5話 新装?/真相?
私は麻黄さんのことをよく知らない。
最低限生活できるくらいの常識とかは既にあったし、
麻黄さんと話す必要性は無かった。
私という今の人格が麻黄さんがいなくても成り立っていたから、私から特別麻黄さんを必要とはしなかったんだ。
それでも彼は電車の上に飛び乗ってまで私を助けようとしてくれた。
麻黄さんがただ優しいのか、お金が貰えたからか、亡くなった妹さんの代わりにしたかったかなんて分からないし、もうどうでもいい。
ただこの世界で彼は、孤独で空っぽな私を求めてくれたんだ。
電車の上のあの瞬間、私に繋がりをくれた。
そのおかげでゆーちゃんとの繋がりも、到頭への繋がりもできた……気がする。
私は失った記憶を取り戻したい。
でも今ある私が私じゃないとか考えたくない。
これからできる経験も、人との繋がりも、全て私になるんだ。
思い出は繋がりだ。
思い出は私になるんだ。
数ヶ月間、うまく話すことはできなかったけど
まだきっと全然間に合うはずだ。
麻黄さんとも仲良くなろう。
麻黄さんとの思い出も作りたい。
……次に会うときは何から話そうかな。
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園田さんと口を使った食事の練習中
なんと類と王が現れた。
驚きのあまり好物のカレーライスをむせてしまった。
王のため姿勢を直しつつ、もう一度ちゃんと見る。
……やはり類だ。
『る、類!!!』
…………しまった。次に何を言うか全く考えてなかった。
まず何を話すべきか……類も到頭に入ったことか?
電車のときの話?王がいる前でどう話していいものか……
『久しぶりですね類ちゃん、覚えてますか?園田です』
先に園田さんが話し出した。よし、これに乗じて……
『………………………』
と思ったら類がなぜか黙っている。
面識があまりないとはいえ、園田さんを知らないわけでもないだろう。どうしたんだろうか。
その様子を見て次に王が口を開いた。
『……黒髪のほうが君の保護者であるマイク頭の麻黄天大、赤茶髪のほうが時折様子を見に来ていたサイレン頭の園田だよ』
『あっ、あーーー……』
俺と園田さんを交互に指差しながら、類はうんうん頷く。
『麻黄さんと園田さんかあ!気付かなかった!!』
……あそっか、顔割れてるもんな。分からないか。
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『……久しぶり、麻黄さん』
『タメ口でいいんだ類、麻黄か天大でいい』
『じゃあ……天大?』
『あぁ……それでいいよ、それがいい』
まるで喧嘩して仲直りしたみたいな会話をしてるなぁ。
てか電車のとき全然見えなかったけれど麻黄さ……
天大の顔ってこんな見た目なのか。
『ぼくはひとまず失礼するよ、仕事があるからね』
王はそう言うと、食堂の外に出ていった。
もしかしたら話しやすいように気を利かしてくれたのかもしれない。
そこからは私と天大と、園田さんとの3人で雑談が始まった。
どうやら園田さんが天大に能力の稽古をつけてたらしい。
だから顔が割れてるんだと。
『えっ顔が割れるのって覚醒のときだけじゃないんだ!
意図的に割ることができるの?』
『さっき麻黄さんに訓練させたけどね、
上手くコントロールすると出来るようになるんだ。
でもただ割るだけじゃない、必殺技みたいなものだよ。』
『へぇー……私みたく既にこの顔をしてたらさ、
どう割れるんだろ。パッカーンって裂けるのかな』
『パッカーン……』
『たまに類って怖いこと言うよなー』
『えっそう?』
『言ってる言ってる。俺と2人で暮らしてたときもな、
テレビ番組に興奮して、口がとんでもなく悪くなって……』
『そんなことあったっけ〜ウッソだー!』
『類はかなり物騒だぞー』
正直、天大とこんな他愛ない会話ができると思ってなかった。もっと難しいことだと思っていたけれど、すんなりだ。
それに私の知らない私を見てくれてる人がいるんだって、話してみて実感してきた。嬉しかった。
数ヶ月も一緒に過ごしてきて、今やっと天大という人を知れてきた。知って天大と新しい思い出が作れると思えてきた。
知るってことは、こんなにも私に繋がるんだな。
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天大がカレーライスを食べ終わったころ
園田さんがこんなことを言った。
『ちなみに到頭に入ってからの任務は
ほとんどが2人組のバディで行われます。
類ちゃんや麻黄さん、あなた方は最初のうちに
色々な人とバディを組んでみてください。
明日以降しばらく2人は別々の仕事です。』
『……俺と類の2人組じゃだめですか?』
『2人はまだ新人ですから。
まだ慣れるまでは、こうするしかありませんよー。
ま、1人前になれば自由に2人組を組めるように
なったりならなかったり……といった感じです。』
『……そうですか』
天大はとても悲しそうな顔をしてる。
いまは表情が分かるぶん、より強く悲しみが伝わる。
それだけ私を大事に思ってくれてるんだろうか。
理由はどうあれ嬉しく感じる。
『……もしよかったらさ天大、
今日は2人でここの施設を探索してみない?』
ただの思いつきで言ってみた。
けれどもこういう思いつきこそが大事なのかもしれない。
人との繋がりってのは何も、重い決断ばかりじゃないと思うし。
『類……あぁ、一緒に歩き回ってみよう。
何か面白いものが見つかるかもしれないしな……!』
こうして園田さんと解散し、
今日は天大とそこら中歩き回ることにした。
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またまた階段を上がったり下がったり……
それを繰り返しながら建物の中を散策していく。
天大はというと、私と雑談しつつ
歩幅を合わせようと何度も私の足元に目をやっている。
なんだか懐かしい光景だ。
『そういえば天大の能力ってどんなだった?』
『あー……んー……なんというか、どう説明すれば……
とりあえず今のところ腕が4本になるな』
『へ?腕が4本??今のところってことはさ、
足とか頭なんかもそのうち増えるわけ?2倍に?』
『俺のが増えるんじゃ……』
と天大が説明しようとしたタイミングで
向かい側から誰かが走ってきた。
『あんれぇ!こんなとこにいたのぉ!!』
石井だ。あのカメラ頭の。
なにやら白い、畳まれた布を持っている。
服かな。
『探してたんだよぉ!るーちゃんさぁ!
明日の任務についての書類と〜、君用の自室の鍵と〜……』
一体どこに持ってたんだろうか、
ぽろぽろ石井の手から色々出てくる。
『ほい!君の制服!』
……!制服!!ほしかったやつだ!
いつの間にか天大も黒いスーツ着てたし!
私も貰えるかなー!貰えるよなー!って
ワクワクしてたところだよ!!!!!
ついつい鼻歌を歌いながら、
渡された服をすぐテキパキ着ていく。
ふんふん〜♪ふんふん〜……
ふんふん……
白くない?これ
しかもスーツっぽくない……
『これ白いし、ただのパーカーじゃん』
『あんれぇそうだねぇ!
でもでも王がソレ渡せって言ったんだよぉ?』
……このカメラ頭は前科があるからな。信じられない。
『ちなみに類の任務って、どんなのです?』
私がむぐむぐ言ってるところで天大が口を開いた。
『類の初任務のバディは忍者って聞いたよぉ!
ニンニンってねぇ!』
『『ニンジャ??』』
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『では報告を始めます』
白衣を着た男が書類をペラペラとめくりつつ
王に言った。
『突如として現れはじめたあの"茨の化け物"……
言いやすいよう、この報告では"茨"とさせていただきます。』
『わかった』
『カメラで初めて確認されたあの茨は、日本全体かつごく短い時間で、現実的に移動が難しい距離を動いているように見られました。』
『具体的には?』
『えー……北海道で18時頃に確認された直後、東京駅内にて18時5分頃にまた確認されました。』
『そりゃあ、現実的とは言えないよなうん』
『我々到頭が扱う"能力者の保護"に関わるものとして、各所複数のバディにより調査が始まりました。』
『で結果は?』
『ほとんど得られませんでした。
が、ここ最近になってあの麻黄類の住む街付近で多く確認されるようになり、カメラから見える茨の様子から……麻黄類を中心として出現するのでないか?と考察が建てられました。』
『それで結局、襲われたんだったな』
『王……よりにもよって貴女が、麻黄類を囮にする作戦を立案するとは思いませんでした。』
『…………』
『結果、被害がなかったとはいえ、麻黄天大が覚醒しなければ事態はもっと悪化していた。
いやそもそも、麻黄類が不死身なんて都合の良いことがなければ……もっとひどいことになっていたでしょう。』
『………すまなかったな』
『王……貴女が数ヶ月前、記憶喪失の麻黄類を発見してから……様子がおかしく見えるんです』
『………』
『能力が不死身だったといい、発見者が貴女だったといい、茨が麻黄類を狙っていた理由といい……
不審な点が多すぎます。』
白衣の男はゆっくりと書類をまとめ、一礼した。
『私たちは王のもとで働くことを嬉しく思います。
ですが、いくら王に信頼を寄せようと納得は必要です。』
白衣の男はそう言うと、扉のほうへ歩いていく。
男は部屋から出る際、また口を開いた。
『またいずれ……話す用意が出来たら教えて下さい。
私たちは待ってますから。』
バタン……と白衣の男は部屋から出ていった。
『ふぅーー…………』
王は眉間を押さえながら悩んでいた。
『ぼくは一体どうしたらいいんだろうな……
アラン……君にまた会いたいよ』




