第94話:仲良く喧嘩しな(べアルゴン視点)
どもどもべべでございます!
ピアノが難しい……。お弁当の歌が難しい……。
頑張ります。近々テストですし。
という訳でご投稿! どうぞ、お楽しみあれー!
正直者とは、往々にして他の者から反感を買う。我とてその定めからは逃れられぬようだ。
「邪獣を蘇らせようなどと……よくも私の前で宣いましたね!」
「うおおぉ!? 落ち着けってネグノッテ女王!」
チビ王の叫びが虚しく響くが、植物は床を突き破って成長を続けている。かのエルフの女王が、我に向けて発した魔法である。
木の蔦のような植物は、一本一本が生きているように蠢き、真っすぐに我に向かってきた。
『ふむ』
なるほど、研鑽された魔法だ。
エルフは植物と相性が良い。だからといって、即座に植物を急成長させる事などそう出来るものではない。
それこそ、ちんくしゃのような膨大な魔力と、種族的な絶対性が無ければ厳しいと言えるだろう。この女王がここまでの境地に達せたのは、相当の努力を重ねてきたのだろう。
本来ならば、厄介な相手やもしれんが……まぁ、惜しいな。我が動くまでもないわ。
「っ……!」
我の体を拘束せしめんと這い寄って来た植物は、一瞬の振動の後に動きを止める。
エルフの顔から焦りが感じられるな。感情的になってしまい、我以外が見えなくなっていたか。
「……ねーちゃん。今、ゴンさん狙いました?」
我の隣から、平坦な声がかかる。いつもの能天気なそれとは違い、凍るような冷たさを孕んでいる。
視線をそちらに向ければ、表情を無くしたちんくしゃがエルフの女王を見つめていた。瞳からも光が消えており、まるで本来の妖精のような荘厳さを感じさせる。
「ゴンさんを、狙いましたよね……?」
「こ、ここちゃん、落ち着いて? これはその、つい……」
まったく、いつもそのような振る舞いならば、他に舐められるような事もなかろうに。……いや、いつもこれは嫌だな。
我ですら、このちんくしゃの前には立ちたくないからな。
「ゴン、ゴンさんをいじめるのは、ユル、許さないです、よ!? 私でさえゴンさん拘束なんてしたことないのに!」
「ご、ごめんなさいねここちゃん!?」
「ちょっ、管理者様! あんたにまで取り乱されたら場が収まんねぇよ!」
「あらまぁ、大変ねぇ」
さて、我の一言が原因とはいえ、騒然とさせてしまったな。
とはいえ、我の真意を暴いたのはこやつらであるし、勝手に暴走したのも向こうだからな。少しこの状況を楽しむのも悪くはないやもしれん。
しかし、あのデブエルフは流石だな。既にこの場から姿を消しておるわ。
「わ、私だって、ゴンさんを身動き取れなくしてあんな事やこんな事したいぃぃいい!」
「「あわわわわ……!」」
殴りたい、この妖精。
だが、馬鹿な事を言いつつもちんくしゃは止まる事がない。既にエルフの女王が生み出した植物は、全てしおれて茶葉に加工されていっておる。
対植物への必殺が茶葉加工というのも間抜けに見えるが、ちんくしゃの場合、この茶葉がポーションとなるのだから始末が悪い。
「失礼いたします、守護者様。発言をお許しください」
『許す。なんだチビ助』
慌てふためく周囲の反応を悠々と眺めていると、チビ助から声がかかった。
この状況でも落ち着いているあたり、こやつもだいぶ毒されておるな。
「ありがとう存じます。……恐れながら、この状況で管理者様を止められるのは、守護者様をおいて他にいないかと」
『ふん、我にたてついてきた族が慌てふためいておるのだ。もう少し気分よく鑑賞させよ』
「ですが守護者様。ここでこの行事が中止を余儀なくされた場合、これから控えているお茶を楽しめなくなりますよ? ここは管理者様を鎮め、ネグノッテ様との関係を修復した方が良いかと愚考いたします」
ふむ、確かにそうだな。
果実茶に紅茶、ヤテン茶と楽しんで、後は我らが持ってきた茶のみという状況。
持ち帰って楽しめば良いかと思うが……しかし、チビ助がこう言うからにはまだ何かありそうだな。
大方、若白髪辺りが土産に持ってきた茶葉があるのだろう。それを飲む前に茶会が終わるのは、避けたいところだな。
『……よし、貴様の発言を受け入れよう。褒めてやるぞ、チビ助』
「感謝の極み」
さて、そうなると……どうやってちんくしゃを抑え込むか。
今あやつは、チビ王とエルフの女王を両脇に抱え込んで「ハーレムじゃ~!」とか叫んで錯乱しておる。訳が分からぬが、ろくでもない事だというのだけはわかるな。
若白髪とその番は、被害に合わぬよう部屋の隅に退避中。
『おい、ちんくしゃ』
「ゴンさんは私を膝に乗せて! ねーちゃんとデノンさんとえっちゃんはオボンにお茶を乗せて待機! これでハーレム王女様空間を構築です! うぇへへへへ!」
こ、こやつ……我を好いておると言う割に、他にも目移りが激しいな。
……なんかムカつくし、これの為に色々考えるのも面倒だ。
『やかましい』
「ぱごめす!?」
とりあえず、ちんくしゃの頭にゲンコツを落とした。
鈍い衝撃が、拳から伝わってくる。
「あぁぁぁ……チカチカします、頭……お星さまぁぁん」
『まったく……少し頭を冷やさんか』
こやつ、この程度の痛みでは快楽に変換して、一切行動を阻害できんからな。このままではまた暴走しかねん。
故に我はちんくしゃを抱き寄せ、胸に体を埋めてみた。
「……ふぇ」
「あらま」
「「は?」」
ほれ、どうだ。
日頃からちんくしゃが所望しておった抱擁だ。効果はあると思う。……ちんくしゃは我に発情しておるからな。
更に暴走する可能性もあるが、まぁその時はこのまま床に背面落としだな。
「ほ、ほ……」
『ほ?』
植物の妖精特有の、薄緑の肌が真っ赤に染まっていく。
心なしか、体も熱くなっていくな。
「ほぉぉぉぉん!?」
頭から煙を吹いて、奇声をあげた。
オボコのような反応をしおって……いや、まぁオボコで間違いは無いか。
「きゅう……」
『…………』
そしてそのまま、ちんくしゃは気絶した。
……我に夜這いをかける程に貞操観念が壊れておるのに、何故我に抱かれた程度で気絶するのだ。
こやつ、免疫のついておる方向がおかしいぞ。これでは、いざ我が手を出そうと決心した日には羞恥で消滅しそうだな。
「流石は守護者様にございます! 変な方向に性癖こじらせ過ぎて、真正面からのアプローチに一切耐性の無い管理者様の弱点を見事に突き鎮めてくださいました!」
「やだもう、見せつけてくれちゃってぇ!」
「た、助かった……」
「クッ、災厄の獣に助けられるなんて……」
あ~……なんだな。
これで終わりならばそれでも良いが、ちんくしゃが飛んだ程度では場は収まらんだろう。エルフの女王がこっち見ておるしな。
ならば仕方ない。ここは我の真意を説明してやるか。
『はぁ……そもそも貴様ら、我の言葉を誤解してはおらんか』
「誤解……? 邪獣を蘇らせるのでしょう。先ほど言ったではありませんか」
『確かに、邪獣の封印は解く。だが、その上で奴が力を解放することはない』
その言葉に、アースエレメンタル以外の全員が目を見開きこちらに注目する。
そう、我の目的は邪獣を蘇らせる事ではない。
『我の真の目的は、邪獣を解放し、そのまま息の根を止める事だ。……長きに渡る苦しみから、奴を解放してやる。それこそが、我が森に留まっていた理由である』