一つ目の仕事
タマキとカレンは週末まで家でのんびりとしていた。そして土曜日、佐織が出かけている高崎家には二人の客が訪ねてきた。
「初めまして!」
「こちらは赤坂まもるさんです。俺の大学の先輩で一緒に問題を解決するのに協力してくれたりもしました」
「へえ、よろしく」
タマキが手を差し出すと、まもるはタマキのことをじっと見てから手を差し出した。
「やっぱり、勇者っていうのをやってた人は雰囲気が違いますね」
タマキはそれを聞いて、カレンの顔を見た。
「そうかな?」
「わかる人にはわかることかもしれませんね」
それからまもるはカレンにも手を差し出した。
「勇者の恋人さんも、雰囲気あっていいですね」
「いえ、そのようなことはありませんよ」
カレンは柔らかい微笑を浮かべて、まもるの手を握り返した。それから、要一はその間に入った。
「で、今日はタマキさん達の力を借りたいことがあってきたんです」
「ま、とりあえず話は座ってからにしよう」
四人は居間に移動してそれぞれ椅子に座った。
「えーっと、昨晩例の次元の管理人から連絡があったんですけど、タマキさんとカレンさんに来て欲しいところがあるそうです」
「俺達に? どっか別の世界か」
「そうです、まあ俺とまもるさんが最初に行った世界なんですけど、なんかちょっと問題があるらしくて」
「へえ、それは面白そうだ。で、いつ出発するんだ?」
「すぐにでも、みたいです。大丈夫ですか?」
「俺は平気だ」
「私も大丈夫です」
「じゃあ」
それから要一はうつむいてなにか小さくつぶやいた。
「すぐに出発みたいです」
「ああ、じゃあちょっと書き置きだけ残しておこう」
それからタマキが書き置きをテーブルに残すと、すぐに四人は姿を消した。
そして、四人は森の中に立っていた。
「けっこう雰囲気いいところだな」
タマキは周囲を見回してから、カレンの顔を見た。
「そうですね。私の世界と少し似ている雰囲気があります」
周囲を見回す二人より先に要一は歩き出した。
「ついてきて下さい。近くに町があるので」
しばらく歩くと、四人は小さな町に到着していた。その町の入り口付近にいた少女が要一の姿を認めると、方向転換して走ってきた。
「ヨーイチさん! マモルさん!」
「エニス!」
エニスと呼ばれた少女は要一の目の前まで来ると、その目の前で急停止した。
「いつ戻ってきたんですか!?」
「まあ、ついさっきだよ。今回はこの人たちを案内するために来たんだ」
エニスはそこでようやく、要一とまもるの後ろにいるタマキとカレンに視線を向けた。
「あの、それでそちらの方達は」
「タマキさんとカレンさんだ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
タマキとカレンが挨拶をすると、エニスも落ち着いた様子になった。
「初めまして、あたしはエニス・スラナンです」
「エニス、オーラさんはいるかな」
「はい、今の時間ならギルドにいるはずです」
「ありがとう、それじゃ後で店のほうにも寄るから」
「じゃあ、ご馳走を用意して待ってますね」
エニスはその場から立ち去っていた。
「ギルドっていうのは何なんだ」
「魔獣討伐共同組合っていうのがあるんですけど、それの通称です。俺とまもるさんはそこと協力してこの世界の問題を解決したんです」
「国ではないのですね」
「そうです。まあ責任者のオーラさんはかなり有力な人だったんですけど」
「それは会うのが楽しみだな」
そして四人がギルドに到着すると、ちょうど異様に大きな剣をかついだオーラがその前に立っていた。要一とまもるに気がつくと、軽く手を上げる。
「久しぶりですね、ヨウイチさんにマモルさん」
「どうも、お久しぶりです。こちらはタマキさんとカレンさん、俺と同じように違う世界から来た人達です」
「ほう、そうですか」
オーラはタマキとカレンを見ると、すぐに微笑を浮かべた。
「なるほど、只者ではなさそうな方達ですね。私はオーラ・パラーシャ、ギルドの責任者です」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
タマキとカレンは簡潔に挨拶をした。要一はそれから口を開く。
「それでオーラさん、なにか問題があるって聞いてきたんですけど」
「その通りです。どうも最近魔獣になにかおかしなものが入り込んでいるようで、少し困っていたところでした」
「それなら、ちょうどよかったです。タマキさんもカレンさんもすごく強いですから」
「ええ、しかし、それは私が直接確かめさせてもらってもかまいませんか?」
オーラの言葉で一瞬その場が固まったが、すぐにタマキが笑顔を浮かべた。
「おもしろそうじゃないか。いいよな、カレン」
「はい。この方も只者ではなさそうです」
「では、場所を変えましょうか」
穏やかな微笑を浮かべながらオーラは歩き出した。