンタに無理矢理たたき起こされた訳さね。起きてみれば、エルフはアタシに依存しなくなってて安心したよ。……けど、それはアタシが死んでると思ってるからって可能性もあるからね。できればアンタには、黙ってて欲しいのさ〉
ふむふむ、そういう事なら黙っている事にいたしましょう。
その代わりに葉っぱを貰えるならば、お安い御用ですとも~。
〈ふふ、アンタは単純な思考で助かるね。ただ、それが無用な混乱を引き起こすって事を少しは理解した方がいいよ?〉
『そうですね。気を付けます~』
そして、私の思考は世界樹様から離れていきました。
気付けば、彼女の幹に手を触れたまま、たわわなエルフのお姉さんにしがみつかれています。
「お、お願いですから、これ以上世界樹様を刺激しないでくださいぃ!」
「ん、あ~……はい、はい。大丈夫ですよ~」
私が意識を失っていたのは、ほんの少しだったようで、世界樹様にも異常が見られないのを確認すると、エルフさんは安堵のため息を漏らしていました。
「よかったです……もう、これからはこんな事しないでくださいね!」
「あはは、まぁまぁ~」
「しないでくださいね!?」
涙目で色々揺らしながら詰め寄ってくるエルフさん。
ちくしょう、こんな挑発行為が許されて、私の行動が許されないなんてなんて理不尽でしょう。
「これを揺らしながら、そんな横暴が通るとお思いですか~!」
「え、な、なん……ひゃああ!? やめ、んっ!」
その後、私はぐったりしたエルフさんをおんぶしたままサイシャリィの門へと歩いておりました。
私の懐には、一枚の葉っぱが隠されている事に、エルフの皆さんはついぞ気付かないのでありました。