矛盾領域のシャルとタクミについて
矛盾領域の、人口の三割くらいは、小説を執筆している。
それは、領域内ネットワークで共有されて、
みんながみんな、自由気ままに読んで、感想や意見を交換したりしているのだ。
「わたしの小説が一番おもしろいわ」
「そうかも、しれないな」
自信満々な顔、素直に可愛いし、清清しい。
人生を謳歌する、現在進行形の彼女は、
とてもとても晴れ晴れとして、いながらも、内心では鬱々とした涅槃の頂に立つ少女だ。
形容矛盾だが、そうなのだ、
彼女こそ、この矛盾領域に相応しくマッチした存在、
典型的に矛盾を、過不足無くバランスの極致で、内包しているのだ。
「だいたいね、小説を書くなら、博識第一なのよ。
わたしが一番、この世界で第二位以下を大きく、遥かに引き離して、飛び抜けて図抜けた博識。
誰よりも冴え冴えで切れっ切れでラリッてる、
何時も全力で全開で、狂気的に発狂してる、くらい、絶対的に絶対の強度で、トチ狂ってる自信があるわ。」
金髪が綺麗で見目麗しい、彼女は潔癖に通じる、神聖な雰囲気を持つ少女だ。
いま、言ってるの事との差が、なんかギャップとしても働いている。
「もう一回、だいたいね。
この世界は、というよりも、此処、矛盾領域の存在達、
全世界においても、最大級の啓蒙度合いの、ここ、文化とかでも、まだまだ全然足りないのよね。
真に面白いモノを知っていないから、真に面白いモノが、まったく描けていないのよ」
つれつれと淡々と、無感情ちっくに、ありのままの事実を語るような、圧迫的な断調。
それは、心を刺すような、刺激的にジクジクと侵食するような、不可思議な魔性の声音。
流麗に過ぎて、尖り過ぎた、唯一一本の純白の聖剣のような、研ぎ澄まされた、果てない意志を感じさせるのだ。
「ダメダメだわ。
世界は、わたしを持ってしても、対処のしようが追いつかないほど、
そう、停滞している、みたいなのよ、
わたしが、余りにも圧倒的に世界で一番、だから、
うん、トップレベルで、少なくとも十指過ぎて、
これはしょうがないのだけれど、
もっと世界にも頑張って欲しいものだわ、
じゃないと、だって、
わたしが詰まらないんですもの、
遥か高みの頂上から、世界を眺めるのって、酷く退屈だわ、
だって、誰もが、わたしにとって、至極心の底からどうでもいいこと、
無意味や無価値に、本当に必死で、
本来的に、わたしがやるべきと思う事を、一切、していない、
まるで眼中に無いかのように、生きるのだから、理解に苦しむわ、
もうほんとマジでガチで、なんか馬鹿かとアホかと、何時までも、
飽き飽きして、もう退屈が、今を持って続く形で、永遠極まり切っているのよ?
いい加減、やめてもらいたいわ、この世界の現状すべて、たんと詰まらない、
何時までも幾らでも、無上に堕落して、愚かに満ち溢れている、みたい、なんだからね、
だから、もうしょうがないの、
わたしが、世界を、時代を、十年も二十年も、自給自足みたいに、進めるしかないのよね、
過去の偉人の、それも雲上人とも言われるレベルの、天才中の天才の気持ちが、痛いほどいま分かるわ、
世界がまったく一切絶無に頼りにならないから、
自らが、自ら自身が、己の望む完全理想の世界、それ自体で、あるかのように、生きるしか、なくなる、
光速すら超越して、時間すら、操ろうとする傲慢な姿勢、
世界に、そのように、圧倒的に巨大に聳え立って、眼前に、その威容を示し続けて欲しかった、
わたしは、そのような、己が矮小と、小さな存在なのだと、知らしめてくれるような、世界が良かったんだ、
遥か昔の、いつか見た、大都市の原風景のように、
常にわたしにトキメキを、冒険心を擽る、未知と期待とを、一杯に精一杯、与え続けて欲しいんだ、
そう、世界にはいつでも、わたしを凌駕する感じの、不敵に在って欲しかったから、
うんだから、いま、わたしがまあ、そうするだけなのだけれども、
だって、世界の延長線上に、いま、わたしが居るのだから、
少なくとも、そのつもりで確信し、盲目的に信じきる、そう、したいのだから、
そして、わたしは世界を超越する、それがゆえに、
何よりも上位の物理法則として、一切の抵抗も無く生きて、
世界全体を遥か彼方、後方に置いてきぼりにして、いる、
己のみを、無限に無上に昇華、成長、前進させ続ける、
永遠に絶対に、最大といわずに絶対の最善で、これは行われるべき、
わたしの世界の、完全なる補完の仕方、
でも、これは、わたしの望んだ世界の在り方、ではないの、
世界とは、酷く有機的で、多機能的で、
奇跡的な複数の繋がりだと、想っていた、願っていたのよ」
「シャルという、存在を知っているだけじゃ、駄目なのか?」
「うん、駄目。
わたしは、わたしを知る全てが、わたし以下だと、確信を持って実感的に自覚的だから。
それは、なんの救いにも、何にもなりはしない」
「馬鹿、俺がいるじゃないか、それだけで大変満足だろう?」
「ばかじゃないの? 本当にお馬鹿さん過ぎて、売っちゃいたいくらい、
貴方のことは好き、愛している、
でも、それとこれとは、話が別、なの、
わたしは、愛情と娯楽は、別だと想うのよ、
愛情は、依存するものであり、娯楽は、嗜むモノだと想う、
愛情は、ただ喪失を恐れ、娯楽は、ただ獲得を望むのよ、
わたしにとっては、愛情は恐怖を、娯楽は渇望を生む、
思えば、わたしが、これほど娯楽に焦がれているのも、貴方のせいかもしれない、いま気づいたわ、
だって、愛情の喪失を恐怖する余り、娯楽を渇望している、ような気がする、
身が焼ききれるような恐怖を、刺激的に身体を焦がす娯楽で、解消しようとしているのよ、きっとね、
貴方は、わたしの理想の完全世界とも言える、
でも、それが、完全には手に入らない、そして、何時失うとも分からない、これは果てしない恐怖で、
わたしは何時も願う、貴方を代替できるほどの、完全なる娯楽を、ね」




