隣り合った世界と力の制限
次元の管理人の元に戻った四人だったが、要一とまもるはすぐに自分達の世界に戻っていった。
それからタマキとカレンはその空間でしばらく過ごすことになった。特に何もない空間に次元の管理人が用意した部屋で二人は生活していた。家具などはタマキが実家から適当に持ってきたものを使い、食料もそうして調達している。
数日後、次元の管理人がその部屋に入ってきた。
「少し君達に話がある。君が最初に召喚された世界なのだが」
「何かあったのか?」
「どうやらあの世界で例の悪魔というのが動いているようで、次元の歪みが増大しているのだ。そこで君達にそれをなんとかしてもらいたい」
「待ってください。私達は十年以上はあちらに行けないはずではないのですか?」
「そうだったのだが、生じた歪みで時間の流れが変わってしまったのだ。すでにあの世界では十五年が経っているから問題はない」
「十五年か、そりゃまた」
タマキは驚いているようだった。
「でもまあ、それなら俺達が向こうに行って問題解決に手を貸しても問題ないわけだ」
「そういうことだ。悪魔の捕獲はまた彼に頼んでおこう」
そういうわけで、それからタマキとカレンは再びノーデルシア王国に戻ることになった。
そして、すぐに問題を解決すると、すぐに元の空間に戻ってきた。そこには鎖でオメガデーモンを捕らえた要一の姿もあった。
「これであっちのほうは心配なくなったわけかな」
タマキの言葉に次元の管理人はうなずいた。
「あの世界は本来安定しているから問題はもう発生しないだろう」
「一安心だな。ところでそいつはどうするんだ?」
タマキは要一が捕らえているオメガデーモンを顎で指した。
「本体と同じ堅牢な次元に幽閉しておくから心配はない。それより、また解決してもらいたい問題がある」
「今度はなんだよ」
「うむ、隣り合った二つの次元があるのだが、どちらも不安定で下手をすると衝突して消滅する可能性がある。それに、不安定な状況なので君達に本来の力を出してもらっては困る状況でもある」
「つまり、私達に力を抑えておかなければならないということですか」
「その通りだ。そして、その二つの世界の問題、次元を不安定にしていることは平行して解決しなければならない」
「じゃあ、俺とカレンで別々にやらないと駄目なのか」
「そういうことだ。強制はしないが、君達がやってくれると助かる」
「なるほどな、まあとりあえず下見とかさせてくれるか。なんの準備もなしっていうのもきついし」
「それならば問題ない。だが少し時間がかかる」
「別にいいよ。準備できたら呼んでくれ」
そこでとりあえず解散になった。そしてまともな時間ならば翌日、タマキとカレンは旅装を整え、次元の管理人のところに行った。
「さて、実際は別に行動するにしても下見は一緒でいいよな」
「それはかまわない。だが、時間は君達の主観時間で一つの世界につき一時間だ」
「ああ、すぐに頼む」
そしてタマキとカレンの姿は消えた。それから二時間後、二人は消えた時と同じ姿で戻ってきていた。
「俺は最初のほうに行ったほうがいいかな」
「それがいいだろう。最初の世界は召喚獣と呼ばれるものを使役する者が多い世界だ。そして後の世界は吸血鬼というものがいる」
「そういうのは最初に教えておいて欲しかったな。で、あっちの世界では俺達は正体を隠したほうがいいのかな?」
「そうだな。どちらも次元が不安定なだけに、異世界の存在が知られるのは問題の元になるだろうから、それは避けるべきだな」
「なるほどね、じゃあ俺は召喚術って言えばいいのか、それをなんとかしないとな。カレンのほうの世界は近代っぽいから、装備類の準備だな」
「はい。すぐに始めます」
「あと、設定だな設定。俺は田舎から出てきた腕自慢で、カレンは謎の賞金稼ぎとかどうだ?」
「わかりました、そういう方向で準備します。とりあえず私だけタマキさんの実家に戻していただけますか? あそこなら材料の調達も簡単ですから」
「ああ、俺はこっちで召喚術っぽいのをやっておくから、姉ちゃんによろしく」
「はい、それでは着替えてきますので、それからお願いできますか」
「うむ」
それからしばらくして、現代風の服に着替えたカレンがタマキの世界に行って、タマキは部屋にこもって召喚術っぽいものの準備を始めることにした。
「どうするつもりだ」
サモンの言葉にタマキは鼻の頭をかいて答える。
「実は前から考えてた魔法があるんだよ。まあ分身の術というか、そんな感じなんだけどな」
それからタマキが手を合わせると、目の前にその姿にうりふたつのものが現れた。
「これはなんだ?」
「お前がこれに入って動かすんだよ。まあ一部だし、大した力は出せないだろうけどな」
「ほう、ならば」
アミュレットから小さな虚無の塊が出現し、その分身に入り込む。すると、人形のようだった分身に生気が満ち、動き出した。
「なるほど、こういうことか。しかしこのままではお前と見分けがつかんぞ」
「そうだな、今回は同じじゃまずいか。ちょっと待てよ」
タマキが目を閉じると、分身の顔にフルフェイスの兜のようなものができ、その身体にも重装の鎧が身に着けられた。
「これで顔も体型もわからないだろ。いけそうか?」
「問題ないだろう。こんなものを我が身体とするのは不本意だが、ないよりはましだ」
タマキとカレンがノーデルシア王国に戻った話は「明日の王子 -ノーデルシアの勇者 第三章-」で書いてあります。