みんなで、家族で、
ひとしきり泣きじゃくったアイエルだったが、その後は、宿に帰ると正装のままぐったりと寝てしまった。
部屋に寝かしつけたケティアは、事の顛末をジエスに告げる。
ケティアの顔は、酷く疲れたようで、やつれていた。
「…どうやら、教会に、公認回復術師の除名をされたようです」
その言葉に、ジエスは耳まで真っ赤に染めて、憤慨した。
「なんだってんだ!!アイエルがどんだけの兵士を救ったと思ってやがる!!」
怒りを露わにするジエスを、ケティアはシーっと鎮める。
「団長、アイエル起きちゃいます…」
「ああ、すまん…」
公認を解かれる可能性は、アイエルも分かっていたようだ。
それでも、式に参列していたのだ。
それは、アイエルにとって、どれだけの恐怖だっただろうか…
――それで、昨日は一緒に寝たかったのね…
その事を誰にも告げずに、必死に耐えていた娘のいじましさに、ケティアの目頭は熱くなるが、涙を流すのを必死に耐えた。
娘はどうしようもない恐怖の中で、審問を耐えきったのだ。自分が今ジエスの前で涙を流すべきではない思ったからだった。
「どうする、さっさと街を出ちまうか?」
「怪我人も多いですし、急には無理でしょう」
冷静に言うケティア。内心は、アイエルを思えば早くこの街を出ていきたい思いは痛いほどだったが、考えなければならない事、やらなくてはならない事は山積していた 。
ジエスにもそれは分かってはいたが、どうしても、感情を鎮めることが出来なかった。
「だが、それじゃあ、アイエルが!!」
「…私なら、大丈夫だよ」
頭を悩ませる2人に、起きてきたアイエルが後ろから声をかける。
その声は、まだ弱々しかったが、しっかりと意志を伝えようとしていた。
しかし、娘の真っ赤に泣き腫らした目は、母の胸をまたつまらせる。
「ねぇ、ママ…」
アイエルは力なく、言葉を繋いだ。それは、ケティアとジエスにとって意外なものだった。
「エーシエお姉ちゃんのとこ、行きたい…」
「おい、医療院は…」
エーシエが入院している医療院は、教会直属の機関施設。つまり、そこで働く者たちは皆、公認回復術師、もしくは教会の関係者だ。
今のアイエルが行くには、あまりにも酷な場所だ。止めようとするジエスだったが、先に、ケティアは答えた。
「いいよ、行こうか」
「おいっ!?」
その言葉に、アイエルはゆったりと微笑む。
「うん、用意してくるね」
開いたドアの前で、アイエルは呟く。
「…ママ、ありがとう」
コンコンっと病室にノックの音が聞こえる。
エーシエは体を起こして答える。
「はい、どうぞ」
治癒のおかげもあり、その声は昨日と比べると、だいぶ張りをとりもどしていた。
そこに居た2人は、エーシエにとっては意外な人物だった。
「ケティアさん!?それにアイエルちゃんも!?」
「えへへー、来ちゃった〜♡」
いたずらっぽくおどけて笑うアイエルだったが、すぐにその目を曇らせる。
「ごめんね、手、どうしようも無くて…」
そんなアイエルに、エーシエは首を振る。
「ううん、アイエルちゃんが居なかったら、ユービス君とまた会えなかったから…」
エーシエは、真っ直ぐにアイエルを見つめる。
「…本当に、ありがとう」
その言葉は、アイエルを優しく包み込む。
言いようのない、その気持ちに、思わず言葉が漏れた。
「お姉ちゃん…」
アイエルは、その身を気遣い、そっと抱きしめる。エーシエは残った右手で、その髪を優しく撫でる。
ケティアはアイエルを撫でるエーシエの腕に、見覚えのある腕輪を見つける。
それはエーシエが無くしてしまったはずの腕輪。
それを無くしてしまった事は、アイエルから聞いていた。
「その腕輪…?」
「あ、これですか…」
そんなケティアに、エーシエはクスっと笑う。
「ユービス君が、貸してくれたんですよ」
「…貸して?」
「ええ、必ず返して貰いに戻るから、今度は絶対に無くすなって」
エーシエは、そう言って目を細める。
「どこにいても、必ず帰ってくるからって」
その言葉に、ケティアはアイエルごとエーシエを抱きしめた。
言葉にならない思いと共に、母は、愛する娘たちを抱きしめた。
「約束守ってくれて、本当にありがとう…」
「…はい、これからも、ずっと守りますから」
ケティアは、そっと目を閉じた。
「おーい、水貰って…おわっ!?」
病室へと戻ってきたユービスは、何故か抱き合っている母と妹と恋人の3人に、思わずたじろぐ。
「え、なんで!?」
そんなユービスに、3人は顔を合わせると、クスクスと笑い合う。
「ユービスも、おいで」
「なっ!?そんな、俺は」
手を伸ばしたケティアに、ユービスは一度は断るのだが…
口を尖らせ、不満げな顔のエーシエが、ケティアに援護射撃を始める。
「やだ、ユービス君も一緒にやるの!!」
「えっ!?あっ!?なっ!?」
「ほら、早くっ」
ユービスは戸惑っていたが、渋々、エーシエのワガママに訳も分からずに従う。
「…ああっ、たくっ」
ユービスの大きな体が、3人を包み込む。
「えへへー、この感じ、久しぶりだね」
「暖かいね…」
「なんなんだよ、これ…」
嬉しそうに無邪気に笑うアイエル、満足げなエーシエ、訳もわからず困惑顔のユービス。
ケティアは、愛する家族たちの温もりを、めいっぱいに味わうのだった。




