審問
翌日、ドルーネンでの鎮魂式は、いつもよりも多くの人々が参列し、重々しい空気の中で行われた。
今回の『ふた首』による魔物たちとの戦闘では、犠牲者の数が比にならなかったからだ。
金の獅子団からも、4人の死者が出ていた。
アイエルが横目にジエスを見る。
ジエスは心痛な面持ちで、祭壇を向いていた。その瞳は、やるせなさと共に、誰よりも自分への怒りに満ちている様だった。
「…では、黙祷を」
ジエスもアイエルも、喪くした命へと祈りと弔いを込めて、瞳を閉じた。
ジエスも頬にも、涙が流れた。ここで、何度、自分の不甲斐なさを噛み締めて来ただろう。ここでどれだけの仲間を見送って来ただろう。もう、数え切れなかった。
献花が済むと、ジエスとアイエルはお布施を渡して、いつものように教会を後にした。
いつもと違ったのは、その後だった。
その直後、教会から慌てた様子で数名の法衣の男たちが、2人の方へと追いかけてきた。
教会から出てきた男たちは、アイエルを取り囲む。
「アイエル・ライトマンだな?」
「おい、うちの団員に、何のご用向きだ?」
ジエスは、その男たちを睨みつけるのだが…
――やっぱり来ちゃったか…
「いいの。団長、先に帰ってて…」
アイエルは憤るジエスを静止した。その声は、いつものアイエルとは違う、物静かで、どこか冷ややかなものだった。
回復術師の礼装のまま、そう告げる彼女は、まるでジエスの知らない女性のようだった。
「…審問ですね、お伺いします」
短くそう言うと、アイエルは男たちに続いて、教会へと入っていった。
教会の中、聖堂ではまだ多くの人たちが、戦いで犠牲になった人たちへ、哀悼の祈りを捧げていた。
アイエルはその横の通路を抜けた、その奥の部屋へと通される。
その部屋にはドルーネンの街付きの僧侶と共に、隣にはより豪奢な法衣をまとった男が立っていた。どうやら、教会でも位の高い、高僧のようだ。
口を開いたのは、豪奢な法衣をまとった高僧のほうだった。
「アイエル・ライトマン、『首盗み』の治癒士か…」
高僧の高圧的な態度と敵意に満ちたその言葉に、アイエルはビクッとすくみ上がった。
「此度の嫌疑の程は、分かっているな?」
高僧の言葉に、アイエルは用意してある物を差し出した。ここに呼ばれた理由は、もう分かっていた。
「…はい、ここに、お持ちしております」
アイエルが取り出したのは、緑の星が2つ付いた腕章と、白の星が1つ付いた腕章の、2つだった。
今回の審問は、ドルーネンの戦場でアイエルが付けていた緑の星2つの腕章が原因だった。
回復術師は、人命を担う性質上、教会での階級の序列は特に厳しい。
階級は、白の1と2、緑の1と2、金の1と2に分けられており、その色と星の数で等級が分けられている。
アイエルの今の階級は白星の1。回復術師の等級では1番下に当たる。
今回のドルーネンの戦場でアイエルが緑の星2つの腕章を使ったのは、野戦療院と戦場との距離が遠すぎたからだった。
現地での治癒士たちの連携が必要だったのだが、バラバラな治癒士たちを取りまとめるために、アイエルは等級の高い緑の星2つの腕章を使わざるを得なかった。
戦場では口調と仕草で必死に、ずっと素性を偽っていたのだが、それが教会にバレたのだ。
「…ぬけぬけとっ!!腕章の偽る事が、大罪と知っての事かっ!!」
怒鳴り声に、アイエルは、またビクッと身をすくませる。
「さすがは『首盗み』、団員の教育も見事なものだ…」
そういうと、高僧は嫌味ったらしく、下卑た笑みを浮かべる。
高僧の皮肉にアイエルは、唇を噛む。
――泣いちゃダメ…泣いちゃダメ…
必死に自分を奮い立たせるアイエルに、更に高僧は続けた。
「こんな事を許しておくなど、『首盗み』の治癒士は、その体で寝所での働きもさぞかし見事な物なのだろうな」
アイエルの体を舐め回すような目で、高僧はおぞましく言い放つ。
12歳のアイエルに、その全ての意味を理解する事は出来なかったが、ニュアンスだけは伝わっていた。
――また、体の事言われてる…
アイエルは、より一層、唇を強く噛んだ。
――ダメ…泣いたらダメ…
必死に堪えるアイエルに、高僧は無情に言い放った。
「アイエル・ライトマン、そなたを教会の定める規定により、公認回復術師からの除名と致す」
「はい、慎んで、ご意向のままに…」
高らかに宣言する高僧に、アイエルは、除名処分を力なく受け入れた。
高僧はにべも無く、アイエルの腕章を暖炉の中に投げ入れる。アイエルが大切にしていた腕章が、炎の中で散っていく。
「この程度の沙汰で済むのは、せめてもの慈悲だ。下がれ、汚らわしい」
そう言って、アイエルを部屋から追い出した。
アイエルは、呆然としながら、教会を後にする。
先程までの心無い非道な仕打ちに、暫し現実をを飲み込む事が出来ず、その表情は虚ろなものだった。
「アイエルっ!!」
教会の外で待っていたケティアは、ようやく外へ出てきたそんな我が子を、力いっぱいに抱きしめた。
泣くのを必死に堪えていた、アイエルの張り詰めていた糸は、そこでプツンと切れた。
それは、まるで、ようやく母を見つけた迷子のように…
「…ママ…ママ…っ!!ママぁっ!!」
娘は母の首にすがりつくと、大粒の涙を流して、泣き叫んだ。
「…大丈夫。…もう、大丈夫だからね」
教会の前の通りには、アイエルの泣きじゃくる声が響いていた。




