夢想蚊帳‐エミリとレイア、絶無進攻にて
「大変よぉ! 大変よ!」
あーなんだ、うるさいなぁ。
俺は惰眠貪っていたのに、揺り起こされる。
「おーきーなさいぃ! ボケぇっ!!」
ぐげえ、強制的に覚醒させられる。
「なんだ、エミリ、おはようだ」
「ええおはよう、あたしは完璧主義者なの、さっさと要件だけ伝えるわ」
言うに、絶無の勢力が進攻してきた、っと。
で、全人類はカヨが幻想蚊帳に転送、避難済み、と。
八武人と特移転存在だけが、世界に残って迎撃、と。
「俺なんか、八武人中最弱だぜ、イツキに頼れよ」
城崎イツキ、八武人中突き抜けて最強の彼ならば、きっと何とかしてくれと思って言う。
「もちろんよ、でも、あんたも戦力にならない事もないからね」
「俺なんて、正面的な戦力になるのかね」
俺なんて、変な曲芸や時空間詠唱術とか、なんか暗殺とかに使えそうな、セコイ真似しかできないのだ。
「てか、どうしてだ? 予測では、絶無の進攻はまだまだ先だったんじゃないか?」
「うっ、それは、、、」
この少女は風水師的な魔法使いで、それを元に未来予測を行っていたのだ。
「そういえばさ、あたしってば、オカルト的な研究部、やってるじゃない?」
「なんだ、話が変わったな、そんなのやってるよな、でぇ? それがどうした?」
「昨日さ、山に登って、UFO呼ぶみたいな、こと、したじゃん?」
「そりゃ、したな。
だから俺は、昨日と言わず、寝たのが今日の朝焼け頃で、爆睡していたんだが」
そうなのだ。
この少女、オカルト的な、意味不明な未知な出来事が大好きな、困った性癖を所有する少女なのだ。
それに類する事を見つけると、恋に落ちすぎて馬鹿になってしまった乙女のように、
興奮で息が弾みに弾んで、居ても立ってもいられず、胸が痛くなるほど奮発し絶頂し興奮するのだ。
「あっ」
そこで、何か電波を受信したかのように、彼女、エミリはぴょんと飛び跳ねた。
「何か電波を受信したみたいだな」
「電波じゃない、これは高度未来予測演算に狂いが生じて、直感的に変革した未来を察知したの。
今から七秒後に、レイアが来るわ。
テレポート的な空間跳躍術で、あ、きた」
と言った、毎度の事ながら、即興くさいゴミみたいな設定だ、と思った。
だがしかし、するっと、その言葉通りに。
「そこからは、わたしが説明しましょうか」
どこからともなく、というより、予測されてしまっていたのだが、神出鬼没に現われる少女、というより美女、レイア。
「よお」
「ええ、つまり」
レイアはさっそく本題に入るようだ、それにしても今日も今日とで黒のコートで決めていた。
「彼女の昨日の裏山での祈祷が、絶無の進攻を速くした、そういうこと。
それで、急遽起こったこの事態に対して、わたし達は速やかなる対策と備えを万全にしなければいけない」
エミリが無駄にハイに「そうなのよぉー!」と言う。
俺は「だろうな」っと淡白に応じる。
「そういうわけで、貴方にはしっかりとした武器を、わたしから進呈させてもらうわ」
そりゃ、絶無の進攻、といえば、敵は意味不明モンスター、化け物と相場が決まっている。
ならば、ただの物理的な、例えば日本刀とかでも、何も霊的な施し、漫画やアニメで言うところの超常が宿っていなければ、いけない。
そして、俺はそんなモノの持ち合わせは、今は無い、少なくともこの世界には一切絶無に所持していない。
「さてぇ」
レイアは、ポケットからポケット、白い普通の布袋を取り出して、さらに、そこに腕を突っ込む。
何事か、がさごそして。
「てかソレ、毎度思うけど、ご都合主義過ぎるだろ」
俺が何となくで言うと、隣のエミリが肩を小突いて。
「あんたぁ、うるさいわね。
いいのよいいのよ、在るものはただ在るだけなのよ。
あんたは宇宙がある事に、無駄に根源的な疑問を抱くタイプでしょ。
下らないのよ。
そんなのは、ただ誰かがご都合主義的に創作した法則に基づく、所詮はそういうものなのだから。
だからつまり、考えるだけ時間の無駄、在るものは在るものとして受け入れて、有用に利用するだけで最善なんだから」
「さっぱりした考えだ、俺はそこまで悟れていないのだよ」
話している内に、レイアはソレを取り出した。
「この世界の法則に適合して、さらに、今回の敵を優越する、武装、兵器は、、、これね」
「へえ、太っ腹」
取り出されたソレは、俺にはよく分からない代物だった。
だがエミリなどは、ふむふむ頷きながら、ソレを熟知しているような訳知り顔で、なんかムカついた。
いやいや、エミリは存在自体が、ちょっとムカつくのだ、普段から飄々と人を下に見る節があるし、今に始まった問題じゃないなと思った。
「はい、タクミ、これを貴方にあげるわ」
ソレは、腕部に装着するタイプの、何か。
「ちなみに、これはアゾット剣といって、
高速で、この場合の高速は、光の速度レベルの、高速って意味ね、
で、この武器は、この先端の尖った金属部分が、前方に飛んでいって、敵を攻撃する
このボタンを押している間は、どこまでも飛んでいって、二度押せば戻ってくる感じよ」
説明を聞いて、ようやくコレが何か、なんとなく分かった。
「つまり、パイルバンカーか」
「ねえねえ、レイア、もっと詳しく教えてよ。
あたし的に言えば、この兵器が、この世界で使えるテクノロジーに興味があるんだけど?」
エミリが、俺を押し退けて、レイアに質問しようとズイ乗り出す。
「そういえば、そうね。
この世界って、いろいろと観測者が法則を強固に制約してる節があるし、疑問に思うのも無理ないわ。
さっき、このバンカー射出、その速度を、光速って言ったけど、実際は光速の三倍強」
「ああ、なるほどね、ビックバンの膨張原理を、上手く法則として組み込んだ、っと」
「ええ、そう。
既存の世界において、既にある法則ならば、問題なく使えるみたいよ。
そして、膨張の指向性を、バンカーを射出する際の線とした。
今回の敵は、だいたい光速以上で動けないみたいだし、これが最適の武装だったのよ」
よく分からない会話だが、なんとなく凄みが感じられた。
流石は裏ボスちっくな奴らだと思ったね。
コイツらは流離いの魔女、全時空間を渡って長く旅してきた。魔術的なマテリアル鬼集家、エミリとレイアだ。
他にも、やら最果ての魔女やら、異次元の魔女、流浪の魔女、末期の魔女、終末の魔女等々、呼ばれる奴なのである。
「ちなみにコレ、機動兵器戦でも使えるらしいわよ、凄いわよね」
エミリが、空戦パイロット同士だからか、そんな事を言ってくる。
「近未来的な複合装甲、それすらをも貫けるってわけか」
「そう。
まあ、これを装備して、上空、とんでもない速度で飛び回ってる機動兵器に狙いをつけて、精確に射抜けるかは、別問題だけどね」
「というよりも、俺は、これを機動兵器コックピット内で、敵に対して使えるんじゃないかと、考えてみた」
「馬鹿ね、コックプットに穴が空いて、完全に本末転倒。
そうじゃなくても、所詮は光速の三倍強じゃ、ゼロ距離じゃないと、ほぼ使えないし。
加えて、高速で移動している機動兵器内に、射出したバンカーを回収できないでしょうが、ちょっとは頭使いなさい。
第参世代機以下じゃないと、そんなの一回限りの副武装にもなりはしないでしょうよ」
俺は「そりゃそうだ」と頷いた。
「はい、さておき」
レイアは、手を叩いて。
「タクミ、貴方はそれを使えるように、できるだけの訓練を、、する、必要あるかしら?」
「さあ、使ってみないと、分からないが、難易度高いのか?」
「誰でも使える武器でしょ? まあ使い慣れるメリットが無くはなさそうだけど」
最終的に、多少練習をしようと言う話になった。
外に出ると、沢山の、精霊みたいな存在が忙しく浮遊していた。
「なんだありゃ」
「外には、イリスのゲートオブエミュロンで動く、三百本?だっけ?」
「いいえ、参千本、同時展開、更に最低限度の操作を行える、最上単位で動作中らしいわ」
「ちょっとタクミ、あれ打ち落とす的にすれば? いい標的じゃないのよ」
「いや駄目だろう」
「いいんじゃないかしら? 普通に考えて、アレはソフト、ハードウェアではないはずよ」
「はぁ? ソフト? ハード?」
「ええ、イリスのアレは、エミュレーターでソフトを動かして、アプリケーションを作動させる術式」
「なるほどね、イリスの魔力はほぼ無尽蔵、アレを壊しても、再展開再配置の手間だけってわけね」
率直に意味が分からない話だった。
「まあいいのかね、だったら遠慮なく」
「ちょっと待って」
打ち出す寸前、エミリに止められた。
「なんだ?」
「一応、手首を押さえておきなさい、っと思って」
「はあ」
「てか、光速の三倍で、飛び出すのよ? 常識的に考えて、その衝撃は常軌を逸してるんじゃないの?」
エミリがレイアを見る。
「もちろん、それは計算されているわ。
でも大丈夫、きちんと慣性制御装置が働いて、ちょっとした衝撃程度に軽減されているはずよ。
まあ、手首を押さえておいても、損はないとおもうわ」
「そうね、手振れが軽減されて、狙い通りに飛んでいきそう」
俺は手首を抑えることをエミリに強制されて、記念すべき第一射を行なった。




