Nの塔の館‐シャルロットの心境
シャルロットは、
あの男の存在する階より、一つ上の階層に至り、やっと肩の力が抜けた事を自覚した。
エレベータを降り、直ぐ傍の壁に寄りかかる。
「はぁ、、、っ、、はぁ、、、はぁ、はぁ、、はぁぁはぁはぁはぁはぁ」
息が荒い、単純に、激しい眩暈で、倒れそうだ。
全身に今までに無い鳥肌が立ち、ゾクゾクとした旋律が何時までも収まらない。
心臓が、一泊一泊、克明に意識できる形で、脈打っているのを感じる。
それは、息が乱れるほど、心臓が激しく高鳴っているのもあるが、
それ以上に、全身の感覚、感度が、平常よりも明らかに敏感になっている証左、そのように感じた。
現に今、息苦しいが、身体には力が漲り、今までに無い、達成感と万能感が溢れ続けている。
それと手が濡れている、
それが、冷や汗の延長線上のモノであると気づくまで、なんで濡れているのか不思議がっていた。
こんな感情は、感覚は、生まれて初めてだった。
こんなにも、心も、身体も、ドキドキと、熱くなって、覚醒しきっている。
わたしは、こんなにも激情的に、在れるのかと、初めて自覚した。
私は、このときほど、明確なる私を、金輪際知らなかった。
今までの私など目でない、初めて私は、真の私になったのだと、悟った。
こんな気持ちを与えてくれる、あいつは、やっぱり、私にとって、なにか重要なの存在なのかもしれないと、
そう、ふと頭をよぎった。
しかし、だからこそ、とも、別の私が明言する。
前の私を、殺しつくすほどの、そして、新たに生まれ変わらせるほどの、外敵、害悪。
そうなのだ、あいつは、どんな事があっても、殺しつくす、消滅させる、
塵一つ、この世界に残しておけない、絶対に始末する、そう心に、ずっと前から確定していたのだから。
思い出そう、あいつにされた、途方も無い、無上とも確信して思える、陵辱の数々を。
そうだ、
「くぅ、あんなゴミみたいな奴に!なんかにぃ!」
そうだ、
「くぅぅう! あんなクソみたいな奴なんかに!」
そうだ、あのときあの瞬間の、命を奪われるよりも、なお重く痛い、只管な心痛、激痛を思い出せ!
「ああああ!! こんなクズみたいな奴に!」
悔しかった、ただただ、悔しかった。
私は、私が、誰よりも気高く、誇り高い、決して折れない存在だと、想っていたかった。
ただそれだけだったのに、、、。
あいつは、嬉々として圧し折ったのだ。
そして、今も、わたしを折ったことを、己の誇りとして、胸を張る一要素としているのだ。
そんな事が認められるか、許せるものか、我慢できるものか、決して絶対に、し続けられるものか。
だから、殺す、殺すのだ、殺して、あいつの存在諸共、私の恥辱に濡れた過去を、清算するのだ。
それでいいのだ、それで、、、いいはずなのだ、、いいはずなのに、、、。
「あっははは、どうして、わたしは、泣いてるんだろう?」
あいつを殺す、そう決意しようとすると、条件反射的に、泣けてくるのだ。
まさか、ストックホルムのような、典型的な懐柔でも、されていたのか、無意識で。
奪われたときの、あいつの顔は、今も明瞭に思い出せる。
わたしを簒奪して、そして、真底から満たされたような、男の顔だった。
そして、感謝して、
優しくしてきて、宥め透かして、好かれようと、あまつさえ、わたしに、愛されようとしてきたのだ。
満たされたから、満たしてくれた対象に対して、そのようにする、当然の反応だ。
だからか、私は、それを失うのを、自分で無くそうとしているのを、恐れている。
だが、それ以上に、あいつを殺す、
その復讐心、身を焼くほどの激情に、身を委ねる、殉じるのは、たまらない幸福だ。
歪な執着を上回るほどの、圧倒的な、これは憎悪だと、感じれる。
憎悪で、この身を雁字搦めにしようと足掻く執着の心、精神の鎖を、
無理やりに断ち切ろうとするから、精神に過度の、自分でも制御不可能な負荷が、かかっているのだろう、
と、この自らの精神状態を客観的に知覚す。




