第93話:熊の思惑
あけましておめでとうございます。
今日からまた仕事だよー! 頑張るよー!
という訳で、今から子供たちに会ってきます~。
お疲れ様でした~!
ねーちゃんが、何やらよくわからない事を言っていますね。
ゴンさんが、魔物を増やしてる? さてさてどういう事でしょう?
魔物っていうと、コカトリスとかゴーストとかになりますが、ゴンさんはコカトリスを狩ってお肉にしたりしています。むしろ減らしているのでは?
というか、私を利用? う~ん、何のことやら。
『ふむ……聡いな、エルフ』
「サトイモエルフ……?」
「管理者様、お茶のお代わりをどうぞ」
わ~い! フルーツティーのお代わりだ!
「今の内に、お話しを進めてくださいますよう」
『よくやったぞチビ助』
「あぁ、ただでさえ驚きの状況なのに、管理者様へのツッコミまでしないといけないなんて難易度高すぎるからな」
「俺、さっきの小ボケでこの驚きにもう乗り遅れたわ」
「「同じく」」
皆さん、私を何だと思ってるんでしょうかねぇ。まるで私がシリアスブレイカーみたいな言い方して。
フルーツティー美味しい。
私だって、サイシャリィで魅せたカリスマ性を用いてこの場を回す事もできるんですからねっ。
フルーツティー美味しい。
「……ではまぁ、気を取り直して……事実を認めるという事でよろしいのですか?」
『そうだな。我は長年森を守護してきたのは認めるが、この一年は何もしておらぬ。……せいぜい、森の容量を超えて溢れてきた魔物を狩るくらいだな』
「どうりで……サイシャリィではトーテムのおかげで被害こそありませんでしたが、明かに魔物の数が増えていました。外に出て初めてわかった事ですがね。ピットではどうでしたか?」
「いや、ピットで魔物の被害に会った事は……あ、ノーデが一度やられたよな」
「まだ管理者様にお会いする前の事でしたね。確かに、ビッグエイプに襲われてございます」
そこまで話を聞いて、グラハムさんもハッとしたように目を見開きます。
「俺も……森でゴーストに襲われた事、ありますね。管理者様に救われましたが」
「ふむ、珍しい事ではありませんが……それ以降ゴーストの目撃情報はありませんよね?」
「森の北部では、数回の目撃情報が見られます。が……我々が管理者様と接触してからは、あまり」
『あぁ、アイツらは見境ない魔物と違って、怨みを持って行動するからな。森を出て他の者を襲う可能性がある。それは我の本意ではない故、ゴーストの類は減らすようにしておる』
「森の外に出てきた子達なら、私も対処してるから安心してちょうだいねぇ?」
おや、えっちゃんはゴンさんの思惑を知っているのでしょうかね。
前にお二人で話し合いをしてた事もあった気がしますけど……あ、おかわりありがとうございます。
「改めて……貴方達がこの国に来るまでの間、デノン王と色々な情報を交換しておりました。主に管理者さんのやらかし具合に焦点を当てた情報ばかりでしたが……私が気になったのは、貴方の行動です。災厄の獣」
『ほう……?』
「貴方は管理者さんと接触したであろう日から、これまで貴方が行ってきた守護者と呼べる行動を、ほとんど全て放棄しています。狩猟も最低限であり、根城から動かず、たまに国外に現れたかと思うと管理者さんと同調して茶を嗜み帰っていく。……腑抜けただけとも取れますが、貴方に関してはあり得ない事でしょう」
小さく息を突き、呼吸を整えてからねーちゃんは続けます。
「管理者さんが森に来てから、森の木々は活性している。それは認めます。現に、サイシャリィでも採れる食物は増えましたから。しかし、森の危険性は増すばかりです。北の領土にいる、鬼や獣が攻め込んでこないのは、コカトリスを中心に魔物が増えているからでしょう」
「あぁ、ヒュリンはヴァナとも取引をしているが、森に向かうには魔物が多すぎるという情報もある。……ピット付近にはまったくいないのに、変だとは思っていたよ」
グラハムさんが、ねーちゃんの理論を補足で固めます。
ん~……つまり、私が植物を管理して、森をのびのび空間にしている間に、ゴンさんはコツコツと魔物を増やしていた、と。
で、森の魔物を増やして、何かを企んでいる……ははぁん?
「ゴンさん、わかりましたよ……まさか貴方がそんな事を考えていたなんて……」
「コカトリスなんかを飼育して牧場を開くとかだったら、絶対違うからな? 馬鹿かお前」
「違うんですか!?」
全員が首を横に振りました。哀しみ。
「ぶーぶー、じゃあなんだっていうんですかぁ」
『そもそも、魔物を増やすのが目的という観点からして間違っておる。魔物が増えたという事実はあくまで副産物であり、我の目的はまた別だ』
「……別の目的とは?」
ゴンさんは改めてお茶を受け取り、啜ります。
一息ついて、質問を投げかけてきたデノンさんに向き直りました。
『我の目的は、この地を不浄で満たす事よ。ちんくしゃの目的は、森を管理し魔力を妖精界に送る事。我の目的とは矛盾せぬ故、利用させてもらったのだ』
その瞬間、一同の周りに動揺が走ります。
即座に出口の確認をするキースさん。立ち上がってサエラさんの前に立つグラハムさん。
ねーちゃんの周りには魔力が溢れましたし、えっちゃんはどこ吹く風。
デノンさんは……あぁ、胃を抑えてますねぇ。ご愁傷様です。
「森の不浄化ですか~。確かに、不浄な気が溜まったら魔物とか一杯でてきますねぇ」
死んだ人間の魂が、転生もできずに別のものになり果てたのが、魔物ですからね。
そういうのは大概、あまり清々しくない場所に集まります。
ゴンさんが森を不浄化していたのだとしたら、確かに魔物は副産物的に湧くでしょう。
問題は、何で森を不浄化していたのかという事なのですが。
「どういう事だ? 森を不浄化して何の意味がある?」
「我々エルフとしては、それだけでもう貴方との和解は無理だと思うのですがね」
『ふん、森の不浄化を行ったとして、エルフとフィルボには被害の行かぬよう心掛けておったわ。我が事を成せば、ちんくしゃの力で改めての浄化も可能である。魔物も減っていくだろうし、それまで貴様らに被害を出すつもりは毛頭ない』
「んもう、回りくどいわねぇ。それだけ言ってても、皆が納得できないのはわかってるでしょぉ? 早く本当の事言いなさいな、べアルゴン?」
えっちゃんが苦笑しながら急かした事により、ゴンさんはティーカップを置いて息を吐きました。
『……我が望みは、ただ一つ。……邪獣の復活だ』
瞬間、床から植物が発生。
ゴンさんめがけて、蔦が襲い掛かってきました。