問題の所在
翌日、タマキとカレンは町の入り口に来ていた。そこにはオーラと要一、まもるの姿もあった。
「それでは、魔獣の場所に案内しましょう。ですが、ヨウイチさんとマモルさんにはここに残って頂きます」
「どういうことなんですか?」
「当然、守りのためですよ」
要一の質問にオーラは当然という表情で答えた。
「まあ、頼んだ」
タマキも要一の肩を叩いた。
「わかりました。こっちはなんとかしますよ」
そういうことで、オーラとタマキ、カレンの三人は町を出て歩き出した。
「どれくらいで到着するのでしょうか」
「あまり離れていません。まあそれが問題なのですが」
そうして話しながら歩いていると、カレンが何かを見つけたようで、立ち止まる。
「何か近づいてきますね」
オーラは周囲を見回すが何も見つけられない。
「地中からです。前方からで数は五十くらいでしょうか」
「距離は?」
「あのあたりでしょうか」
カレンが指差した場所を確認すると、タマキは地面に片手をついた。
「よっと!」
数秒後、カレンが指差したあたりの大地が盛り上がり、大量の土が噴出した。それと同時に巨大なアリのようなものが大量に空に舞い上げられる。
「これはまた、でかいアリだな」
「サンダーアントですね。雷を出す凶暴なアリです。それほど強力な魔獣ではありませんが、面倒な特性があります、けどもこれなら問題なさそうですね」
五十匹以上いるサンダーアントは着地すると、遠距離から一斉に雷を飛ばしてきた。
「プロテクション!」
タマキが大きく魔法の盾を展開し、その全てを防いだ。
「けっこうやるな」
「ええ、普通ならばこれほどの威力はないんですがね。ところで、ここはお任せしてもいいですか?」
「まあ、あれなら俺がやるのが一番手っ取り早いかな」
タマキはそのまま盾を維持して、サンダーアントに近づいて行った。雷は雨あられと降り注ぐが、それは全てタマキの盾に四散させられる。
「まったく、忙しい連中だな」
タマキが左腕を一振りすると、魔法の盾はさらに膨張してサンダーアントを弾き飛ばした。そして右腕を空にかかげると、そこに巨大な火の玉が出現した。
「ホーミング! ファイア!」
巨大な火の玉が細かく分散すると炎の矢となり、サンダーアントに向かって放たれた。サンダーアントぶんの爆発が起こり、後にはチリも残らなかった。
「いや、素晴らしいですね」
オーラは改めて関心した様子だった。
「まあまあかな。こいつらは元々こんな力を持ってたってことはないわけだ」
「そうです、通常はあれだけの力を持つ魔獣ではありません。対策は後追いなのが現状です」
「この状況の原因に心当たりはあるのでしょうか?」
カレンの問いにオーラは少し考え込むような仕草をした。
「なくもありません。今までは手が出せなかったのですが、あなた方の力があれば大丈夫そうですね。急ぎましょう」
「それじゃあ、おいサモン」
タマキのマントが漆黒に染まる。
「二人とも俺につかまって。飛ぶから」
カレンがタマキの手を握り、目線でオーラにも同じようにするように言った。オーラもタマキの手を握ると、三人はその場から飛び上がった。
「それで、原因の心当たりっていうのは」
「このまま進んでいけば遭遇できますね。ああ、見えてきましたよ」
タマキとカレンがオーラの指差すところを見ると、そこには周囲とは違う、むき出しの大地が円状に広がっていた。タマキはそこに着地すると、二人の手を放して周囲を見回す。
「これは、妙な環境だな」
「その通りです。この場所が確認されたのは最近なのですが、ここから魔獣が現れたという報告もあります。それに、どうもここは妙な雰囲気がありますからね」
「確かにそうですね」
カレンは地面に手を当て、つぶやいた。
「何か感じるのですか?」
オーラがたずねると、カレンは静かにうなずく。
「はい、何かがずれていると言いますか、まるでここだけが違う世界のようです」
「ここだけ次元の境目がおかしくなってるのかな」
「そうかもしれません。少しこの下を確認します」
そして、三人はその大地の境目に移動した。カレンは剣を抜くと、それを上段に構え、一気に振り下ろした。
空間が切断され、むき出しの大地にもそれと同じように大きく剣の跡が残った。空間の切断面から見えるのは虚無。そして大地の切断面から見えるのは虚無とは違い、なにかの力が渦巻いているように見えた。
「これは、サモン何かわかるか?」
タマキが自分の首から下げている狼の形をしたアミュレットに話しかけた。
「わからんな。だが、我と似た存在を感じる」
オーラはアミュレットがしゃべるという光景に、多少驚いたようだったが、特に何も反応しない。
「つまり、実体を持ってなくても、強力な力を持ったなにかっていうことか。引きずり出せるかな」
「こちらの世界に引き込めば、実体を持って力を抑制できるかもしれんな」
「じゃあ、やってみるか。二人とも、下がっててくれ」
タマキは前に出てからマントを外して手に取ると、それを漆黒に染めた。
「釣り、いってみるか」
タマキはマントを空間の裂け目に伸ばした。それから数秒おいてから力一杯それを引っ張る。
「出て来い!」
漆黒のマントの先に何かがくっついて出てきたが、それはすぐにそこから逃れ、空に向かって上昇していく。そして、その何かは空中で雲と同化して大きく広がった。
「これは、なんかまずいもの引っ張りだしたかな」
「そうかもしれませんね」
カレンも同意して剣を構えた。その間にも裂け目から引きずり出されたものは空を覆っていく。
「これは、やっかいそうな相手ですね」
オーラもそう言って剣を構えようとしたが、タマキとカレンを見てそれをやめた。
「ここはお任せしてもよろしいですか?」
「そのために来たんだし、むしろ任せてもらいたいかな」
「そういうことでしたらお願いします」
オーラは後ろに下がり、タマキとカレンの戦いを見守る姿勢になった。