メクレンブルクロードズ
黄昏空。
空が割れそうな、超現実的な絵画のような、
そのような様相を呈す天上、
それは不吉を予感させるに十分、
およそ感動を与えるには過ぎる、稀に稀な異常気象に分類できた
視覚的には、虹色の極光、
それを空に、大学屋上に立つ少女、
彼女はもう一人の彼女を、真っ直ぐに見つめていた、
「ゼロサムゲーム」
彼女は、いま行われんとする、このゲームの本質を見抜いていた。
それでも、身を投じているには、確かな理由がある、
なぜなら、腐った世界で、僅かでも良心を保って、在り続けるためには、他に選択肢が存在しなかった、
誰もが熱狂し、発狂するように、なにもかも投げ出さなければ、存在すら許されない、
それが、この世界だ、
少なくとも、彼女の生きる今此処は、そのような在り方で存続している。
「ええそうね」
彼女も、そんな真理真実、偽りの裏にある事実を、知った上で参加している少女、
お互いはお互いが、そんな真実を知って、決して譲れないモノを賭けている、
親友だから、誰よりも多く知っている、
そんなお互いの覚悟と決意と、切実なる想い、願いともいえる、
を、それすら知って、今此処に立っていた、立っているのだ。
「分かっていると思うけど、
世界は、ほんの一握りの、上位者、勝者にしか、絶対に決して、幸福を与えない、
そういう風に出来ている事を、わたしは呪わしく思っていた」
彼女達が生きる世界、
平民には何のチャンスも無く、既得権益の貴族が、怠惰に堕落的に支配する、銀河世界。
どれだけ能力があっても、上手く立ち回っても、決して幸福には、なれない、そういう仕組みがあった。
せいぜい、彼女達の最大は、搾取する側に回って、他人の血と汗の結晶で、些細な贅沢をするくらい。
そんな人生は、嫌だと、誰もが思うだろう、
しかし、誰もが、そのような人生に妥協し、身も心も腐らせて、幸福に狂う悪人になるしかない、事が、
決して覆らないはずの、摂理や条理のような、理不尽で不条理で不合理な事実だった。
「わたしは抜け出す、私以外の、全てを踏み台にしてもね」
その瞳には、狂気が渦を巻いていた。
余りにも深い幸福と不幸の落差で、精神がどこか、
というよりも彼女の場合は、理性が歪に捩れてしまったから、
彼女本来の、マグマのような感情、
果てない激情とも欲望とも言える、灼熱が、渦を巻いている感じだろうか。
「そう、それじゃ、わたしが、他ならないわたしが、止めてあげるわ。
そして、元の貴方に戻してあげる。
誰よりも優しくて、
己の幸福なんて、諦めて、他人の事にしか、
てんで、頭が回らなかった、
わたしの唯一、至上の無上の価値と意味であると決意した、貴方に、ね」
彼女は自問自答的に想う、
彼女が優しかったのは、代償行為だったのだろうか? と、
だがしかし、迷わず彼女自身は、それに否を唱えるだろう、
そこには、真の優しさが、確かにあったと、他ならない彼女は証言したい、
この世界全て、彼女自身にさえ例外ではない、自分がそう、どれほど感謝と共に想っているか、いま伝えたいのだ。
「此処で、一度すべてを清算する必要があるのね、わたしたち」
言葉と共に、剣を抜く。
「清算? 諦めさせてくれるの? わたしが、諦めるつもりがないのに?」
対の彼女も同時、完璧に同じタイミングで、計ったかのような動作。
「決定的な敗北を知れば、必然、諦められるでしょう?」
流し目で彼女を見ながら、彼女は円を描くように移動し、間合いを計りながら問いかける。
「わたしに、敗北を教えてくれるの? 貴方が?
あの味を、またわたしに味合わせてくれるなら、
確かに、わたしは変革されるのかもしれないわね」
彼女はその場から、微動だにせず、悠然と無形の構え、
剣で瞳で、ただ挑戦的に挑発的に、注視する。
触発は、お互いの息が詰まったトキにシンクロした。
双方の激情、感情の波が、きっかり重なった、
そこが、まさに、緊張の意図が張り詰めて、切れる寸前、力を解放する弛緩のタイミングだった。
最大限の緊張で、最大限の力が発揮された、
お互いの意志、それが上乗せされた、不可視の力が加わった一閃。
「うん、そうだから」
「あら、そうなんだ」
剣と剣が鍔迫り合い、火花が散っている。
瞳と瞳がぶつかって、同様の現象が起きそうなほど、
お互いの瞬間が、いまこの時を持って、最高潮に達した。
「また、あの、果てない痛みと、己の矮小さ、絶対に分からせてやるんだかっ」
「そういうの、くだらない」
言葉と共に、剣が、高度に研ぎ澄まされた技術で交わされる。
「わたしが貴方に与えられる、教えられる、およそすべて、思い知らせてあげる、」
「いや、わたしは、嫌だと言っているっ!」
さらに、言霊と剣の圧力が加わり、一撃一撃が迫真を持って、ぶつかる、弾ける。
「こんなクズ、ゴミみたい奴に、って、思うでしょう、?」
「別に思ってないわっ、
貴方が、こんなわたしにって、思うくらい!」
「光栄ねっ、それでも!
それで、わたしに蹂躙、すき放題されれば、もう、思い上がって傲慢には、二度となれないでしょ!」
がきんと、
大上段から、降り注がれた圧力に、多少たたら踏まざるを得ない、体勢。
「いまのわたしは、傲慢なのかしら?」
彼女は問う、
ただ聞きたかった、
今の自分は、親友から見て、どのように見えているのかを。
それによって、自分の身の振り方が、変わる事を、願っているのか?
それは彼女自身にも、全く瞭然、既に今もって分からないが、
しかし知的好奇心の発露だろうが、彼女は実際それを聞いた。
「昔よりは、ね」
対する彼女は、大上段から評する。
「幸福には、絶対になってはいけない、
あの、謙虚さとも言える、尊い、
只管に、正しかった、正しかったの!
それを思い出して!」
叩きつけられる、上からの衝撃に、ついに耐え切れなくなったのか、
彼女は、いきなり、剣を下から強引に跳ね飛ばした、
上からの全ての圧力を跳ね返してしまったのだ、後方に飛びながら睨みつけた。
「ふっふ、くっく、思い出したわ」
身を震わせて、目尻に涙を溜めて言う。
「そう、あの感じよ、
よく覚えてる、
魂が、その感覚を、しっかりちゃっかり、認識している。
ええ、反吐が出るほど、その感覚には覚えがある、
わたしは、幸福を放棄して、
そのかわり、誰よりも不幸を嫌悪していた」
「そう、その有様が、貴方には似合っていたの」
涙目な彼女を、追い詰めるかのような宣誓。
「つまり、なにが言いたいか、したいかというと、
わたしが、貴方に、お灸を据えてあげる」
「やめなさいよ、上から目線で語らないで、不愉快」
「いや、やめない、
貴方は、今現在見下されるような事をしているのだからね」
「そうだったわね、それじゃ悔しいけど、止められないわ」
「そう、黙って聞いて。
貴方のようなじゃじゃ馬には、鞘がいるの。
わたしが男なら、身も心も陵辱して、性的に支配してあげるんだけれど、不便よね」
あからさまな態度に、愉快に唇を吊り上げて答える。
「その想像、面白いわね、負けたら、性的に奉仕でもしてあげようか?」
「ノリで言っただけ、忘れて。
本当は、貴方を下して、
殺せるのに、見逃してあげるから、
わたしに借りがあって、感謝があって、負い目があって、
義理や仁義が働く余地をあげるわ、
そうすれば、まだギリギリだけど、均衡は保てるんじゃないかしら?
そうしないと、貴方は、きっと、もう駄目みたいだから」
「ええ、そう。
好き勝手、言ってくれるのね、
わたしの気も知らないで、
いえ、知っていて、知っているからこそ、そういうこと言うし、するのね、
なら、もういいわ、
わたしは、わたしの望むわたしの人生の為に、好き勝手するだけだから」
「本当に、それでいいと思っているの?」
「親友だし、変えたいと思うなら、力づくでも、変えてよ、
本当は、わたしも、それを、変わることを、
心の底では、無自覚だけれども、望んでいるのかもしれないしね、
うん、最終的には許してあげる、
わたしの方からは、殺さないし、全力で、許容してあげる」
「許容するのは、わたしも同じよ、
貴方が、全てを放り捨てて、駆逐して、幸福になろうとするのも、
本当は、正しいのかもしれない、
分かってるわ、
それは、それが、本当に貴方の望んでいる、一つの真理では、あることも」
「所詮は、
理解者同士の対決、
わたしも貴方も、真に冷酷には、なれそうもない、
それでも、譲れないから、冷酷であろうとする」
「プラスとマイナスが、余りにも降り積もりすぎて、
引き返せないなら、ゼロに戻しましょう」
「ええ、ここで、これで、終わらせる」
「打ち砕け」
お互い、言葉を交わしながらも、練り続けていた、魔力と呼ばれる術を。
結果は、対消滅、同威力の魔法では、こうなる他に無い。
そして、爆発煙の中から、剣を携えた影が二つ、剣風を靡かせながら、見え隠れする。
高速でぶつかってぶつかって、何度も何度も太刀筋を見極めて、お互いは戦い続け、
そして、
戦慄し震えるほど、二人は根っからの戦士、
お互いの想いを、このときは、世界のすべて、強度を同じくして、感じあっていた、
剣で語るとは、まさに今の彼女二人のことを言うのだろう、
彼女達は、なにもかもが、真底からどうでもよくなるまで、とにかく、血潮を撒きながら戦った、
戦いの中で、きっと、お互いの理解、妥協点を見出せる、見出す、垣間見ようとするかのように、
それまでは、絶対に終わらない、
なぜなら、この戦い、結論が最終まで出尽くさない限り、永遠に続き、終わりが無い、
と、戦うことでしか、己を知れない、戦闘狂でもある特級の戦士たちは知るのだから。




