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愛恋火  作者: うなぎ358
4/4

4、同窓会


 入場券代わりの封筒を見せて、名前の書かれた用紙に丸をつけて会場に入った。壇上の達筆な文字で書かれた●▲中学校同窓会の垂れ幕が大きくて、やけに目立つ。


「へぇ。なかなかいい感じじゃない。お料理も美味しそうよ」


 建物の外観は純和風なのに、この大広間は柔らかな緑の絨毯が敷かれ丸テーブル並んでるといった感じの洋風だ。レースのテーブルクロスの上には様々な料理が所狭しと並べられていた。


「立食形式ですか。ボクは座って落ち着いて食べる方が好きですね」

「……僕も座って、食べたい」

「俺は食べられれば何でもいいぞ!」


 しばらくすると拍手が起こり、学年代表の女性が、お約束のような内容の挨拶を壇上で話し始めた。手元をチラチラ見ながらだから、事前に書いておいた文章を読んでるんだろう。


「こう言う挨拶って、なんでいつも無駄に長いんだろうね」

「ハハハ……。しかも大体、内容は変わらないよな」


 「二十年と言う節目の年に再会を〜……」から始まり、すでに十五分は経ってしまっていた。まだまだ終わる気配はない。しっかり話を聞いてそうな者たちもいるけど、飽きて仲間と談笑しながら料理をつまんだり酒を飲んだりしてる者も少なくない。


「それではお食事を楽しんでくださいね。旅館の二階にはカラオケルームもありますから、どうぞお気軽に二次会に使ってくださいませ!」


 パチパチパチパチ! 拍手と共に、ようやく挨拶が終わった。この女性は実に三十分以上はしゃべっていた。


 守子たちはどこだ? と見回すと、オレ抜きで盛り上がっていた。人数も増えてる。たぶん中学時代のクラスメイトなんだろうけど、いまいちピンとこない。


「オレって、こんなにも記憶力、無かったか? それになんか変じゃないか?」


 なんとなくだがオレの存在自体が薄い気がする。誰もオレに話しかけてこないし、まるでオレが見えて無いかのように目の前を通り過ぎていく。奇妙な不自然さを感じながら、テーブルに並ぶ料理をつまんでいく。


「腹も膨れたし帰るか……」


 仲良かったはずの守子たちとも話す話題が見つからないしと会場をあとにした。旅館に泊まるつもりは最初からないので、便所に行ってから実家に帰ろうとロビーを抜けたところで守子たちを見かけ立ち止まる。


「露木くん、イメージ変わったと思わない?」

「う〜ん………どうなんだろうな?」

「鉄男はあまり考えてなさそうですからね。ボクから見て、露木は不自然なほど歳をとってない感じはしましたね」

「僕は……別人に、見えた……」


 思わず柱の影に隠れて、守子たちの話声に耳を傾ける。


「それにね。露木くんって●●●●はずなのよ!」


 は? オレが●●●いた? なんだそれ? オレはココにいるぞ?


「そうだったかな? 昔のことは忘れた」

「本当に貴方は平和な人ですね。当時の新聞にも載ってましたよ」

「……小さい記事だったけどね」


 まさか昨日みつけた記事に関係するのか? 一体どういうことなんだ? 意味が分からない。じゃあ、オレはナニモノなんだ?


 キィーン……ッと耳鳴りが脳内にまで響き、ズキズキ痛みだした頭を両手で抱えヨロヨロとロビーのソファまでいくと座りこんだ。


「どうかなさいましたか?」

「……あーと……大丈夫、少し休めば治るから……」


 グラグラする頭で、なんとか返事をする。心配そうに覗きこんできた女性は、オレが大丈夫だと思ったのか、さっさと立ち去っていった。


「……ッ。とは言った……けど、ぜんぜん……大丈夫じゃねー……よな」


 呼吸も息も荒く、額や脇だけじゃなく身体全体の毛穴から汗が吹き出して立ち上がるのさえ、ままならない。


「ハァ……ハァ……」


 うずくまっていると、首筋にヒヤリと冷たいモノが押し当てられた。反射的に体がビクッと震える。


「驚かせてごめなさい。やっぱり心配になったので戻ってきてしまいました。売店で買ったタオルと、あとこれ飲料水です」


 オレの手をとってタオルとペットボトルを握らせてくれる。ひんやり冷たいボトルはオレの心を少しずつ落ち着かせてくれた。ゆっくり深呼吸をしてから、ゆるゆると顔を上げる。けど、その時にはもう女性の姿はなかった。


「お礼、言えなかったな……」


 握ったままのペットボトルの、キャップを開け一気に水を飲む。思ったより喉が渇いていたようで飲み切ってしまった。



〉〉〉4ノ裏、お葬式


 X旅館から、歩いて十分ほどの二十四時間営業のファミレス。同窓会の二次会が終わる頃には夜十時を回ってしまっていたから、ここしか開いてる店は無かった。あまり人に話を聞かれたくないので、店内の一番奥に座る。とはいえ田舎なのでアタシたち以外の客は二組だけしかいない。


「やえ子、急に来てもらってごめんね」

「親友の頼みだもの。どこからだって飛んでくるわ」


 どうしても気になることがあって新聞社に勤める友人、朝香やえアサカヤエコをメールで呼び出した。


「ありがとう嬉しい。でも仕事は大丈夫?」

「平気よ。それより守子、顔色が悪いよ? 一体、何があったの?」

「う〜ん……。まだ何かあったわけじゃないんだけど、とりあえずコレ見て」

 

 ハンドバッグから、手帳を取り出して中ほどに挟んであった紙片を、向かい側に座るやえ子に渡す。当時コピーしたモノだから既に茶色く変色してるけど読むことはできるはず。


「かなり古い記事ね。【露木竜志(15)が●▲中学校、校庭内にあるプールで溺れた状態で発見された。真冬に一人でプールに入ったとは考えられないため事件と事故の両面で捜査中】日付は二十年前の三月二十五日」


 やえ子は指先でつまんで声に出して読む。たぶん自分たちに関係がなければ流し読みするだけで印象にも残らないだろう、名刺ほどの小さな記事。


「それ未解決なの。でね。死んだはずの露木くんが同窓会に現れたのよ!」

「なるほどね。でも死亡とは書いてないから、もしかしたら助かってたんじゃない?」

「だったら葬式はしないはずよ? あのお葬式は間違いなく【露木くんの家】だったわ。それにアタシの同級生も変だって言っていたの」


 洋二の「貴方は本当に露木竜志なのか?」という問いかけを思い出し、ゾクリッと身体が震える。店の中は暖房が効いて今はそんなに寒くはないはずなのに、カタカタ手足が小刻みに揺れて止まらない。


「分かったわ。調べてみる。この記事もらっていくわね。それと今の彼の写真ある?」


 アタシの異変を感じたやえ子は、立ち上がり隣に座って肩を抱いて手を握ってくれる。やえ子の温もりがじんわり伝わってきて、少しずつ震えがおさまってきた。


「同窓会で写メは撮ったよ」

「じゃ、それメールで送って」


 頷き、テーブルの隅に置いてあったスマホを手に取って、やえ子に送信する。


 ピロピロリン。


「……この人」

「知ってるの?」

「知ってると言うか……二度ほど見たことがある……かな」


 考えこむように難しい表情で、やえ子はスマホの画面を凝視する。

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