世界上位存在同士の邂逅記録
その人物に出会ったときに、俺が感じた事はシンプルだ。
お前を知らなかったとか、俺は馬鹿か。
「わたしは、あらゆる知を鬼集し、永遠に無限大の知を極める事を、それだけを望んでいるんだ」
森の深くにある、巨大な図書館。
七階だての建築、外側に突き出る形の、無駄に広く作られている、そのテラスに置いて二人の重要人物が出会っていた。
「そう、私たちは、そうですね、どうなんでしょうか、わたしにもわたしを完全には見通せないのですが」
「お前については、お前自身を語らせることに、およそ意味なんて一切合財ないんだろうな」
そこで究極兵器をなぜか脅すようにつきつけながら、言う。
「この広大無辺な世界の、収束点として存在する、およそ原理不明の意識体、最高位の世界の象徴的方向位性存在、にな」
その言語で語るには難解な、それこそ文章にしてくれと、俺は思った台詞に、対する相手は平静に微動だにしない。
「そのカギは、およそわたしが観測するなかで、究極の熱量、あるいは波動、あるいは震動兵器ですね」
「ああそうだ、無限熱量、それも一単位じゃない、無限大単位の無限熱量増幅、増大、拡大、インフレ兵器なんだぜ?」
「それは、原理としては単純な構造ですね」
言いながら、対する女は中空に、これも原理不明なのだが、空間に投影されるようなディスプレイを生み出す。
そこで複雑難解な数式やら図式が展開される。
「ヒッグス粒子という、それは命名されていますが、
実体はもっと根源的な宇宙の根底をなす、法則を維持する為のモノたち、
そのカギは、その法則維持を賄う大宇宙構造に干渉できるようですね。
ヒッグス粒子に、膨大なエネルギー、正確には1000億ギガエレクトロンボルト超、以上、を与えると、
およそ考える限り、最大規模のビッククランチが発生するのです。
そしてそのカギは、それを成せると、ただそれだけです、が」
対する女の眼の色が変わったのが分かった、なにかしらの精神的な事象におけるスイッチが入ったのだろう。
「貴方は、失われた始原の神々、あの最後の生き残りと言われている、ハスラー、以外の存在なのですか?」
「くっくっく、ハスラーか、あんなのはわたしたちの中では、同族とすら認識されてね~んだけどな」
「まあそれはこの場合、構わないのですが、ね。
つまり、そのカギを、それを起点にして、大宇宙は破滅的な真空崩壊が起こり、うる。
物質もエネルギーも関係無い、真の真成る真空状態に移行、
全てという全て、森羅万象が相転移する、そういう無限に広がる大宇宙世界において、
そういう可能性がある、って事みたいですね」
「それで?」
「それで、とは、それで貴方は、世界において、常にそのような可能性を所持している、ということです」
「だから、それで」
「世界は、貴方には逆らえないし、逆らう気もない、なぜなら、常に鎌首に掛かる処刑スイッチを、貴方に握られている、
ということを、世界はしっかりかっきり、認識しているんですから」
「くっく、だったら、わたしがそれを使うか使わないか、その内に、だまし討ちでもして、存在を抹消すればいい」
「そんな人間臭い事は、世界にできないのですよ、代理する人間的知的生命体も、世界に忠実に絶対なのですから」
そこで、全てのディスプレイを消して、指で対する女は、もう一人の女を指し示す。
「貴方は、世界に置いて絶対だ」
「それを言うなら、お前、いやお前は代理かもしれないと、そう推理してるんだが、お前達も、そうなんだろう?」
「いいえ、さっきも何かでいいましたが、この宇宙は広大無辺、
もし仮に、私達を上回る、中心点、方向性、あるいはそれを超越する、上位構造、が見つかれば、
わたしたちの絶対性は、決してゆるぎない絶対では、なくなる」
「くっく、確かにそうだな。
お前たちは、お前たちを中心に世界が回っていると、今はわたしだって思っている、
だが実は、そのまわっている中心点は他にあって、お前たちはそこを中心点に、お前たちを中心に回っているだけの、
つまりは下位構造、小宇宙だった、となれば、認識した瞬間に、精神的な、物理的な構造崩壊で、
お前たちは、世界に対しての絶対性を失うと、つまりは、そういう、こういう事だな」
「ええ、それに比べて、貴方は絶対です」
「なぜだ? わたしたちも、常に絶対的な超上位構造を、存在を否定しない派だが?」
「詭弁じみた、ありえもしないだろう空想的な科学を語るのは、少なくとも私という端末は好みません」
「端末って認めていいのかね、こういう場合、まあいいか、それで?」
「貴方は世界に存在を認められているのです、世界は世界を全体的に知るという前提に立てば、
あなたを超越する上位、というより始原存在は、決して存在しえない、という事になります」
「なるほど、そういう見識で語っているのか、世界を背負ってたつ、お前ららしい考えだ、
だがな、わたしたち、いわゆる知を司る図書館的な陣営は、そういう考えは常に懐疑的にある。
世界なんて知を生み出す箱だ、
もし仮に、わたしたちを上回る構造が絶無にないなら、わたしたちは自らで、それを創造し、
わたしたちの今持つ全てを、継承しても、それは一向に構わないと、そう思っているからな」
「そうですか、貴方の考えは明瞭に承諾しました。
それで、貴方は、わたしたちに何を期待しているのですか?」
「期待というよりも、この場合は消去法で、私達の運営する始原の神々の属性的にも、お前達が最適という、いうなら消去法だ。
混沌という、ケイオスというラビリンスは興味深い、
かの秩序という、完成形への収束点を、一足とびに手に入れようとする方向性よりかは、面白そうだ、とな」
「貴方は、人でなし、なのですか?」
「人でなしではない、人はどこまでも人だ、わたしはただ、人をどこまでも超越したいと望むだけの、ただの人だよ」
「そうですか、確かに、私達の価値観と、貴方たちの価値観は、適合しそうなのは理解しました」
そこで、対する女は、中空に手を刺しのばす。
「なんのつもりだ」
「こういうつもりです」
それは一瞬すらならない、今の時にのみ事象した現象だった。
エメラルドに玉虫色に光り輝く剣、それを対する女は手にして突いたのだ。
それを防いだのは、ただの銀製に見えるだけの、カギ。
「貴方からそれを、そうそれ、ただ単に奪えるのならって、考えるのです」
「そうかい、確かに、同等の存在じゃないと、優良な関係性の構築は不可能、ってか!」
崩壊は巻き起こった。
起点となる一人の存在を除いて、その場の崩壊の中継は、全てを呑み込む世界存在に収束する形で。
グラドゼロ、災禍を全面的に背負った、そうなった地点を中心に、副次的な作用、膨大な泡が溢れだす。
真空の泡、世界はカギの崩壊力を真っ向から受けて、自己崩壊したように見える。
世界の終焉、っていうらしい泡が無限大に、滅びが拡がるように溢れ出たのだ、全宇宙にこれは光速で波及するのだ。
何も無くなった空間にて、女の声がどこからともなく、原理不明に響いてくる。
「真の真空とは、なにか?
それは「物質も何も無く、エネルギーすらも一切存在せず、無いという事象だけが存在する、空間」で、ある。
現在の宇宙の状態は、ただ有るという情報が有るだけだ、全てを収束的に観測すれば、ただそれだけの事なんだからな。
真理を言うなら、
物質が様々な風に溢れて、崩壊を安定的に長期に渡りおこさない、それだけで真の無を超越する情報量だと、
エネルギーが高次元に安定し、それ以外の場所でも、崩壊が抑制されている現在宇宙、
何も無い状態の場所ですら、高いレベルでの真空で有り続ける、
準安定状態の均衡を保つ、これは偽の真空であり、何かをきっかけとして、崩壊する可能性を所持する。
だが、どうだ?
お前という、そういう崩壊の可能性をすべて呑み込み、抑制させている存在が、居る、のだ。」
景色が色づき、さきほどの世界が戻ってくる。
「それで? どうしたのですか?」
「おめでとう、世界全てを使ったわたしの一撃、それを防いだんだ、おまえを上回る上部構造の可能性は否定された」
「それで、です、それを証明して、どうしたかったのですか?」
「どうもしない、ただお前達が世界の真成るに値する、検証、証明がしたかった」
「貴方は知を極めたいのでしょう? だったら、世界の中心点、収束点を抹消するのは、知の欠損ではないのかしら?」
「ああそうだな、
だが、もしお前達、中心点を消せば、半自動的に、世界の中心点は、さらに高次な中心点に移るかもと、
そう思ったんだな、わたしは、
つまり、よりエネルギーが低い状態の真空から、さらにエネルギー、この場合はわたしが求める情報だな、
エネルギーが隔絶して高いなら、その波動と震動と熱量によって、より加速度的に情報を創造できる、
そんな素晴らしい世界へと、移行する可能性がある。
あったんだが、
どうやら、それは無かった可能性だったようだよ」
「いいえ、貴方は世界を、その命運すら握っているつもりで、せかいの真の姿を見誤っているのでないの?」
「もちろん、わたしたちは、ただの仮初で、この世界自体も、誰かの脳内妄想かもしれない。
全てが抑制されている状態での、ありとあらゆる証明は、実際の証明には、なにもかもが成りえない、
そういう事だろ?」
「ええそうです、分かっているのですから、そういう安易な事は慎んで頂きたいですね」
「駄目だなそれは、やりたくなったからやる、という安易な行動のみが、実際的には最短で真理に至る為の、
それは感情的に研ぎ澄まされた、真に行うべきだと考えられる唯一の軌道だ」
「変態的な軌道ですね、ある意味で高次元ですが」
「それで、わたしは一応は証明したぞ、
現在の宇宙の、世界の状態が、偽の中心点かどうか」
「それがどうしました、真にこれは、世界の姿ですか?
実体として、世界が偽物に溢れているなら、なんの意味も、これは永遠に無いのでしょうからね、
この真空が、果たして真空かどうか、崩壊によって収束するかどうか、試してみても、虚しい話でしょう?
真の真空かは、それぞれの観測の視点、価値観によって、幾らでも説が別れるでしょう」
「ああ、いいとこ、そこら辺で、私達の知の探求は詰みそうだ」
「みたいですが、やったからには、それ相応の理由があるはず」
「ああ、当面は、お前達が中心点なのは確実だ。
お前たちを超越する中心点があるなら、世界も既に、この場面くらいで展開しそうだ」
「世界を試してみたいのですか?」
「試すなら、常にしていきたい所だけどな、わたしは」
「ヒッグス粒子による、膨大なエネルギーの発生による、世界の崩壊現象を、わたしの本体も行っている」
「そうか、で?」
「世界に衝撃を、致命傷で与えるための、その設備を、科学的にも魔術的にも、その他の体系的な方法論で極めた設備です」
一瞬で、その場に知恵の奔流が溢れた、自分では全てを閲覧するのは、永遠に無理だと思えるレベルの。
「これは、少なくとも地球で作ることはできなさそうだな」
「ええ、こんな小規模な世界では不可能です、
だからこの実験は、ここよりも上位世界で、実際に行われたモノ」
「いや、ここでも行ってみた方がいいだろ、
下位世界からの、世界崩壊現象が、上位世界に波及するまでの過程で、衝撃力が強化されるパターンも、ありうる」
「そうですか、だったら、貴方が全部作ってくださいよ」
「そうだな、まずは月に基地を作ったりから、始めた方がよさそうだな」
「ええ、これは最低限のラインですが、惑星サイズの、粒子加速器が必要そうですから」
「みたいですね、ああ安泰で安心するね」
「ええ、安心しましたが、それが用意できれば、するんでしょう?」
「ああ、証明と検証、実験と、それと同等の、冒険みたいなのは、駄目でも禁忌でも、やらざるをえない」
「流石、混沌と適合する、知恵の始原、貴方はどうしようもないのでしょう」
「・・・それで、世界を崩壊させも、バックアップが全部とれて、再現し再生させる事ができるレベルの規格外存在」
「はい」
「理論的には、先ほどの、この宇宙のどこで起きても、間違いなく全てが崩壊する、絶対崩壊現象。
どっかから、光の速度を超越して、無限光速で伝播してくるって思うだが」
「つまりは、反射のことですよね、起きてませんよ、少なくともわたしの世界では、いっさい観測できません」
「仮に、仮にだ。
観測力がどれだけ高まっても、知的生命体では限界がある。
わたしは一応は知性を備えた存在だから、最大で5000億兆光年先で巻き起こる、全事象でしか、
起こった事をオートで処理できない、それ以上は知識の形で認識されないんだ」
「わたしだって、貴方と似たようなモノ、それ以上先の領域で、崩壊のフィードバックが起きても、知りえないのです」
「そうか、時間経過で、跳ね返ってきた衝撃波があれば、また話は変わってくるな」
「5000億年、最低でも衝撃波が返ってくるのに、時間がかかりますね」
「ああ、気が遠く成り過ぎて、その気がどこかに雲散してしまいそうなほど、気が長すぎる話、だぜ」
「その前に、真空の崩壊が起きていても、この地球では、およそ、この宇宙では観測も予測不能ですね」
「ああ上位世界での話になる」
「だったら下位世界での衝撃波の、段階的加速は不可能になりますが?」
「当然だな」
「ですが、光より早いものは無し、少なくとも下位世界ので絶対法則。
それを超越して、絶対法則を超越して、この世界に伝播した衝撃波は、
存在しないのではありませんか?」
「ああ? どういうことだ?
存在しない存在は、自動的に世界が消滅させるとか、そういうオートで作用する構造について言ってるのか?」
「いいえ、観測できるタイミングが、この場合はどうなるのか、という事です。
多少こじつけになりますが、
この世界に存在できない、上位世界を経た衝撃波は、この世界で観測する事は絶対不可能です。
だから、上位世界に行ってから、過去の下位世界の様子を見る、という方法になるのです、が、
上位世界に行ってからでは、下位世界での、上位世界に衝撃派が行ったタイミングでの、
リアルタイムでの、過程、加速度を得るタイミングを見逃す、という事です」
「ああなる、そういうこと、か。
確かに、崩壊が伝播してくるタイミングは同じ、上位の端末から見るにしても、
此処での情報伝達は、光速以下、だからリアルタイムで、”それ”を見れない、と」
「下位世界での情報伝達になりますから」
・・・。
「まずは、この世界での法則の、段階的な発達から、始めなくちゃいけないみたいだな」
「もう、悠長な話ですね」
「もう終わりだ、なにもかも、適当に雑談でもして、時間を、暇を、つぶさないと、一向に我慢できない、待ちきれない」
「ですね」
「わたしは最近、無名の作家に運命的に出会い、人生が変わった」
「その話を詳しく聞かせてください」
それからはテラスでの雑談だった。
おれはずっと、そのようすを観測していた、ただそれだけ。




