煙
博物館の展示が見終わった後、私たちは役人の案内で指令室にたどり着いた。
そこは講堂みたいな斜めに降りていくオフィスだった。座席は等間隔に設置され、それぞれ専用の操作端末があり、老若男女キーボードを打ち込みながらモニターを睨んでいる。
階段を降りて全体を見渡される最下部にいくと、白髪に白髭の軍服男性と、華奢で褐色肌を男性が直立して待っていた。
私服姿の私たちに、業務を行っていた彼らが手を動かしながらこっちを見ている。
――なんか、やけに視線を感じるな。
「お時間をとらせてすみません。私はピアートの宙域の総督ゴルグです」
「補佐官のオシヤと申します」
私たちもおずおずと頭を下げた。
褐色の男性である秘書官のオシヤさんは、人懐っこい笑みを浮かべて、
「お会いする時間が遅れて申し訳ありません。展示物はどうでしたか?」
「どれもすごく楽しませていただきました!」
「それはよかったです。我々としては、先人を切った二方の後追いにすぎません。ここにいる誰もがツクモさんとミュートさんを憧れておりますよ」
全員に聞こえているのか、周囲の作業員さんが一斉に立ち上がって私たちに会釈した。
わわわ! 滅相もない!
慌てておろおろするが、彼らは冷静に業務に戻った。
「もしトネリコの業務が終わった暁には、この基地に務めることもお考えください。重要なポストを約束しますので」
「え、あ――」
まったく考えていなかった。返答に困っていると、ミュートさんが前にでた。
「何の用で呼んだ?」
「これは失礼しました。お二方へのおもてなしです。ピアートへ行く前に、こちらでごゆっくりされてはどうかと。くつろげるお部屋と、些細なものですがお料理をご用意しております」
私はミュートさんの脇から顔をだすと、
「何の仕事もしてないんですけど、いいんですか?」
「もちろんですとも。お二人は大切な客人です。セレモニーまでお楽しみください」
私はミュートさんの顔を見上げると、表情が強張っている。偉い人の前だから緊張しているのだろうか。でも、そんな性格かなぁ。
「ところでピアートにはいつ来訪されますかな?」
総督であるゴルドさんが髭をなでながら訊いた。真っ白い、ハの字の立派な髭!
「ピアス政府から2週間の接遇を受けている。ただ、国費を食いつぶすだけだから、一週間前に入国して式典後に帰るつもりだ」
「……みたいです」
いつもなら私が説明するのに、わざわざミュートさんからいうなんて珍しい。
そもそも、今回の100周年セレモニーの招待はやたら私に情報が少ない。ほとんどのことはミュートさんに伝わっているのだけど、そのことを尋ねたら、
『ツクモにサプライズがある。楽しみにしておけ』
というのだ。
ミュートさんのことは信用しているから何も訊かないけど、気分はお姫様気分だ。
「あとで入国予定日をオシヤ秘書官にお伝えください、そこからピアス政府にお伝えしておきます。私は業務に戻るので、これにて失礼します」
「ツクモ様、ミュート様。どうぞこちらへ」
オシヤ秘書官は丁寧に頭を下げた後、出入口まで階段をゆっくり歩いた。通路脇で業務をしていたデスク担当は、謎のデータやオーリスの映像を見つめている。すごい、いっぱい調べてるなぁ。
廊下にでて視線がなくなると、オシヤさんが手をだして握手を求めた。
「すみません、正直お二人に会えるとはおもってもみませんでした。私の名はオシヤ・バージニア。じつはいうとミレイヤの親戚にあたるのです」
「そうだったんですか!」
「はい。ミレイヤ様は多大な多大なご貢献をされていたと、我々も認識しております。その御友人と会えるとおもうと感動でなりません」
私とミュートさんは呆れながら目を合わせた。
たしかにミレイヤさんとは友人の仲だけど、最初の頃は敵対視してたよなぁ。
「あの人は元気でやっていたでしょうか?」
「私の伯母でしたが、直接の指導は受けておりませんでしたが、大変気配りができた方と記憶しております」
そっか……。トネリコにいるときと変わらずに生きていたんだな。
少し悲しいけど、ミレイヤさんが健やかに人生を全うできて嬉しくなった。
廊下を歩く途中、人気がいなくなったときにオシヤさんが立ちどまった。
道に迷ったのだろうか。暢気にそうおもっていると、振り返って厳しい顔つきを向けた。
「ツクモ様、ミュート様。一つだけ、忠告いたします」
「な、なんでしょう……」
うぅ、怖いな。失礼なことやっちゃったかな。
「いまは世相が荒れております。くれぐれもお気をつけください」
「物騒だな」
ミュートさんも険しい表情に変わる。
「仕方ありません。住める土地があると多くの欲望が動きますので。ただ、あの方が生きていれば、さぞ嘆いておったことでしょう」
オシヤさんの瞳が曇った。
それからまた踵を返して、客室に案内してもらう。
私は胸のうちのわだかまりを消化したくて、隣を歩くミュートさんの腕を取って立ちどまらせる。
ん? と、不思議そうにこっちを見る彼に、私は背伸びをして耳打ちした。
「――なんで人は宇宙の暮らしに満足できないんだろうね?」
「俺に聞くな。俺は海底か地底に住んでいたい」
尋ねた人を間違えたか。
まぁ、私も細かく分類すると人類でなくフェアリーだ。人の気持ちがわからないものかもしれない。
人が争う理由をちっともわからなかった。




