最初の出会い
「さて、まずはどこに向かったもんかな」
道のど真ん中に現れたタマキは腰に手を当てて周囲を見回していた。
「まあ、とりあえず人のいるところに向かいますか」
その格好はシンプルな長袖とズボンに皮のジャケットを身につけ、マントに荷物袋という格好だったが、特に目をひくのは、両手につけている、拳の部分と手の甲が金属で補強されている皮のグローブだった。
「確かあっちの方に町があったよな、覚えてるか?」
タマキが首から下げている狼型のアミュレットに話しかけると、そのアミュレットが答える。
「そうだ、そこに行けば何かがわかるというのか」
「さあな、まあしばらくすれば自然とわかるっていう話だから、とりあえずはぶらぶらしてればいいんじゃないか。とりあえずは召喚獣っていうのを使う奴を探すか」
サモンとそれだけ会話すると、タマキは歩き出した。天気は快晴で遠くまでよく見渡すことができる。しかし、特に人影は見当たらず、目に入るのは動物だけだった。
それを見ながらのんびりと歩くこと約二時間。簡素なテントのようなものが並ぶ小さな集落のようなものが見えてきた。タマキは歩くペースを速め、その集落に近づいていった。
集落では人が動き回っていて、煮炊きのための煙も見える。そして、入口には犬のような生き物が何匹も繋がれていた。
それに気がついた犬にほえられながら、タマキは何気ない様子で集落にどんどん近づいていく。すると、何かの鱗でできた簡素な鎧をつけて剣を腰に下げて弓を持った男が現れ、その前に立った。
「旅人か?」
「そうだ、一人だよ」
男はタマキの周囲に本人以外いないことを確認すると、うなずいた。
「旅人は歓迎しよう。名はなんという」
「タマキだ。あんたは」
「俺はオーゲン、お前と同じだ」
「なんだ、あんたはこの集落の人間じゃないのか」
「ああ、しばらく用心棒をして一緒に旅をしているだけだ。ここは遊牧民の集落だからな」
「なるほど。ところで町まではどれくらいあるかな」
「このまま歩いていけば夕方には到着するだろう。だが、今日は休んで明日にしたほうがいいぞ。夜になったら危険も多い」
「そうなのか。俺もここにちょっと世話になってもいいのか?」
「お前は危険な人間には見えないし、かまわないだろう。こっちだ」
そうしてオーゲンに集落に招き入れられたタマキは、ゆっくりとあたりを見回した。集落にはゆったりとした服を着た人々がいたが、その数は多くない。
「今はほとんど遊牧に出ているんだ。だが族長はいるから心配するな」
オーゲンはタマキの疑問に先回りで答えた。
「へえ、まずはそこに挨拶か」
二人は特に何の変哲もないテントに入っていく。その中には、あぐらをかいて目を閉じている老婆が座っていた。
「族長、客人だ」
「ああ、わかっているよ。いらっしゃい、お客人」
老婆は目を開けると、にやりと笑ってタマキのことを見た。
「あんたはずいぶんと遠いところから来たみたいだね」
「まあな。俺はタマキ、よろしく」
「ゲンナだ。よろしく青年、歓迎するよ。なにかあったら用心棒を頼むよ」
「機会があったらな」
それからタマキとオーゲンはテントを出て、かまどの近くに行って腰を下ろした。
「しかし、特に武器はないようだが、それで一人旅は危険だろう」
オーゲンが聞くと、タマキは自分の両手を顔の前に上げて、金属で補強された部分を見せた。
「俺の武器はこれだよ」
「徒手で旅とは、大した度胸だな。その力を見せてもらいたいところだが」
「必要だったらな」
「だろうな」
そう言ってオーゲンは笑顔を浮かべた。
「ところで、なぜ一人旅をしているんだ?」
「まあ、自分の力を試してみたかったんだよ。一人だったら色々自由だろ?」
「それはそうだな。俺もそうして修行中だ」
二人はそのまま黙って座っていたが、しばらくしてオーゲンが立ち上がった。
「どうやら仕事らしい」
「何があったんだ?」
「俺の相棒が何か見つけたらしい」
「相棒ね。それは紹介してもらいたいところだ」
「すぐに紹介してやれるさ。こっちだ」
タマキも立ち上がると、歩き出したオーゲンの後をついていった。オーゲンは馬がつながれているところに行き、二頭の綱を解いた。
「馬には乗れるか?」
「まあ、一応」
それから二人は馬に乗って集落から移動を始めた。数十分後、小さな林の近く、特になにもない場所でオーゲンは馬を止めた。
「ここならいいだろう」
そう言ってから馬から降り、近くの木にそれを繋いだ。タマキもそれと同じようにする。
「特に変わったところはないみたいだな。いったい何があったんだ?」
「それはこれからだ」
オーゲンはそれだけ言うと、タマキから距離をとって振り返った。
「察しはついているだろう。お前は召喚獣を持っているはずだ、それを見てみたくてな」
「なるほど、それでわざわざこんなところまで。まあとりあえずそっちから見せてくれよ、オーゲン」
「もちろんだ、いくぞ」
オーゲンは右手をゆっくりと上げた。
「鋭き牙を持つ獣よ、その輝きで闇を照らし出すがいい! 駆け抜けろ! シルバーファングタイガー!」
セリフが終わると同時に、オーゲンの横に竜巻が発生しそこから巨大な白い虎が姿を現していた。タマキが見るところ、それは全長五メートルはあり、たくましく、凛々しいという言葉が良く似合う立派な白虎だった。
「立派なもんじゃないか」
「そうだろう、これこそが俺の相棒、シルバーファングタイガーだ。さてタマキ、お前の相棒を見せてくれ」
「よし、じゃあやってみるか」
タマキもオーゲンと同じように右手を上げた。
「今ここに混沌と破滅の使者を呼び起こす、現れろ! ドゥームデーモン!」
タマキが振り上げた右手を地面に叩きつけると同時に、そこから爆発が起こった。そして、その爆発がおさまり、舞い上がった爆煙が晴れてくると、そこには全身を漆黒の甲冑で包んだものが浮かんでいた。
「それがお前の召喚獣か。どれほどの力か楽しみだな」
「俺もだよ、始めようじゃないか」
まずシルバーファングタイガーが動いた。その巨体に似合わず、突進の勢いは凄まじく、あっという間に前足の鋭い爪がオメガデーモンに迫る。
だが、オメガデーモンそれを後ろに下がってかわすと同時に、火の玉をその顔面に叩きつけた。爆発が起こるがシルバーファングタイガーはそれをものともしないようすで着地した。
そして両者は再び最初と同じ距離をとった。
「やるな」
「そっちの虎もすごいじゃないか。図体のわりに動きも素早い」
「だが、それだけじゃない。行け! シャイニングファングクラッシュ!」
シルバーファングタイガーの牙が輝きながら一瞬で鋭く伸びた。次の瞬間にはその巨体が矢のように飛び出し、オメガデーモンに迫る。
「止めろ!」
タマキの声と同時にオメガデーモンは両手を前に突き出して魔力で盾を展開した。両者は激しい衝撃をその場に発生させて拮抗する。
だが、そこで集落のほうから爆音が響く。
「止まれ!」
オーゲンの声にシルバーファングタイガーは後ろに跳んだ。
「何かあったらしいな」
タマキがそう言うと、オーゲンもうなずく。
「そうみたいだな。すぐに戻ったほうがよさそうだ」
それからオーゲンはシルバーファングタイガーの背中に登った。
「タマキ、お前も乗れ。このほうが早い」
「そりゃ楽しみだな。お前も乗れよ」
タマキの言葉に オメガデーモンはシルバーファングタイガーの背中に立った。そしてタマキが背中に乗ったのを合図に、シルバーファングタイガーは猛スピードで集落に向かって駆け出した。




