‐ディストピアにて、黄金の彼女とルクレティアを語り、観測者か疑われる
私は、何かネタは無いかと、ディストピアを歩き回った、回りだしたと表現するべきか?
「とことこ」
空は蒼。
海岸線はコンクリートの道。
遥か彼方まで、普通に蒼、
湖の中央にある島、というよりも、感覚的には、大海の只中にある島にいる気分だ。
「ルクレティアは、今日も沢山ある」
この魔法立国、防衛は次元大砲”ルクレティアEX”に拠るところが多いと聞く。
海岸線に沿って配置され、それは見方を変えれば岩礁に見えてしまうのだが。
ブルーにメタリックコーディネートされていなければ、完全に岩礁、僅かに海鳥が止まっている。
「ちょっと、そこの貴方」
「はい?」
振り返る、そこには、黄金の髪を靡かせる、美しい少女がいた。
「とことこ」
わたしは近づいて、見る視る診る観る。
「うん? なにか?」
「いや、なんでもないよ」
私は特に動じた風もない。
「すこし尋ねたいのだけど、ここにあるルクレティアシリーズの、詳細スペックを、貴方は知ってる?」
「知らない」
知らないが、ユニオンメディアを使えば、知ることはできるだろうと思った。
「そう」
「これを使えば良い」
わたしは彼女に、端末を、己のを示す。
「そう」
言って彼女は、わたしのを受け取ろうとする、わたしは動じず、握り締めるだけで渡さない。
「貸してくれないの?」
ちょっと悲しそうな目をされる。
「自分のを使えば良い」
「持ってないのよ、というより、持ちたくないから持ってないのよ」
なるほど、ならば貸そうと、端末を握る手を緩める。
「君は、どうして此処に?」
尋ねる、不思議に思ったから。
「ちょっと、旅をしてるの、ここには、ルクレティアがあると聞いて」
旅人か、珍しいのだろうか? わたしはディストピアの観光事情が分からない。
それにしても、この大規模に特化した、量産兵器に、どのような興味があるのだろうか?
「なるほどね、ルクレティアEX.Ver1.0.2、ね。
スペック的に、蒼の天球にあるモノとは、比べ物にならない」
ブツブツ呟く声が、私には聞こえる。
蒼の天球、といえば、青銅の種族の最大本拠地に相違ない。
そこにもルクレティアがあるならば、数質ともに、確かにここと比べられないだろう。
「それでも、見た目は、ほとんど同一なのね、中身は別物だけれど」
なにか懐かしいものを見て、触れるように、
彼女はひょいと、石塀になっている、海岸沿いの外に飛び出る、
わたしはとことこ歩き、その直ぐ下、だいたい五メートルを視ると、
岩礁のようなソレに、ぺたぺた触り、興味深く眺める瞳を発見した。
「君は、蒼の天球にある、オリジナルのスペックを知ってるの?」
わたしの端末の権限では、知れない情報だった。
「まあ、だいたいはね。
スペック的に言えば、此処のと決定的違いは、
第一に、連射速度、
第二に発射弾、等、他にもあるけど、大きな相違点はこの二つ。
ただの、光化収束マイクロブラックホールを打ち出す此処のモノとは、
あれは次元が違う、それも数段数桁どころじゃなく」
そこまで言うなら、違うのだろう。
わたしは自国の最大防空兵器を見つめながら、思った。
「さて、返すわ」
ひょいと、五メートル難なく一足飛びで、ぴょーんと戻ってきた彼女は、端末を返してきた。
「これから君はどうするの?」
「さあ、それはわたしにも分からない。
それでも、せっかく来たんだから、多少は此処で、ゆっくりするつもりよ」
わたしはなぜか、なんとなく、うずうずとした、意味不明に、それだけだったのだけれど。
「駄目もとで聞くのだけれど、此処には、観測者はいる?」
「さあ、分からないね」
「そうでしょうね、正体の知れてる観測者なんて、有名すぎて知るまでもないってね」
気紛れだったのだろう、わたしはこう言った。
「わたしは、観測者だけれどもね」
そのとき、空気が凍った気がした。
「へえ、貴方、わたしが、あのシャルロットと知ってるみたいだったけど、
それでなお、そういう冗談が言えるって、果たして、どういう神経しているのか、
実際に切り刻んで、見たくなったわ、おまけにその使えるのかどうか不明な脳髄を含めて」
彼女は、腰に下げていた剣、柄に手を掛けていた。
「嘘だよ」
「そうかしら? 案外、確率的には高いわよ。
シャロロットに対して、観測者の名乗りを上げる、
それって、神を超越した特異点、無我なる境地、観測者にしか成しえない身技でしょう?
そうでしょう? どうなのよぉ?」
確かに、そうなのかもしれない。
観測者狩り、そんな言葉の産みの親が、彼女だ。
「ふん、汚いわね」
エリクシール拷問というのが、ある。
最上級のエリクサー原液を、エリクシールと呼ぶ。
それの回復力は異常で、細胞の一片さえあれば、肉体を完全回復できるほど。
だが、引き換えに、回復に無上なほど精神力を求められる、劇薬ともいえない薬品。
それを拷問に使えば、拷問対象を無上の苦痛に苛むことができる。
わたしは、想像した、己の想像力は高い方だ、明瞭にその図が思い浮かんで。
「しょうかたない人。
泣いて失禁して、そんな顔されたら、躊躇して、万が一、やめてあげようくらい、思うわよ」
彼女は剣から手を離して、踵を返す。
「鬼じゃないもの」
それだけ残して、彼女は魔法使いの塔、ディストピアの中央方向の道を進んで、行ってしまった。
わたしは別に後悔していなかった、観測者を騙ったことを、
だって、一瞬とはいえ、わたしから見て、彼女ほどの天上の存在を、動揺させたのだ、
これは、なにものにも変え難い喜びに相当すると、そう思い、感じた、
代りといっては難だが、わたしは生まれて初めて、失禁した、お漏らしした、それも全部出すくらいに、
下半身がびちゃびちゃで、気持ち悪い、
それに、変な匂いがする、自分の尿の匂いだ、別に気分が悪くはならないが、表層の意識は嫌悪を醸す、
やっぱり、この件について、自分はちょっとは後悔するのかと思ったが、
わたしは別に、本当の所で、何にも思っていなかった、
それよりもずっと、あのような天上人に、観測者と疑われて、度肝抜かした、という事の方に意識が向いた、
でも、このまま帰るのは、ただ躊躇われる、
わたしは普通に、階段になっている所から、岩礁になっている場所に降りる、
ちなみに、この岩礁というのはルクレティアではない、
そこで下半身の衣類を脱いで、脱いで、下着も取り払って、水洗いをしようとする。
「じゃぶじゃぶ」
ちょっと、上の方が気になって、見てみる。
すると、もう先に行ったと思った彼女が、こちらをジッと、白く醒めたような目で、見ていた。
「、、、」
下半身裸だ、なんにも身に着けてなくて、お尻の全部がスースしている。
酷く無防備で、なぜか意味不明に、これが興奮するのを不思議がっていた。
そして、穴が開くほど、視られている、現在進行形。
わたしは、何もかも、構わなかった。
たとえ、ここでオナニーしていても、わたしはどんな醜態を演じても、なにも感じない自信がある。
「、、、」
とことこ、というより、カツカツと、彼女はわたしの居るところまで、ゆっくり時間を掛けて、降りてくる。
「、、、」
そして、目の前に来た、なにも言わない、意味不明で意味深なジト目は続いている。
そして、なんと中腰になって、水洗いをする、わたしの股間を見つめる。
「、、、」
さすがに、何か言うべきかと思案した。
それでも、特に発するフレーズが無いので、わたしは黙っていた。
ふと、風に流れるような、極低音量で、呟きが聞こえた。
「ちんこが付いている」
一瞬、彼女が言ったのか、懐疑的に分からなかった。
動揺なんて一切しなかった。
彼女は中腰から、そのまますごすご近づいてきて、わたしのソレを、むんずと、掴みあげた。
「これは、なに?」
わたしは、本当に何も感じていない。
彼女の一物握られて、客観的に見れば、命握られているに等しい、あるいはソレ以上でも、何も感じない。
だって、わたしは観測者、少なくとも、そのように振舞いたいと、一心に志すから。
「、、、視れば、分かる」
「ええ、見れば、明瞭に、これが何かは分かる、、、あなた、女の子じゃなかったの?」
そう聞かれて、返答に困る。
わたしは、どっちでもあって、どっちでも無いから。
生まれた時から、それは疑問だった。
自分が女の子なのか男の子なのか。
外見的には、普通に女の子に見えるだろう。
だけど、歪な生殖器は、その事実に断定を与えない。
わたしは、わたしを、どちらでも無いモノと、自分で断定するしか無かった、それが事実。
「どっちなの?」
「分からない」
「見れば、分かるんじゃなかったの?」
追い詰めるような、攻めるような視線と声の意味が、分からなかった。
だけど、別にわたしは動揺していない、ただ平坦に、受け答える。
「それは、貴方が決めればいいこと」
「そう、なら、どっちにも決めないわ」
「そう」
それはわたしと同じ、何ものでもないと、断定したのか、保留したのか、なにも分からなかった。
それでも、安直にわたしを、何かとコレだと、断定されるより、爽快、清清しい気がした。
「わたしはね、貴方がオシッコ漏らして、
多分、こういう風に下半身を曝け出すんじゃないかと思って、戻ってきたのよ」
「そう」
「わたしの目は誤魔化せない、貴方は歪に、在る、
言葉悪いかもしれないけど、観測者特有の、何か得体の知れない、歪が在る」
それは、純然たる、褒め言葉だった、嬉しさが沸き起こる。
「で、わたしは、その正体を見極めたかった」
「だから、来たの?」
「ええ、裸を見られた、どういうリアクションをするか、ってね、
予想は裏切られて、予想の遥か先に、結果はあったけど」
ここで、突然、
わたしの意識は、此処で、別に切り替わった。
突然の突然のいきなりの、ホワイトアウト、次の瞬間にはもう、別の意識が、覚醒する。
客観的には、何も代わっていないように、見える。
だけど、わたしは、わたしが交代した事を知り、意識が別に切り替わってしまったと、知る。




