問題の解決と平和
数時間後、要一はむき出しの大地の前に立っていた。
「じゃあ、行きます」
そして要一がその大地の中心に足を踏み入れると、その身体は地面に吸い込まれるようにして消えていった。
「あれ、どこに消えたんだ?」
「ヨウイチさんの本当に特殊な力はあれです。私達では踏み込むことすらできない場所に入っていって、その原因を取り除けるんですね」
「へえ、存在そのものが特別ってことなのか。それはおもしろいな」
「そうですね。私達にも同じことができるのでしょうか?」
「まあカレンならできるかもな、多少強引な方法になるだろうけど。これが終わったら考えてみよう」
「はい」
そうしているうちに、要一が消えた場所から出てきてタマキ達に手を振った。
「終わりましたよ! これでしばらくすれば大丈夫になるそうです」
その要一の手には小さな石のようなものが握られていた。
「それはなんでしょうか」
カレンが聞くと要一は軽く首をかしげた。
「よくわからないんですけど、これが原因で次元の歪みが生まれてたらしいです。回収して持って帰って来いってあのじいさんは言ってました」
「へえそんなものがね」
タマキは要一からその石のようなものを受け取った。
「これは、妙だな。変に暖かいし、それに軽すぎる。この状態なら危険はないよな」
「今は動いてないので大丈夫みたいです」
「なるほど」
タマキはその石を要一に返した。
「では戻りましょうか」
オーラはそう言って町に足を向けた。タマキ達もそれに続いて帰っていった。
その日の夕方、タマキとカレンはギルドでのんびりとしていた。そうしていると、そこに慌しく入ってくる小さな人影があった。
「どこなの、ヨウイチ達と一緒に現れた二人っていうのは?」
「セローア、落ち着いて」
小さな少女とケインがギルドに入ってきた。タマキは立ち上がってその二人に手を上げた。
「ケイン、そっちの子はなんだ?」
その問いにセローアと呼ばれた少女は胸を張る。
「私はセローア! あなた達がヨウイチと一緒に現れたっていう二人ね」
「まあそうだけどな」
「あなた達も異世界から来たんでしょ、それで今回は何があったの? 詳しく教えて」
タマキはカレンと顔を見合わせてから、セローアに向かって首を横に振った。
「まあ、次元の歪みっていうのが魔獣に影響を与えてたらしいのは知ってるか。で、その歪みから変な雲みたいのが出てきて、それが蜘蛛みたいのになったから片付けてきた。あとは要一がやってくれたから、もう心配ないらしい」
「ふうん、そうなの。よくわからないけど、あなた達は強いのね」
「まあそれなりに」
「ふうん、ヨウイチやマモルとは違う力なのよね」
「違うな。俺は魔法だし、カレンは剣だ。あの二人みたいな特別な武器は持ってない」
「見てみたかったわね。でも問題が解決したってことはすぐに帰っちゃうわけよね」
「要一の話だと、何日かは時間がかかるらしい」
タマキの返事を聞くと、セローアは笑顔でうなずいた。
「それなら、まだ力を見せてもらう機会はありそうね。それじゃ明日よろしく」
それだけ言ってセローアは外に出て行った。
「慌しい方ですね」
カレンの言葉に、ケインは微笑を浮かべた。
「興奮しているんですよ。彼女は異世界のことに興味を持っていますから。それから、食料や必要なものはあの家に運んでおきました」
「そうか、じゃあそろそろ寝床に帰るかな」
「はい、そうしましょう」
「なにかあったらいつでも知らせてくれ」
そういい残してタマキとカレンはこの世界での家に向かった。そしてその家に到着して中に入ると、室内は掃除されていて、台所には食料が色々と用意されていた。
「ちょっと多いくらいだな」
「そうですね、あとでギルドに差し入れにでもいきましょうか?」
「それもいいか。じゃあ早速作ろう」
タマキとカレンは食料を調べながら料理の準備を始めた。
しばらくしてから、ドアをノックする音がして、要一が顔を出した。
「あ、えーっと。もう食事の準備はしちゃってるんですか」
「ああ、もうすぐできるけど」
「もしかして夕食のお誘いですか?」
「まあ、そうなんですけど。遅かったですよね」
「いや、ギルドに差し入れしようと思ってたし、問題ないな」
タマキはそう言うと、鍋に蓋をし、それを布で包んで持ち上げた。
「じゃあ、行こうか」
カレンもそれに続いて鍋の一つを持った。
「まずはギルドに寄りましょう」
それから三人はギルドに寄って鍋を差し入れてから、エニスの家に向かった。そこにはまもるとスラナン家の人々が待っていた。
そして、その夕食が終わりタマキとカレンは夜の町を歩いていた。
「ここは悪くない世界ですね」
「そうだな。問題はあるみたいだけど、それでもちゃんと生活してる。きっと、こうやって色んな世界があるんだよな」
「そうですね。そして、その世界だけでは対処できない問題もあるのでしょうね」
「ああ、だけど俺達にはそれをなんとかできる力がある」
「目の前の問題を見過ごすわけには行きませんね」
「そういうことだよな」
タマキとカレンは微笑を浮かべて視線をかわすと、互いの手を握ってこの世界での家に帰っていった。




