輝く白き獣王
タマキとオーゲンが集落に到着すると、そこには五名の上等な鎧を身に着けた兵士らしき者達がいた。オーゲンはその前にシルバーファングタイガーを飛び込ませると同時にそこから飛び降りて、その一団の前に立った。
「お前達は国の兵士か。さっきのあれはお前達の仕業だな」
オーゲンは兵士のうちの誰かが作ったらしい地面の大穴を見てから、そう言った。だが、兵士の一人はそれを無視するように一歩踏み出す。
「お前が何者かは知らんが、我々の邪魔をするならただではすまんぞ」
「この俺の相棒を見て、よくそんな口が叩けるな」
「おとなしく従わないのなら、実力行使も認められている」
その言葉を聞くと、オーゲンはため息をついた。
「タマキ、降りてくれるか。こいつらには少し教育が必要らしい」
タマキは黙ってうなずくと、シルバーファングタイガーの背中から降りて後ろに下がった。オメガデーモンも一緒にその後ろに下がる。
「それだけ強気ということは、お前達の中にも召喚獣使いがいるんだろ」
その言葉に兵士達はそれぞれ腰の袋から緑色の宝玉のようなものを取り出した。そしてそのうちの一人がにやりと笑うと、それを地面に放り投げた。
「これは?」
オーゲンがつぶやくと同時に、投げられた宝玉が砕け、そこから緑の煙が立ち昇った。そして、その煙の中から現れたのは五体の巨大な狼だった。
「行け、飢狼ども」
さっき笑った兵士が腕を振ると、五体の狼がオーゲンに迫った。だが、オーゲンは全く動じることもない。
「行け! シルバーファングタイガー!」
声とほぼ同時に、白い影が体当たりで五体の狼を吹き飛ばしていた。オーゲンの前に立ちはだかる白い虎は一つ雄叫びを上げて狼達を威圧した。
「この程度か」
オーゲンは多少失望したような声を出した。だが、その表情は剣を抜いた兵士を見て引き締まった。
「なるほど。そういうことか」
オーゲンは剣を抜き放った。
「俺も混ぜてくれよ」
そう言いながらタマキがオーゲンの隣に立った。オーゲンは横目でタマキの顔を見てすぐに視線を正面に戻す。
「殺すなよ。こいつらには聞きたいこともある」
「わかってるさ。おい、そっちの狼連中は頼むぞ。とりあえずここから引き離して片付けろ」
タマキはうなずいてからオメガデーモンに一声かけた。オメガデーモンは手を軽く上げてそれに応える。
「よし、行くぜ!」
タマキは気合を入れて一気に兵士達の中心に突進した。兵士はすでに散開していて、そのうちの一人が前に出てタマキに剣を振り下ろした。タマキはその一撃に合わせて拳を繰り出した。振り下ろされた一撃はその拳に弾かれ、兵士は体勢を崩す。
「よっと」
タマキはそこから一歩踏み込むと、その体が宙に舞った。さらにそこから伸びた足が兵士の顎を捉えた。
兵士は声も出せずにその場に崩れ落ちた。だが、着地したタマキに、すぐに左右から残りの兵士が迫る。
「おお!」
右からの攻撃は飛び込んできたオーゲンが遮り、タマキは左からの最初の攻撃をグローブで受けると同時に身体を回転させてその横に回り込むと、その勢いでもう一人の腹に蹴りを食らわした。
さらに横の兵士の首をつかむと、そのまま足をかけて地面に力づくで叩きつける。
倒した兵士を押さえながらタマキが顔を上げると、オーゲンもすでに一人の兵士を倒し、もう一人と向かい合っていた。だがそれも長くは続かず、オーゲンが兵士の剣を弾き、その股間を蹴り上げることで終わった。
タマキは兵士を押さえていた手を放して立ち上がった。だが、兵士達は意識を失っていないものも動こうとはしない。
「あとはあっちか」
立っている二人の視線の先では、五体の巨大な狼と、シルバーファングタイガーが向かい合っていた。オメガデーモンは少し距離をとっている。
まず二頭の狼が正面からシルバーファングタイガーに飛びかかっていったが、そのうちの一頭は瞬時に喉元を食い破られて消失してしまう。もう一体もシルバーファングタイガーの巨体に弾き飛ばされて地面を転がった。
残りの三頭はそれぞれ左右に分かれて横に回っていて、それが一斉に飛びかかった。だが、一頭は尻尾で弾かれ、残りの二頭はシルバーファングタイガーの身体に牙を立てようとするが、牙が毛皮を突き破ることはできず、あっさりと振り払われてしまう。
「今だ! シャイニングトルネード!」
オーゲンの声に反応し、シルバーファングタイガーが一つ吼えると、円状に走り始めた。それはどんどん速度を上げていき、輝く白い竜巻のようになっていく。
そして、その竜巻が残った狼を巻き込んで、それらを全て消し飛ばしてしまった。それからその竜巻は小さくなっていき、シルバーファングタイガーは元の場所で止まると、一声咆哮して姿を消した。オメガデーモンも同じように、いつの間にか消えていた。
「お前達の話を聞かせてもらおう」
オーゲンは剣を持ったまま、兵士達に笑顔を向けた。
数分後、タマキとオーゲンは武器を取り上げた兵士を一箇所に集めていた。
「さて、お前達の目的を聞かせてもらおう」
オーゲンがそう言うが、兵士の一人は地面に唾を吐いた。
「貴様等、こんなことをしてただで済むと思っているのか」
「どっかの兵士を叩きのめしたって、評判になるんじゃないか?」
タマキがそう言うとオーゲンは一瞬間を置いてから笑い出した。
「ハハハハハ! それはそうだ。フラウト皇国の兵士を叩きのめしたとなればさぞかし有名になれるだろうな」
フラウト皇国とはこの世界で最大の国である。という情報が予習をしてきたタマキの脳裏に浮かんだ。
「しかし、見たところお前達はそう下級の兵士というわけでもなさそうだし、本当になんでこんなところに来たんだ?」
オーゲンの言葉に兵士の一人は笑い声を上げた。
「お前等のような流れ者の田舎者じゃ知らないだろうな。皇国は今ある人物を探しているんだよ」
「それはなんだ」
「災厄の痣を持つ者だ。我々はそれを探している」
「災厄の痣っていうのは、一体何なんだよ?」
タマキが質問すると、兵士は首を横に振った。
「さあな。そうした伝説があると聞かされただけだ。だが、とてつもない力を持っているらしい」
「なるほどな、だが、この集落にはそんな者はいないぞ。無駄足だったな」
「そういうことだ」
オーゲンの言葉を引き取ってタマキが指を立てる。
「まあ、お前達はここで何も発見しなかったし、俺たちとも会わなかった。そういうことにしておけばお互い困らないだろ」
「ふん、取引とでも言うつもりか?」
「いいじゃないか。なあ、オーゲン」
「ああ、それでいい。だが、お前達にはもう一つ聞いておきたいことがある」
そこでオーゲンは声のトーンを落とした。
「さっきの召喚獣はなんだ。あれは普通には見なかったが」
兵士達は互いに顔を見合わせたが、それで何か意思疎通できたらしく、一人が口を開いた。
「いいだろう、教えてやる。あれは最近開発された擬似召喚獣だ。誰にでも使えて、量産もできるし、もっと強力なものもある」
そこで兵士はにやりと笑うと、その足元の地面がいきなり盛り上がった。
次の瞬間、なにか巨大なエイのようなものが兵士を乗せて現れ、急上昇していった。オーゲンとタマキはそれを見上げ、特に追おうとはしなかった。
「いいのか、このまま逃がして」
タマキが聞くとオーゲンは首を立てに振った。
「ああ、聞きたいことは聞けた。それに、そろそろこの集落からも離れようと思っていたところだ。奴等に追われることになったとしても問題はない」
「なるほどな。それは俺も同じだ」
二人は顔を見合わせると、互いに笑った。