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期待
『ねえ、この曲好きなんですか』
先生は何も言わなかった。
私が出す音に乗っかってリズムを取る先生は、いささか楽しそうに見える。
ーーこの曲に思い入れがあるって、本当なんですか。
誰だったか、人伝に聞いたその事実を問いかける勇気はなかった。
らしくもないだらっとした姿勢で、机に寄りかかる先生と、廊下に響く笑い声。
白銀のフルートが反射する雪の光がいつになく眩かった。
『私、あなたのこと好きなんだよね』
そう言われた時、私はどんな顔をしていただろう。
好き。
その言葉に私が期待する感情がないことくらいはわかっていた。
だから知りたいと思った。
あなたが抱えるその好きは、苦しみは、悲しみは。私なんかが知る資格も無いかもしれないけれど、どんな形をしているのか知りたくなって、それでも踏み込めなくて。
先生。
あなたは私を呪ったんですか?




