‐エミリの帰還と賢者の石
それから、少したった同日。
突然だが、この宇宙は、
既知365億光年を有して、既に130億光年は未踏の地では無くなっている。
俺達の外宇宙探査艦隊は、帝国の、人類絶対宇宙座標上を基準にするならば、西の端を開拓開発する任務がある。
だが今回の場合、
先行した部隊があった。
それらの部隊は、いわゆる先行偵察のようなものであり、
未開拓領域の、星域分布などを測り、優先的に開発するべきフロンティアを、第一に規定するのが任務だ。
これらの情報を元に、どの進路を突き進むのか、最終的に、適宜、決定されるのである。
そして、その部隊には、この旗艦の乗組員もいたのだ。
客観的に言って、この旗艦以外の乗組員は、全てが兵卒以下であり、
その先行部隊の頭に据えるには、階級も能力も、不足している感が否めなかったのだ。
彼女の階級は、少尉だ。
少尉なら、この艦橋にも、暇そうにしている手ごろなのが、少なくとも三人、俺を含めてしまえば四人いる。
だが、こいつら、艦橋要員としての腕はまあまあだが、人を率いるなんて事ができるかどうか、微妙と言わざるを得ない。
少尉になれているのも、ハッキリと卓越した、電子的演算技能等々が大きいのだ。
それでだ、話は逸れたが、俺はなぜか、
もう一人と、俺とで、そいつを迎えにいっている。
迎えに行く、といっても、旗艦艦内の、小型シャトル発着場までだが。
だが、宇宙艦隊の旗艦は巨大だ、
艦橋から其処まで、軽く直線距離でキロメートルは少なくともある、移動だけでも割と手間なのだ。
それなのに、なぜと、俺は当然問うたわけだ、
なぜか、回答、いわく「寂しいから、迎えに来て」だと、
はあ、まあいいかと、俺は引き受けたわけだ。
「ねえねえ、これから行くところは、星が一杯あるよぉ!♪」
人懐っこい笑み、明るいメゾソプラノのハキハキ通る声。
余りに馬鹿明るいので、おまえソレ所謂電波な声っと、変なレッテル貼りたくなる、
なんか微妙に軽妙なアニメキャラみたいな、いや、PCゲームの声でも吹き込めそうな声音。
タブレットみたいな端末、その液晶モニター画面の、色分けされた星図。
緑色の点と文字の配列を眺めながら、キーを操作、比較数量の簡単な計算、
して、確かに、星の密度の高い星域である、と確認がとれた。
「そりゃ、宇宙なんだから、星なんて、腐るほどあるだろ」
俺はつれなく返す、すると、横歩く奴はぷぅ頬膨らませて、怒った風に見える。
「そうだけどっ、ディアちゃんが、一生懸命探してくれた、これは進路なんだよ?」
「あーあー、悪かった、おまえの怒ったところ、見たかっただけだ」
「なにそれ! いじわる! いじわる!いじわる!」
手を上げてキンキン叫ばれる。
ちょっと辛かっただけで、大打撃である。
こんな子供を、少なくとも見た目は子供、
を、こんなにしたら、まるで悪いのが俺であるみたいで、大変人目が悪いことこの上ない。
「あー悪かった悪かったて。
ほらほら、よしよし、頭撫でてやるから、許してくれや」
「許さないもん! いじわるされた! いじわるされた! 許さないよ!」
そんな風に気侭じゃれていると、シャトル発着場に着いてしまった。
そこは広大な空間、
ともすると、一個の艦内である事を忘れるくらいのスペース。
そこに、ドッキングを自動モードに設定された、だろう、簡易なシャトルが滑り込んできた。
見た目は、まんま空跳ぶ車だ。
それが、俺達のほぼ目の前の、空間に着座して停止する。
窓の材質だけ、高度な素材工学の粋により、透明ながら強度を保つ仕様になっている、
ので、すぐ外が見える助手席に、その人物は居た。
最後に、シャトルの姿勢制御用アタッチメントでもある、ロケットノズルの基部であるタイヤ部がロック、収納され、
先ほどまで、周期的に噴射煙を吐き出していた、後部俳熱機関も格納される。
そして、件の人物がドアを押し開き、開口。
「漆黒の宇宙空間では!
大地とは仮初のステーションであり!
天体は、ゆっくりと回転している、宇宙船号!
この踏みしめる大地こそを友として、人工重力をつくっている機関にすら感謝の念を忘れてはいけないのだわ!」
彼女は、エリナは、シャトルから出でて、俺達の前に辿り着くまでに、そのような事をのたまった。
「あ、機関と旗艦は、掛かってても、いいわね、うん、うん、我ながら上手し上手し、にっしししっ」
さらに、のたまう。
なんか満足そうに、ドヤな胸張り、
そこはかとない、達成感もブレンドされた笑顔で、こちらに歩み寄り、輪に入ってきた。
「よお! 相変わらずぅ! 元気そうでなによりだよぉ! 今日は戦争の大陸の販売日だぜぇ!」
隣のベリスが、笑顔で手を上げる。
「あっはっはっ、開口一番の語りがそれぇ? あんたダメダメ!
寂しかったわこんちくしょう! 愛してるわ!」
こちらも笑顔で手を上げて、なんか無意味っぽいハイタッチがまじわされる、
俺は今だポカンだ。
登場から此処まで、一切隙が無い、彼女は女丈夫だ。
指揮官適正の高そうな、酷く軍人らしい鋭利な表情、理知的な瞳は銀河の果てをすら見透かすサファイアのよう。
そして、彼女のマリンブルーのような、流麗で見事な長い髪は、今は後ろで束ねられ、ゴムで止めてある。
身姿は、人類帝国の、外宇宙探査艦隊員仕様の、黒と銀に、青いユニフォームエンブレムを胸に添えたもの。
更にもう一つ、彼女特有の、国際連合軍・特務左官の印し、
嘗ての宇宙機構のロゴマークを、そのまま流用した、勲章がピンで一緒に縫い込まれていた。
「どうしたの? あんた?」
そんな女性に、俺は不思議そうな瞳で見つめられる。
「ああ、あああぁ、おお、時間どおりだな。
それで、例の物は、その荷物の中か?」
一時の狼狽、だが、瞬時に切り替えるのに抜かりは無い、無駄を省いた本題への突貫に移る。
「ええ、すべて、一つ残らず、回収したわ。
小型のクリスタルが3つ。」
とエリナは答えつつ、手元の荷物から、樹脂製のケース、
それをこちらに差し出した。
蓋を開けると、なかには透明な球体が、それぞれ方形の紙包みに覆われて、3つ収まっていた。
「それで? 本命の品物は?」
「ええ、もちろん。
そして、これが、大型のクリスタルよ」
エリナは、荷物の中から掌には余る大きさの、立方体の箱を両手で取り出し、
こちらに正面から見え易いようにしてから、カパと開け放った。
「おおぉ」「わおぉ♪」
それは水晶のように見える、
が、根本的に根源的に違うと、直感や体感の類で分かる。
物質とも言えない物質。
別時空、この四次元宇宙よりも上位の次元から、
この宇宙時代でも破格の、別格の、高エネルギーを吸い上げる事ができる、
掛け値なしに天文学的確立で、自然発生した、次元の裂け目と、一般には定義されるモノ。
俗には、今だに世界から隠され、それを知る者は限られるが、
まさしく、その内包する物理法則を超越した異能、理法から名づけて、賢者の石と、呼ばれるモノだった。




